2   耽る前夜


     ふける前夜




(多分女性は親密になると何でも話せる間柄になりたいと思うんだろうな・・・しかし男はどうなんだろう、何も話さなくても分かり合える関係になりたいって思ってるんじゃないだろうか・・・いいのかなそれでお互い・・・自分はどうなんだ?・・・)

 ベッドの中でそんな事を考えていた涼介はゆっくりと首を右側に動かした。

 まゆみは左の頬を枕に沈み込ませて眠っていた。無防備にさらされている右肩は細くつややかだった。

(realismとromanticism・・・communicationとconversationか・・・)

 涼介は視線を天井に戻し、胸の上に置いてあった両手を頭の下で組んだ。

(喋りたい女と会話したい男・・・って、誰かが言ってたな・・・)

 涼介の自問自答の対象はまゆみだけではなく、過去に縁のあった女性にも向けられていた。

(何だか色々喋ってる彼女に優しいつもりで適当に相槌あいづちを打ってた彼が〝んな事どうでもいいじゃん〟みたいな素振りをどっかで見せちゃうと〝もう私の事あんまり好きじゃないのね〟か〝聞いてよ、折角喋ってんのに!〟のどっちかだもんな・・・悲劇のヒロインと遠くを見つめる詩人・・・三つも四つも喋ってんのにほとんど語ってない女と、一つだけで三つぐらい語りたい男・・・)

 涼介は恋愛における男女の相互理解という普遍ふへんの命題を他人事のように捉え、ふけっていた。

「ふーっ・・・」

 涼介は大きな息を一つ吐き体を起こした。そして枕元の煙草に手を伸ばして火を点けた。

(何でこんなに寝顔って優しいんだろう・・・)

 涼介はくゆる煙越しにまゆみを見つめていた。

 まゆみは上半身を涼介に預ける様な格好でシーツに包まっていた。ラブホテルの間接照明はそんなまゆみの素顔と滑らかな腰のラインを美しく涼介に届けていた。

(まゆみのせいじゃないんだよな・・・何も悪い事なんかやっちゃいないし・・・)

 涼介は心の中でそうつぶやきながら、通り過ぎて行った女性を思い出していた。

(ほんと、綺麗だよな・・・)

 涼介は左の指先で長く延びている煙草の燃え殻を一度灰皿に落とし、再びまゆみを見つめた。

(女性って素晴らしいな・・・)

 涼介は明日別れを切り出すかもしれないまゆみの寝姿に、男性が女性を守ろうとする行動の原点は、実は意外とこんな瞬間にあるのかもしれないと考えていた。

 10月19日の日曜日、午前2時を回っていた。

 二人の体が離れて1時間近くが経っていた。

 ベッドのコントロールパネルの横でセブンスターが空になっていた。

 涼介は鼻持ちならないナルシスティックな美意識の下、男女の恋愛感情をふけり、女性をたたえる事にってまゆみへの罪悪感からのがれ様としていた。











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