第45話浮き輪でぷかぷか浮きました

 砂浜を裸足で歩いて海へと向かう。

 歩くたび、サクサクと砂を押しつぶす感触が心地よい。

 太陽の熱を吸収した砂はかなり熱いが、それも海に入るまでの辛抱だ。

 だが泳ぐのかぁ……泳げるかな。久しぶりすぎて溺れるかもしれない。ちょっと不安だ。


「おっ、あれは浮き輪レンタルじゃないか!」


 そんな事を考えていると、海岸沿いにある出店の一角に浮き輪をたくさん並べている店を見つけた。

 浮き輪があればいくらなんでも溺れはしないだろう。


「よし、あそこで借りていこう」

「ボクは泳げるから大丈夫にゃ!」

「まぁそう言うなよ。浮き輪でぷかぷかするのも楽しいぜ?」


 クロを宥めつつ、浮き輪を貸して貰う。

 子供用の小さなものを二つと、大人用の大きな浮き輪を一つ借りて銅貨三枚だった。


「にゃにゃにゃにゃにゃにゃーーーっ!」


 借り終わるや否や、クロは一直線に海へと走る。

 そのまま海面を飛び跳ねるようにして沖へと走り、ドボンと沈んだ。

 ぶくぶくと泡が浮かんできてしばらく、クロの頭が海面から出てくる。


「ぷはっ! 二人とも早く来るにゃ! 冷たくて気持ちいいにゃーっ!」


 猫かきで浮かびながら、こちらに両手を振っている。


「ユキタカ殿、自分たちも行くのだ」

「そうだな」


 俺と雪だるまも、砂浜を走り思いっきり飛んだ。

 だぱーーーん! と水しぶきが上がる。

 うひょう、確かに冷たくて気持ちいいぜ。

 海水に肩まで浸かり、まずは全身でひんやりとした心地よさを堪能する。


「ユキタカ、魚がいるにゃ!」


 クロが海中を指差すと、そこには小魚が泳いでいた。

 うおっ、なんて透明な海だ。

 水底が透け、砂の粒までよく見える。

 こんな海見た事ないぜ。うちの近くにある海は汚かったからなぁ。


「捕まえるにゃ!」


 クロはざぷんと水の中に潜り、猫かきで魚を追う。

 両手で捕まえようとするが……するりと難なく逃げられてしまう。

 何度トライしても結果は同じだ。

 息も限界だったようで、クロは諦めて水面から顔を出す。


「ぷはっ! ……うにゅう、すばしっこいにゃあ……」

「水の中だからなぁ」


 これだけ逃げる場所があり、水中でクロの動きも鈍くなっているのだ。

 無理もあるまい。


「ま、のんびりしようぜ」


 俺は借りてきた浮き輪にクロを乗せる。

 最初は不機嫌そうなクロだったが、すぐに気持ちよさそうにし始めた。


「うにゃあ。気持ちいいにゃあ……」

「これは楽でいいのだ」


 雪だるまも気に入ったようである。

 俺も浮き輪に掴まり、のんびりと空を見上げる。

 白い雲が青い空を流れていくのを眺めながら、ただプカプカと浮く。


「ユキタカ殿、クロ殿、氷水を作ったのだ。喉が乾いたら飲むとよいのだ」

「おっ、さんきゅー」

「ありがとにゃ!」


 雪だるまの出してくれた氷水をぐいっと煽る。

 ふー、美味い。太陽の下で波に揺られながらの一杯は格別だ。

 飲み終わると心地よい眠気が襲ってくる。

 俺は目を瞑り、微睡みに身を任せた。


 ……どれくらいそうしていただろうか、気づけば海岸から結構流されているのに気づく。


「おっと、そろそろ戻らないとな」

「岸まで競争にゃ!」


 そう言ってクロは岸に向かって猫かきを始めた。


「望むところなのだ」


 雪だるまも自分の手をオール代わりにして、泳ぎ始める。

 うーむ、クロの魔法で戻してもらおうと思ったのだが……仕方ない、俺も泳ぐか。

 俺も二人に続き、バタ足で岸まで向かうのだった。


「はぁ、はぁ……つ、疲れたぜ……」


 息を荒らげ、身体を引きずりながら砂浜をペタペタと歩く。

 泳ぐの自体久しぶりだし、足にきちまったぜ。

 水から上がった後って、なんでこんなに疲れるんだろうな。

 とりあえず借りていた浮き輪を返しに行く。


「楽しかったにゃ!」

「なのだ!」


 しかしクロと雪だるまは元気いっぱいだ。

 俺は少し休みたい。腹も減ったし……ん?


「おっ、イカ焼きじゃねーか!」


 出店の中にイカ焼き屋を見つける。

 獲れたてのイカをすぐに焼きました! 新鮮! 美味い! ……と、のぼりに書かれている。

 これは買うしかないな。


「すみません、三本ください」

「あいよ!」


 店主は串に刺したイカをさっさと焼き上げ、その上にソースを塗った。

 ソースの焦げるいい匂いが食欲をそそる。


「おいしそうな匂いにゃ」

「二人も腹減っただろ」

「ぺこぺこなのだ」


 三人で砂浜に座ってパクリと一口。

 うん、美味い。

 ソースを塗って焼いただけっぽいが、疲れた身体には染み渡るぜ。


「そして濃い味付けのものを食べていると、白いご飯が欲しくなるよな」


 というわけで取り出したのは塩むすび。

 余ったご飯はいつでも食べられるよう、おむすびにして鞄に入れているのだ。

 残念ながら海苔はない。残念だが異世界だし仕方あるまい。


「ほら、クロも雪だるまも、これと一緒に食べてみな」

「美味いにゃ!」

「濃いソースが白いご飯をより引き立てるのだ。いくらでも食べられそうなのだ」


 特に泳いで体力を消耗してるからな。

 塩分と炭水化物はエネルギー補給に最適だ。

 うむ、砂浜というのもあってスペック以上に美味く感じるな。

 俺たちはのんびりと海を見ながら、優雅な昼食を楽しむのだった。

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