目指せ大英雄!!~平凡戦士のルカは今日も最強でした~

有角弾正

第1話 ルカとカイの旅立ち

 俺の名前はルカ=トゥルス。先週十八歳になって、ようやく冒険者としての登録を済ませ、憧れの【戦士職】についたばかりのちょっとハンサムなだけの田舎モンだ。


 俺は物心ついたガキの頃から、このなーんもねぇ農村がイヤでイヤで、ツレのカイ=オンタリオ【魔法使い職】と、テキトーに魔物を退治してモテモテ、そのうえハデに金を稼げるっていう、そんな英雄みたいな大冒険者に憧れて故郷を飛び出してきたんだ。


 んでもって、二、三日歩いて冒険者として初めてのクエストってヤツを、今さっきこの《ソクトン》って村の冒険者ギルドでもらってきたとこだ。


 そんでテキトーに宿をとって、今その酒場兼食堂の席で、相棒のカイと向かい合ってクエストの指示書と地図を広げ、そこに目をおとしている。


 この【カイ】は、初対面のヤツがちょっと見りゃ、ん?コイツぁ女のガキか?って見間違えそうな、そんなキレイな顔を不安でいっぱいにしていた。


 そんで、きゃしゃで小柄な体をすくめ、ローブの胸のポケットに収まっている、手のひら猫の【サボテン】のネズミみてぇな頭を人差し指で撫でていたが、急に顔を上げた。


「だ、大丈夫かなぁ?いきなりオークにさらわれた女の子の救出だなんて…」


「はっ?よく聞こえねぇ」


「いや、えーと…ボクもルカも初めての冒険で、こんな30はくだらないオークの群れ相手にまともに戦えるのかなぁって…」


「へっ!んなくだらねぇ心配すんじゃねぇっ!このルカ様にゃ天下無敵の超絶能力があんのを忘れたのか?なぁカイ、この俺様が一度でもケンカに負けたことがあるか?」


「そ、そりゃルカは負け知らずで通ってきたけど、それはボクたちの育った村でだけの話でしょ」


 カイはいつも通り、黒い短髪の長めに伸ばした前髪を神経質に引っ張って言った。


「けっ!あの俺たちみなしごをつまはじきにしてきた村のことは思い出したくもねぇっ!」


「そ、そうだね…。あ、それより、ボクたちには大人の強い仲間がいて、少し遅れてこの村に来るってウソをついて、こうしてなんとかクエストはもらえたけれど…」


「けれど、なんだ?」


「う、うん。だからさ、最初からこんな魔物退治なんかより、もっと安全なクエストの方がよかったんじゃないかな?って…」


「おいおいカイ!んじゃ、あそこに貼ってあったレベル1のクエストのナンとかって森に行って、《珍しい木の実を拾う》ってのからやれってのか?あのな…俺たちが目指してるのは大冒険王!英雄だっ!英雄は木の実なんか拾わねぇ!」


「うん…そりゃ英雄にはなりたいよ。ボクが有名な冒険者になれば、いつか母さんにも会えるかも知れないし…」


 俺はカイとは長い付き合いだから、このメソメソにはなれてるが、コイツってばホント自分を捨てた母さんのことが好きなんだよなぁ。


「うんうん、だろだろ!?そうくりゃ、このオークの群れの退治なんか地味すぎるくれぇだぜ!」


「う、うん。ボク、ルカの凄い力を信じてみるよ」


 決意表明か、魔法杖を握りしめて大きくうなずく美少年のカイ君だった。


 どうやらオークの棲む洞窟はそう遠くもないらしく、そこの大体の場所を頭に叩き込んだ俺は、クエストの指示書と地図を丸めてリュックの口に差し込んだ。


「そーそ。ま、これが俺たちの記念すべき初クエストだ!オークだろーがなんだろーが、ここはいっちょビシッときめてやろーぜ!!」


 カイが真摯な顔でコクリとうなずき。


 「ニー」


 サボテンも小さく鳴いて返事した。



 ◆◇◆◇


 俺たちは戦闘に無関係のかさばる重たい荷物を宿の部屋に放り込んで、それからすぐに目的のオークの巣へと向かった。


 そしてそこに着いた頃には、すっかり夕方になっていた。


「へぇー。なんだか豚みてぇな臭いがするな」


 俺は豚鼻を鳴らしながら、広い洞窟の壁に片手をついて、松明で奥の闇を照らしながら言った。


「う、うん。オークってさ、なんだか豚ソックリの顔らしいよ…」


 頼りない安物松明の明かりにも、露骨にガクブルなのがバレバレのカイが震える声で言った。

 

「さすがは魔法使いのコースを選んだカイだな。なんでもよく知ってら。へぇーオークってのはデカくて野蛮で、そんでもって豚顔なのかー」


 俺は家畜とカビの臭いが混じったような、そんなひどい臭気にウンザリしつつ背後に言った。


「あ、あのさルカ…。ほ、本当に大丈夫かな?」


 胸ポケットの茶トラの【サボテン】の寝顔をのぞきながら気弱な声で言ってきた。


「ん?あにがよ?」


「いや、あの…今日のルカも【負けない】かな?って…」


「ん?あぁ…まぁ多分な。そーでなきゃ困る」


「あ、ゴメン。疑うと効果が薄いんだっけ?ルカの能力…」


「あぁ。いつの時代の何事も、いらん杞憂がすべてを台無しにするからな。まぁ泥船に乗ったツモリでドーンと構えてりゃ、たいがいはウマくいくってもんよ」


「ど、泥船じゃ困るよー」


「ふんっ!」


 まったくコイツはいつでもどこでも心配性なんだな。

 ま、生まれついての楽天家の俺にゃわかんねぇが、ホント憐れなこったぜ。


「おっ!見ろ見ろカイ!あそこにバタバタと倒れてるのがオークなんじゃねぇか?うわっ!臭ぇっ!!」


 俺がひょろ長いレザーアーマーの手で指した先の地面のあちらこちらには、なにやら複数の人影が雑魚寝みてぇに横たわっていた。


「うっ臭いっ!」


 カイも目をむいて鼻と口を手で覆った。


 俺はオークと思えましき巨体の一つにズカズカと駆け寄り、遠慮なくその大きな顔を松明で照らした。


「うおっ!ホントだ!なぁカイ!こっち来て見てみろよ!アハッ!コイツ、ホントに豚みてぇな顔してるぜ!」


 松明の光りに油ぎって照り輝くソイツは、小汚ないレザーアーマーをまとったデブだったが、泡をふいてる口元のはしには【イノシシ】ソックリの牙がのぞき、その顔はまさしく豚そのものだった。


「おーい!アンタがオークですかー?寝てますかー?死んでますかー?おーい!」


 俺は苦し気な豚顔に呼びかけた。


「ウウウ…。ナ、ナンダ…オマエハ?」


「おっ!しゃべった!?俺様はルカってもんだがよ。お前たちがちょっと前にさらった人間族の娘だが、ソイツは今どこにいる?」


「ウムムムム…ク、クルシイ…」


「あん?苦しいってか。どーした?二日酔いか?」


「ウルサイゾ、このニンゲンメ…。あのコドモを、メ、メインディシュに酒盛りでもとオモッタが…前菜のサラダにニラと間違えて、ス、スイセンをクッチマッタ……ち、チクショウ…」


 ほう。ニラとスイセンをね…そら苦しいわな。獣っぽい顔してっけど、オークも人間様並みに食中毒になんのか…知らんかった。


「んじゃ、まだ娘は喰ってないんだな?」


 あらら、コリャダメだ、今のを最後に気を失ったみてぇだ。

 はぁ仕方ねぇ、こうなりゃ勝手に俺たち二人で手分けして、さらわれたガキを探し出すしかねぇみてーだな。


「ん?どーしたカイ?」


 俺は立ち尽くす相棒を振り返った。


「す、凄い。やっぱり凄いよルカ!これが偶然だなんて信じられない!」


「おいおい!偶然じゃねぇっつの!これが正真正銘、この俺様だけの無敵の能力!名付けて【バッドコンディション】だろ!?」


 そう、俺には生まれつき何かと戦うと決めた瞬間から、なぜだかそのケンカ相手には、突如戦闘不能に陥るほどの《強烈な不運》が押し寄せるという、そんななんとも不思議で特殊な【ツキ】があった。


 で、今回はまともにやり合ってたら絶対に勝てないオーク様たちに、その不運が襲いかかったって訳だ。


 つまり――

 俺様はちょっとハンサムなだけの、先週戦士になったばかりで、コレといってなんの取り柄もない男だが《ほっとけ》、この【バッドコンディション】さえあれば、大冒険者王!そうさ!歴史に名を遺す大英雄になることだって夢じゃーないのだ!



 ◇◇◆◆


 こうして俺たちは、なんとかガキが囚われていた檻を発見し、近くに倒れ伏したしっかり食中毒の見張り役から鍵を奪い、見事この人生初のクエストを達成したのだった。

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