3 サイトとの出会い
サイトとの出会い
松岡まゆみと佐久間涼介という、32歳と34歳の、世間の常識として分別と良識を備えている
〝恋人を見つける〟というテーマの
本来、恋愛を
出会い系サイトは得てして文字の量や質に制約があった。その現実は一面識も無い者同士が相手の文字を頼りに思いを巡らせ、タイムリーな感情を画面に集約しようとした時、言葉と態度では伝えられそうな微妙なニュアンスを簡潔な文字に置き換えられない事が多々あった。それは相手の真実を模索する場面で
出会い系サイトで知り合う男女は例外無くお互いの素性を理解する事を急いでいた。何故なら、出会い系サイトを次々と検索していれば自身の望む理想に近い虚偽の個人情報がいくらでも
恋人が欲しいと願う男女にとって、出会い系サイトの機密性や利便性はその代償として世代に
方円の器に従い、色んな器に
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涼介は食品会社に勤めるサラリーマンだった。その食品会社は食材の流通だけではなく、イタリア料理を中心としたレストランの運営もしていた。80年代前半からは直営店は元よりフランチャイズ店を全国展開し続け、90年代に入る前には時流にも乗り、レストランの運営は事業として会社の中心的部門に成長していた。
2年前の2001年4月、涼介は神奈川県横浜市関内にある本社企画開発部から福岡県北九州市小倉にある北九州支店企画開発部に転勤し、主任から課長代理に昇格していた。
小倉は涼介の地元だった。
涼介は育った街の高校を卒業後神奈川大学に進み、そのまま横浜で今も勤める食品会社に新卒で就職し、 当時のバブル景気に
涼介は横浜での15年間で涼介という人格やライフスタイルを構築させていた。その事実は例え小倉が涼介の地元と
涼介は小倉に戻って来たにも
涼介は自分が
涼介は小倉に戻って以来、生活のモチベーションを高いレベルで維持出来ていた横浜での生活をずっと
涼介は叶わぬ夢など無いと自身に言い聞かせていた。しかし人事異動の3月は淡々と過ぎ去り、4月に入る前、企画書の件など無かったかの様に新入社員教育の責任者という役割を支店長より直々に命令されていた。
涼介は日頃から無口だった。そしてそんな涼介を取り巻いている現実は更に涼介を無口にさせ、人付き合いを
2002年の春、涼介が籍を置く企画開発部には四人の新人が配属されていた。全員北九州市内にある大学を出ていた。その中に岡部恭子がいた。
恭子はエレガントなスリーセクションレイヤーにタイトなダークスーツを
恭子は新入社員研修と現場教育を兼ねた例外なき6ヶ月間の店舗実習を終えた後、涼介とペアを組んで取引先に出向く事が多かった。
恭子は涼介を慕っていた。涼介は恭子の事をリーダーとして人を引っ張る素質がある将来を感じ
ペアという性質上二人は時間を多く共有していた。休日であってもお互いの自宅にあるパソコンにデータを送信し合っていた。それはある意味必然、二人の間に仕事以外の会話を増す事となっていた。そして恭子は何時の頃からかその会話に因って更に涼介に
二人は二度ベッドを共にしていた。
初めてのセックスは恭子が入社した年の12月、ペアを組んで2ヶ月が過ぎていた取引先の忘年会の日だった。そして翌日、涼介は出会い系サイトのアドレスを自分の携帯電話にブックマークしていた。
きっかけはセックスの後、何もかもが解禁されたかの様に
恭子にとって涼介とのセックスは画期的な出来事だった。その事実はまったりと甘い内容のメールを涼介に乱打送信させていた。そしてそんなメールの中の更なる話題作りの為に恭子は占いサイトのURLを貼り付けてあった。
涼介は恭子のメールに
涼介は出会い系サイトを一度閲覧したいと思っていた。しかしそのサイトが援助交際を希望する書き込みに毒されているのならば意味が無いとも思っていた。アクセスしても出て来る結果は大学時代に通っていたテレクラと同じで、
涼介の
恭子との二度目のセックスは忘年会の夜から2週間後、仕事納めの日だった。二人は部内の飲み会を終えた後の二次会を別々に抜け出していた。
恭子の心の中では、すでに涼介は相愛の彼氏だった。
2003年を迎え、涼介の携帯電話が受信する恭子からのメールはプライベートなもので占められ、仕事帰りに二人で食事に行く回数も増えていた。
涼介は恭子の気持ちに気付いていた。しかし涼介は加速度を増した恭子の思いを、反発し合う磁石の様に一定の距離を保ちながら跳ね返していた。そしてその磁力を自己都合で自在に変化させ、仮に三度目のセックスがあったとしても、そこには愛情など無いという暗黙の了解を
涼介には恭子の恋愛感情を上司と部下の間で繰り返される単純接触に
涼介が選ぶ行動の動機は全て小倉という街に対して溜め込んだストレスにあった。そしてそのストレスは恭子と、恭子という媒介者がいなければ辿り着けなかった出会い系サイトをプライベートに組み入れた形となっていた。
涼介は生活環境の
涼介にとって恭子は自身のプライドを守れるいい女でしかなかった。
2003年3月、人事異動名簿に名前が無かった事に落胆していた涼介は、各部署に正式な異動辞令が出た二日後に支店長から二通の公式書簡を受け取っていた。一通は新規事業展開に関する企画調査を継続せよという指示書だった。そしてもう一通は本社企画開発部への復帰希望について、
涼介は気付かぬ内に
涼介は自身の心が荒み、
涼介は自分を見失っていた。そして自分を取り戻す術を見つけられないまま、インディビジュアルな理想だけを滾らせ、自己都合だけで小倉という街に
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