第2話 忍び込むにはうってつけの夜
ナツメは屋敷に突入してきた警察官に銃を向けられて手錠を掛けられた。すぐにパトカーに載せられて警察署内の留置場に送られた。それから、刑事の尋問が始まるまで二時間も檻の中で待たされた。
ナツメの取り調べをする刑事は知っている顔だった。
「久しぶりだね、ミラ」
「……気安く呼ぶな。今のお前は"容疑者"だ」
そう言いながら、机の向かい側にミラは座った。ナツメの手には手錠が掛けられ、もう一方は逃げられないように机の鉄パイプに固定されていた。
「ややこしい問答を避けるために先に言っておくと、私はミスター・バーンハードを殺していないよ。私が屋敷に入ったときはすでに死んでいたんだ。神に誓ってね」
「誓うのなら信仰の対象でなければ意味がない。神との誓いを破ってもお前は気にしないだろう」
「じゃあ別のものに誓うよ。何に誓えば信用してもらえるかな」
「あの、助手をやっていた少女はどうだ?」
「アリーのことを言っているなら助手じゃないよ」
ナツメは笑顔を作って両腕を広げた。それでもアリーはナツメを睨みつけたまま警戒を解かなかった。「有効的な対話」作戦は筋が悪いと判断してナツメは方針を変更した。
しばらく沈黙が続く。ナツメは無言の中でミラの視線を受け止め続けた。
「お前はどうしてあの屋敷にいた?」
「バーンハード氏に呼ばれた。アリーの父が私を紹介したんだ。刑事なら裏を取れ」
「……分かった」
ミラは気が重そうに答えた。一介の刑事が気軽に質問をできる相手ではない。たった一つの質問の回答をもらうまでの手続きの多さを想像して辟易としているのだろう。ナツメは同情する気にはなれなかったが。
「警察はどうして屋敷に来たんだい? 誰かが通報した?」
「屋敷の防犯装置が作動した。カメラが侵入者を感知すると自動的に警察に通報が入る仕組みだ」
回答を貰えることはあまり期待していなかったがミラは即答した。
「それじゃあ私が屋敷に入る様子は映像に残っているわけだ。だったら私が犯人じゃないことは分かるだろう。死体は私が屋敷に入るよりずっと前に死んでいた」
「カメラの映像は捜査していない」
「だったら早く押収すればいい。死体はプライバシーを気にしない」
「映像は、なかったんだよ」ミラはゆっくりと答えた。「監視カメラの映像は使用人の操作ミスで消えてしまった。警察が押収しようとしたときにはすでに」
「……バーンハード氏の家族は? 警察が映像を押収する前に屋敷に戻ってきた?」
「どうしてそう思う?」
「使用人に命令できるのは主人とその家族だけだから」
「……あいにくと、カメラの件を故意と判断できる証拠はない」
「なるほど。バーンハードを敵に回すよりは異邦人の私を投獄する方が楽だからな」
ミラが口を開いて、しかし何も言わずに閉じた。ミラの感情を揺さぶるつもりではいたが、激怒させるとそれはそれでややこしくなる。少し自制すべきだ。
「……警察が得ている情報では、お前が第一容疑者だ。そう簡単に解放はできない」
「いいさ。ここも事務所も、似たようなものだ」
そのとき、取調室に年配で禿頭の刑事が入ってきた。
「やあ、グレン警部」
ナツメが手錠のかかった方の手を上げて挨拶したが、グレンは無視してミラの耳元で囁いた。ミラが驚いてグレンの顔を見返した。グレンは何も答えずにナツメを無視したまま部屋を出ていった。
「その顔は地底人でも攻めてきたのかな」
「……もういい。帰っていいぞ」
「何だって?」
ミラは不機嫌な顔のままナツメの手錠を外した。
「……それはどうも」
ナツメは立ち上がった。ミラが手錠の鍵を自分のスーツのポケットにしまおうとした、その手首を掴んだ。
「ところでミラ、電話番号変えた? 前に交換した番号が繋がらなくなってる」
「さっさと行け」
ミラはナツメの手を強引に振りほどく。
ナツメは軽く両手を上げて、言われたとおりに取調室を出た。
エレベーターで一階に降りて、没収された拳銃と財布を返してもらうための手続きをロビーでやっていたところ、「ナツメ!」といつもの声が背後から聞こえた。
振り返るより先に背中にタックルされる。
「大丈夫? いじめられなかった?」
「アリー、どうして警察署に? きみも殺人の容疑者かい?」
「そんなわけないでしょ。ナツメの疑いは晴れたの?」
「さあてね。ところで私が釈放されたのはアリーが手を回してくれたから、だね」
「そうよ。おかげでお父さんに借りができちゃった。感謝してよね」
あの父親を説得できるなんて、アリーは一体どんな切り札を使ったんだろう。
「アリーはどうやってここまで?」
「タクシーを拾ったの」
さもありなん。アリーの小遣いはナツメの生活費よりも多い。
ナツメはアリーと一緒に警察署の外に出た。大通りまで歩いてタクシーを止めた。
「アリー、お金持ってるかい? 一人で帰れるよね?」
「待って、ナツメはこれからどこに行くの?」
「バーンハードの屋敷に用があってね。歩いていくよ」
「徒歩だとすごく遠いよ?」
「お金がないんだよ」
「じゃあわたしがお金を出すから、一緒にタクシーに乗りましょう」
「駄目だよ。アリーは家に帰るんだ」
「ナツメ、誰のおかげで牢屋から出られたと思ってるの? わたしに借りがあることを忘れないで。それに一人で帰るよりもナツメと一緒にいた方が安全でしょう?」
これまでナツメはアリーの説得に成功したためしがない。押し問答する時間を惜しんでアリーをタクシーに乗せた。
運転手に行き先を告げて、ナツメはポケットから折りたたみ式の携帯電話を取り出した。
「……ナツメ、電話持ってたの?」
「いや、これはミラの――知り合いの刑事さんの電話だよ。親切に、私が電話を持ってないから貸してくれたんだ」
「へえ。刑事さんにも良い人がいるのね」
「刑事さんは良い人だよ。基本的にはね」
もちろんこの携帯電話は、ナツメが取調室を出る間際、ミラの手首を掴んで気をそらして、反対の手で彼女のポケットの中から抜き取ったものだ。
アドレス帳の中から知っている名前を見つけた。ドーフマン警部補。まだミラの部下なら殺人現場に残っているはずだ。ミラの文章の癖を思い出しながらメールをしたためる。
警部補からの返信を待ってから、携帯電話の電源を落として、念のためバッテリーも外しておく。
「さて、これでよし……」
「ねえねえナツメ、今度のはどんな事件なの?」
息をつく間もなく、今度はアリーがナツメに抱きついてきた。
バーンハードの屋敷の前でタクシーを降りた。料金はアリーが高額紙幣で支払った。
屋敷の前にはまだパトカーが停まっていた。正門から入ろうとしたら制服警官に静止された。ナツメはドーフマン警部補を呼ぶよう警官に答えた。
しばらくしてドーフマン警部補が屋敷の方から走ってやってきた。殺人課の刑事に似つかわしくない、能天気そうな雰囲気の男だ。
「ナツメ、久しぶり! また一緒に仕事ができて嬉しいよ」
彼は裏表のない笑顔で握手を求めてきた。ナツメも愛想笑いを浮かべてその手を取る。
「知ってると思うけど、ミラは検視の報告を聞かなきゃいけないからしばらくここには来られないって、さっきメールで」
「ああ知ってるよ。残念だ」
ドーフマン警部補にとってミラは元同僚で、今は上司である。しかし彼は未だにミラのことを「警部」ではなく「ミラ」と呼ぶ。
「ミラがきみを雇ったってことは、もう疑いは晴れたってことなんだよな」
「もちろん。わたしにはちゃんとアリバイがあるからね。ミラは平謝りさ。そのお詫びも兼ねてわたしを雇うってことになったんだ。さあ、中を案内してくれ。と言ってもわたしはきみたちが来る前にもうある程度は見て回ったからね。それよりも屋敷の人間の方に興味がある」
「被害者の家族ならもう戻ってきてるよ。それよりも――」ドーフマン警部補がナツメの後ろをついてくるアリーの方を見た。「その子は?」
ナツメはしばらく考えてから「私の助手だよ」と短く答えた。
屋敷の中に入って応接間へ行くと、警官ではない、四人の人間が室内にいた。
ドーフマン警部補がナツメに耳打ちして紹介する。ソファで静かに紅茶を飲んでいるのが被害者の息子のアーネスト、その横でハンカチで涙を拭っているのがその妻リジー、暖炉を見ながら椅子にぼんやりと腰掛けているのが被害者の妻マーサ、部屋の隅に控えているのがバーンハード家の執事、計四人である。いつもはこの屋敷にはメイドがもう一人とアーネストの弟がいるという。
今日の夜、六人はバーンハード氏の命令で屋敷を離れていたらしい。アーネストは仕事で会社に、弟は出張で海外に、リジー、マーサ、執事の三人はレストランで食事、メイドは休みを取って帰郷したという。バーンハード氏は家族の誰にも誰と会うか話していなかったらしいが、秘密の客と会うときに人払いをするのは今回が初めてではなかったので特に不思議にも思わなかったらしい。
「……ロバート・バーンハードはナツメに何を依頼したかったんだ?」
ドーフマン警部補が今さらの質問をした。それを知る前にバーンハード氏は殺されてしまった。
「……防犯システムの映像を間違えて消したのはあの執事だね。ちょっと話をしたいな。家人のいないところで」
ドーフマン警部補は頷いて、制服警官にいくつか指示を出した。さらに、アーネスト氏に断わった上で、執事を呼んで廊下に連れ出した。
「……あの、私に何か。あまり皆様のそばを離れたくないのですが」
執事は感情の見えない声音でドーフマン警部補に質問した。年齢は六十を過ぎているだろうか、身のこなしはキビキビとしていた。
「では質問は簡潔にしよう」
そう言うと、執事はドーフマン警部補から視線をナツメの方に移した。
「あなたが消した防犯システムの映像には誰も映っていなかった。そうだね?」
「……まず二点、訂正させていただきます。一つ目は、システムの映像を間違って消してしまったのは事実ですが、故意ではない。二つ目は、私は映像を見ていない。もうよろしいですか?」
「別に私はあなたを告発したいわけじゃない。ましてやあなたから話を聞く必要すらないんだ。もう分かっているからね。ただの確認だよ。わたしの推理に間違っているところがあれば言ってほしい。――被害者が死んでいるのを見て、この家の者たちはまっさきにカメラの映像を確認したはずだ。しかし映像には第一発見者の私以外の姿が映っていなかった。違うかい?」
「ちょっと待ってくれ、それじゃあ、ナツメが犯人ってことに――」
「そんなわけないだろう」
ドーフマン警部補が口を挟んできたのでナツメはうんざりして答えた。ナツメが犯人でないことは被害者の死亡推定時刻から明らかだ。
「だから犯人は映っていなかったんだよ。それで、アーネスト氏が執事に映像の消去を命じた」
「でも、なぜ?」
「簡単なことだよ。映像に犯人の姿がないということは、犯人は防犯システムを操作できる人間だということ。つまりこの屋敷の人間だということだね。それを表沙汰にしたくなかった。ましてや逮捕者を出すわけにはいかない。内々で処理しなくては。違う?」
「……ご想像のたくましいことで」
「想像力が私の一番の武器でね。まあ他にもあるけど。……とにかく、映像には何も映っていなかった。一族の誰かが映っていた、という可能性も考えたけど、さっきアーネスト氏の様子を見た限りじゃ誰がやったのかまでは分かっていないようだったしね」
ティーカップを傾けながら、アーネストが家族の様子を細心の注意を払って観察しているのがナツメにはすぐに分かった。
「そもそも家の人間は防犯システムのことを知っているんだから、理性があるならわざわざ自分の姿が残るような殺しはしないよ」
「……ええ、バーンハードの皆様は聡明でいらっしゃるので」
「それは認めたということかな?」
「ただの私的な評価でございます」
「それで、私の推理に間違ったところはあるかな?」
「私から言えることはございません」
「そうか。どうもありがとう。戻ってもいいよ」
執事は一礼して部屋に戻った。
「……いいのかナツメ」
「いいよ別に。本当にただ確認したかっただけだから」
「次は誰を呼ぶ?」
「いや、次は二階をもう一回見たい」
「現場検証ね!」
後ろからアリーがぶわっとテンションを上げて盛り上がった。アリ―はさっきの執事とのやり取りもずっと見ていたのだった。
「きみはここに残れ――と言っても着いてくるだろうから、大人しく見学するように」
「もちろん!」
ナツメたち三人は二階へ上がった。ナツメはすでにこの屋敷の間取りを完全に記憶していたので、被害者が殺されていた場所へ迷うことなく足を運んだ。当然のことだが、すでに死体は警察の手によって運び出されたあとだった。痕跡といえば絨毯に血の跡が残っているだけだ。
「……死体の写真、見ます?」
「結構。第一発見者は他ならぬ私で、私は一度見たものは忘れない。被害者は正面から胸を刃物で一突きで刺されて死んだ。素人の手口じゃないと思うね。素人なら一突きで殺すのは難しいし、被害者だって抵抗するから他にもあちこち傷ができるはずだよ。でも被害者の傷は胸の傷だけだった――」
「この屋敷の人間でそんなことができるのは、あの執事のファーガソンだけだ。ファーガソンは昔軍隊に居て海外に派遣されてた経歴がある」
「あの執事が犯人なら凶器には刃物ではなく銃を使うと思うね。今やこの国で足のつかない銃を手に入れるのは七面鳥を手に入れるよりも簡単だ。あの執事は普段から長い刃物を持ち歩いているというわけでもないんだろう?」
話しながら、ナツメは部屋を壁伝いにゆっくりと見て回った。
「しかし執事ではないとすれば一体誰なんだ? 実はあの中に格闘の達人がいるとか?」
「私はむしろ外部の人間の犯行を疑っているよ。その人物は防犯装置を掻い潜って屋敷内に侵入して、バーンハード氏を一撃で殺害したあとで証拠を残さずに屋敷から消えた」
「そんなこと不可能だ!」
「軍の施設に忍び込もうってんじゃないんだ、あらかじめどういうセンサーが動いているか分かっていればそう難しくはないと思うよ。特に今夜はバーンハード氏以外の人間は誰もいなかったわけだし、忍び込むにはうってつけの夜だ」
「しかし……センサーの位置なんてどうやって……」
「私が暗殺者ならこの屋敷の設計図を手に入れるね。あるいは装置を施工した会社に資料があるかも。施工会社はお客ほどセキュリティにお金はかけてないだろうしね」
「皮肉な話だな……」
ドーフマン警部補が手帳にナツメが言ったことをメモした。
その警部補を部屋に置いたままナツメが廊下に出た。警部補とアリ―が慌てて後を追いかける。ナツメは二階の廊下を早足で進んだ。そのまま止まることなく歩き続けて、屋敷の二階をぐるりと一周して殺害現場の部屋までまた戻ってきた。
「どうしたんだ、一体」
「部屋の間取りがおかしい」
「……まあ、あの人数にしては部屋が多すぎるが」
「そうじゃない。二階の面積に対して部屋の割り当たってない場所が存在する。……ここだ」
ナツメが廊下の壁を手のひらで叩いた。壁の左右には部屋のドアがあるが、その間がちょうど一部屋分ぐらいあった。他の部屋の間隔と比べればここだけが明らかに広い。
「柱とか配管のスペースじゃないのか?」
「あるいは隠し部屋か」
ナツメは右側の部屋に入った。アンティークな椅子やテーブルの並んだ部屋で、バルコニーからは屋敷の裏庭が見える。
ナツメはぐるりと一回転して部屋を眺めたあと、しゃがんで絨毯に頬をピッタリとくっつけた。
「ナツメ、突然どうしたの?」
「アリ―、水準器を持ってないか?」
「何それ」
「ガラス球や鉄球でもいい」
「急に何を言ってるんだ」
警部補が心配そうに言う。ナツメは立ち上がった。
「この部屋、わずかだけどこちら側に傾いてる」
ナツメは嬉々として答えたが、警部補もアリ―も首をかしげた。
「……つまりセーフルームだよ! 隠し部屋だ。破られないように部屋自体を頑丈な金属で作るからその重みで両側の部屋が徐々に傾いているんだ」
「本当に? 僕には何も分からないけど……」
「あとで警察署から水準器を持ってきて好きなだけ調べるといい」
ナツメは部屋の中をあちこち漁り始めた。
「ちょっと待て、何をやってるんだ」
「隠し部屋を開けるためのスイッチを探してる」
「勝手にそんなことをしたら駄目だろう。事件に関係あるのか?」
「分からないけど今のところ一番可能性がありそうだ。バーンハード氏はどうして人払いをしたのか。なぜ殺し屋に命を奪われたのか」
「殺し屋に殺されたというのはまだ仮説だろ?」
「そう……まだね」
答えながら、ナツメの視線が本棚に止まった。本棚の裏側からケーブルがコンセントに伸びているのを見つけたのだ。
本棚に並んだ本を指でなぞっていく。上の段の端にある分厚い本に指をかけて引っ張ると、背表紙のところだけが蝶番で開いて、中からスイッチが出てきた。ナツメはそれを親指で押し込んだ。
ガコン、という音がして、本棚の横の壁が自然に開いた。壁の内側は金属製のドアで取っ手がついていた。
ドーフマン警部補はナツメと目を合わせて頷くと、先陣を切って部屋の中に入った。
「……誰?」
部屋の中から、高い声が聞こえた。
「警察だ。君は?」とドーフマン警部補が聞き返す声。
ナツメはアリ―にこの場で待つようにジェスチャで伝えてから、警部補の後を追って部屋の中に入った。
セーフルームの中は、ドアが金属製であることと窓がないことを除けば他の部屋と同じような雰囲気で、威圧感がないように部屋の調度が配慮されていた。部屋の奥には別のドアもあったが、洗面所やトイレかもしれない。
ドーフマン警部補の手は腰の拳銃に触れていた。その彼の肩越しに、椅子に座った少年の姿が見えた。服は簡素なカッターシャツとグレーのズボン、髪は短い金髪だった。
「……僕はイスベル。お前たちはロバートの関係者か?」
少年の声には緊張と警戒が混ざっていたが、臆することなく警部補とナツメのことを見ていた。
「……バーンハード氏は死んだ」
と、ナツメが質問に答えた。
少年は表情を動かさず、
「お前たちが殺したのか?」
とすぐに質問した。
「違うよ。私たちはバーンハード氏を殺した人間を探しているんだ。……バーンハード氏が殺された理由に心当たりがあるんだね?」
ナツメは少年の返答をしばらく待ったが、返事はなかった。
「詳しい事情を署で聞かせてもらいたい。……同行してもらえるね?」
警部補が片手を上げて、にこやかに少年に提案する。少年は警部補をじっと観察したあと、優雅さを失わない速度で立ち上がった。コート掛けからベレー帽を取って頭に乗せる。さらに、机に立てかけてあった、宝石の光るステッキを手に取る。
「では案内してもらおう」
警部補たちに向けて使用人に命ずるように言った。
少年を連れて屋敷を出てパトカーに乗せたところで、一台のパトカーが荒々しい運転で屋敷に乗り込んできた。
ナツメは事態を察して姿を消そうとしたが、パトカーから降りてきたミラに睨みつけられて断念した。
「ミラ! 捜査に進展があったよ! あの屋敷には隠し部屋があって、その中に子供がいたんだ! ナツメが見つけてくれたんだよ。……ミラ?」
「……ドーフマン、あとで話がある」
ミラに睨みつけられて、警部補は事態が理解できずに混乱しているようだった。
ナツメはミラたちを正面に見たまま後ずさる。
「どうやら取り込んでいるようだから、私はそろそろおいとますることにしよう」
「ナツメ、お前には今すぐ話がある」
続けて「動くな(Freeze)」と言われて、ナツメは立ち止まって両手を広げた。銃を突きつけられたわけではなかったけれど、命令に従わなかった場合は躊躇なくぶっ放していただろう。そう確信できるほどのミラの怒気だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。