1 嘯く心
(このまま
涼介はハンドルから手を離し
(ほんと腐った野郎だ・・・)
まゆみの気持ちなど丸で考えず、まゆみの心を踏み
(今朝あんなに強い日差しで起こされたってのに・・・)
自分の
車は旧10号線からバイパスへ合流する交差点の最前列で信号待ちをしていた。
青く光っていた歩行者用信号は点滅を始めていた。
「・・・・・」
視界の隅に入り込んで来た青色の点滅に一瞬目を向けた涼介は、再び
(・・・両方とも駄目だ、今日別れよう)
アクセルを踏み込む前に結論を下した涼介の心は空の色と同じぐらい鈍よりとしていた。
(涼介、何考えてんだろ・・・)
綺麗な姿勢で助手席に座り、涼介が
「俺、雨とデブ嫌いなんだよ」
二人の間に続いていた沈黙を
「私も雨は好きじゃない」
「なんかデリカシー無いでしょ? 雨もデブも」
「・・・ひどい人ね」
「でも好きでしょ?」
「自信たっぷりね」
「でも、好きでしょ?」
涼介はまゆみを一度も見る事無く同じ言葉を淡々と重ねた。
「・・・・・」
涼しく核心を突く涼介の意地悪な問い掛けに、まゆみは恋心を更に
「・・・軽くメシでも食っとこうか」
予想外に車の流れが
「うん」
「渋滞避けよう」
「うん・・・」
まゆみは穏やかな表情で涼介を見つめていた。
(何であんな事言っちまうんだ・・・
涼介は再び自分を吐き捨てた。そして吐き捨てた自分を
「・・・・・」
まゆみは涼介の笑顔に満面の笑みで答えた後、満足した様にゆっくりと街並みに視線を変えた。
「・・・・・」
涼介はまゆみが残した意味有り気な
(恋愛ってのは夢とか希望とか、願望とか理想とか、そんな様な物を振り
正面に向き直った涼介は自分の
車内は静かだった。
空気は重くも固くもなく、柔らかく動いていた。
まゆみはサイドブレーキの辺りに
(・・・家まで送ってくなら西公園降りた辺りだし、駅迄なら食後の車の中だな・・・)
涼介は視界に
まゆみは中央区の
「ミスチル、好きなの?」
CDの中から〝Mr.children〟を見つけ出したまゆみは
「・・・そうだね」
涼介は前を向いたまま笑顔を作った。
「何か意外だね・・・私もミスチル好き」
まゆみはそう言って嬉しそうにCDをプレーヤーに差し込んだ。
(降って来たな・・・)
涼介はまゆみの言葉を拾わず、フロントガラスに姿を現した雨に心の中で舌打ちをした。
涼介は一人の女性を傷付ける事の重大さを
まゆみは微笑を
10月19日の日曜日、午後3時を過ぎた
雨粒は街の至る所で弾け合い始めていた。
車内には〝Mr.children〟のメロディと、この先ずっと交わる事は無いだろう二人の
「・・・ぬるいな」
「えっ?何か言った?」
「いや、何でもないんだ」
涼介は正面を向いたまま努めて自然にそう答えた後、まゆみと一度視線を交わし、ドリンクホルダーのボルビックにゆっくりと手を伸ばした。
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