16  奔放な融合


     奔放ほんぽうな融合




 絨毯じゅうたんの上で涼介はソファーを背凭せもたれにし、エリカは涼介をクッション代わりにして二人は縦に重なっていた。

(本当にエリカと結婚すんのかもしんないな・・・)

 涼介は食後のゆったりとした時間の中、足を投げ出してテレビを見ているエリカの髪を手櫛てぐしかしながら、ふとそんな事を考えていた。

(・・・・・)

 同時に涼介は考え始めていた。

「出会い系サイト」という世の中にあふれるデジタルコンテンツを柔軟な姿勢で吟味ぎんみしようとせず、ヒエラルキーの中で生きる事をいられた世代の先入観と憶測おくそくが、恋愛を見つける手段に善悪など無いと考えるさばけた世代の行動力に嫌悪感をいだき、抽象的な懐古主義的論理だけを頭ごなしに振りかざしながら世論を懐柔かいじゅうし評価を決定付けている事の不条理を考えていた。

(・・・一昔前までは外出しないと恋に出逢えないのが主流でさ、その流れは永遠に変わんないんだろうけど、それが全てで本流だとする世代の経験の押し売りは、新しい価値基準を無意識に模索もさくしている世代にげんなりとした温度差を感じさせちゃうんだよな・・・例外もあるけど、世の中は何時いつの時代も多数派が作り出す結果からの逆算で道理が成り立ってる訳だし・・・時代は人にたくましく生きる事を強要し始めてんだよな・・・どんな恋愛にもリスクはあるし、当事者同士の心一つでどうにでもなっちゃう訳だしさ・・・車の運転に似てんのかもしんないな・・・ほっとくと故障しちゃうし、気を付けててもトラブルに巻き込まれちゃったりするし・・・しかしさ、恋愛には保険が無いんだよ、まぁ、ある種保険みたいな物を掛ける事は出来るんだけど、結局それは恋愛を冒涜ぼうとくする方の保険だし、それって相手の心を切り刻む裏切り行為だもんな・・・恋愛の正解は一つじゃないし、百組居れば百通りの正解がある訳だから、一人で百回恋愛すりゃ百回ともある意味正解かも知んないしさ・・・まぁ結局どの正解も永遠に不安定なんだろうけど、出会い系サイトがすたれて行く事は考えにくいな・・・)

 涼介はエリカの髪を何となくかしながら、心の中で漫然まんぜんと独り言を続けていた。

「きゃははははーっ!」

 エリカは涼介を背にテレビを見ながら笑っていた。

「・・・・・」

 涼介はエリカの奔放ほんぽうな愛情に包まれている事を実感しながら、携帯電話やパソコンを媒介ばいかいして成り立つ合理的に恋愛や快楽を追求出来る商品や商材は、男女の交流が人間としての本能であり、生きる上での不変のテーマである限り計り知れない魅力が需要する側に存在し続けるだろうと思っていた。そしてそれらが流行り物ではなく人間の心理に根付いた本物であるとするならば、近い将来何らかの形でそれらに法律でかせめたとしても、趣向を変え、あるいは地下に深くもぐり、逆に希少価値という無い物をねだろうとする人間の欲求に付け入る付録ふろくたずさえ、今以上に媚薬びやくの香りを漂わせながら生き続ける事は確実だとも思っていた。

「きゃははっ!さまぁ~ず面白いよね!」

「だよな・・・さまぁ~ず好きなの?」

 涼介はエリカの問い掛けに具体的な現実に呼び戻された。

「うん・・・あと中居君」

「やるじゃん」

「リョウも好きなの?」

「そうねぇ、いいねぇ大竹。あいつは好きだなぁ」

「ふーん」

「さまぁ〜ずはバカルディの頃から好きだよ。中井君はさぁ、バラエティのMCやらせたら今、No2だな」

「トップは誰?」

「今田耕司って知ってる?」

「ふーん、やるじゃん」

「誰が?」

「中居君と今田君」

「俺じゃぁないのかよっ!」

「ははっ、そっれて三村?」

「どう?」

「似てねーっ!」

 振り向いていたエリカはそう言いながら体を元に戻し、左手に持っていた食べ掛けのプレッツェルを涼介の顔の辺りに差し出した。

「・・・・・」

 涼介は手を使わずにくわえたプレッツェルの先でエリカの左の頬を突付き、エリカをもう一度振り向かせた。


 涼介は両端からプレッツェルを食べ合うという、恋人同士ならではのベタな恥羞しゅうちを平然とエリカに試み、甘いキスを楽しみながら更にエリカを困らせ様としていた。

「なぁにぃ・・・もう・・・やらしぃ・・・感じちゃうじゃん・・・」

 涼介の左手はエリカの右の胸を優しくつかんでいた。

「もう・・・やーだっ・・・てば・・・」

 エリカはそう言って体をくねらせた。

 涼介はエリカからその言葉をもっと引き出そうとするかの様に、右手もニットの中に入れた。

 涼介の右手はエリカのブラをずり上げ、エリカの柔らかい左胸は涼介の思いのままになっていた。

「照れ・・・る・・・」

 エリカは瞳をうるませて涼介を見つめていた。

 涼介は左手もニットの中に入れ、唇をエリカの耳元に寄せた。

「あっ・・・」

 涼介が走らせる刺激に耐える為に、エリカはテレビの方に投げ出していた両足を体の方に引き寄せた。

 両腿りょうももにフィットしているウールのスパッツは、エリカの足を長く綺麗きれいに見せていた。

 涼介はエリカの震える様な吐息といきで本能に火を点けられていた。

 エリカは涼介に胸をさらされ、らされていた。

「・・・・・」

 涼介は右手をエリカの敏感な部分に伸ばした。

「あぁ・・・」

 エリカは両腕を涼介の首に回し、潤んだ瞳を涼介に向け、恥ずかしさを吹っ切る為にキスをせがんだ。

 涼介のキスはエリカの体中をうるおわせていた。

 なめらかさを増したエリカの体を涼介は優しく攻めていた。

 二人は理性を解き放とうとしていた。そして情熱のあり方を大胆に堪能たんのうしようとしていた。


 めくれあがったニットとブラの直ぐ下で、エリカの胸が美しさを放っていた。

 エリカの左の足にはスパッツとパンツが絡まったままだった。

 目を閉じているエリカの唇は薄く開き、甘く切ない声をらし続けていた。

 明るいリビングでの奔放ほんぽうな時間だった。

 小癪こしゃくで生意気を言う時のエリカとは違うエリカが涼介に体を激しく突かれていた。

 センターテーブルの上には二人で作った食事と白ワインが少しずつ残っていた。

 二人は秩序やルールを越えて融合していた。

 重なり合う二人の横で“さまぁ〜ず”が笑っていた。

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