第4話 陽炎邂逅
人々の生活圏から遠く離れた場所に様々な動物達やこの世ならざる異形蠢くとある森林、その奥地では...
「...なんとか呼び出せた武装3種すべて紛失...『蜂』への指示可能範囲がほぼ0になった事により9割が操作不能...『deadly sins』の確認すらできない...加えて修復していた記憶媒体が治ったとしても人間に『蜂』の電気信号は感知不能...つまり私の記憶はもう...うぁぁ...」
放心した様子でうわごとを繰り返す銀髪の少女と
「いや...その...ハハ...ま、まぁ大丈夫ですよ!『雇い主』を探し出して解呪して貰えれば元に戻れますって!ポジティブにポジティブに!」
その少女を必死になって励ます異形の者というとてもミスマッチな組み合わせができていた。
「...こだ」
「はい?もう少し大きな声でお願いできま」
「貴様の言う『雇い主』は何処にいる...?こんなふざけた真似をしてくれたんだ...相応の礼をしてやらねば気が済まん...!」
そう言いながら何故かTSするのに合わせるかのように少女用サイズ(少女より頭一つ分短いくらい)を手にゆっくりと、どちらかといえば殺意を孕んだ「ゆらり」という擬音と共に立ち上がった。
「いやー、それなんですが...自分は「白刃を守り続けろ」という事でここに居るだけで雇い主がどこで何をやっているのかは知らないんですよーアッハッハッ!...ん?どうかしました?」
「...もしかすれば...貴様を殺せば私の体は...!」
「何唐突に物騒な事口走ってるんですか貴女はッ!?」
「...私にはもう今ある可能性に賭ける、それしか手段が無いのでな...悪いが一度死んでくれ」
アッダメだこの方、ハイライトの無くなった目で白刃構えてらっしゃる。
「頼むから落ち着いてください!そもそも自分は怨霊、死ぬ事など出来ませんから!」
そう叫ぶと少女はピタリと動きを止め、白刃を下ろすと空を見上げ
「死ぬ事が出来ない...か...ハハ...これも皆から私への罰なのか...?ならば受け入れるしか無い、か...」
そう一言呟いた。
...発言からしてこの方は大罪でも犯したのでしょうか?先程施設の人間を惨殺したとは言っていましたがその時の口調から罪悪感は感じられなかった...ならそれ以前に更におぞましい罪を...?
「...この体の事はもういい。まずは都市を探すべきか...白刃からの制限が無くなったのならお前も来るのか?」
「そのつもりだったのですが...この森を抜けるまでの手伝いまでしか出来ません。『骸』が人の多い場所で暴走しないとは言い切れませんので...」(む、すっかりお茶が覚めてしまいましたね。新しいのを煎れて...おや、久しぶりの解説ですか。え?前回の出番からまだ数話しか経っていない?...投稿日時をご確認ください(目を逸らす)では気を取り直して、前話で
登場した『死ヲ貪ル骸』ですがこの大太刀は怨念の集合体であり刀本体の意思で様々な形に変容します。しかし怨念の塊ですので周囲に生物がいる事を察知するとその魂を取り込み自分達の一員にしようと持ち主の意思を無視して暴走し始めてしまうのです。...今の所はこれくらいにしましょうか。それではまた...
...えーと、茶葉は確かあそこに...)
「そうか、この体でどれ程戦えるのか私にもわからないのだから十分ありがたい。よろしく頼む。」
「了解しました!それでは、えーと...とりあえず先程の人間達が来た方向に進んでみましょう!」
それからしばらくは何事も無く進めた。途中得体の知れない何かが遠くからこちらを伺っているような気がしたが...どうやら蟲骸についてきてもらったのは正解だったようだ。今の私に対処は難しかっただろう、...足が痛い...
ただ歩いているだけのはずだが倒木などで高低差が多少出来ているせいか息が上がってきた...腹の横も少し痛む...足に外傷が無いとは言え流石に...これは...
「...すまないが...ゼェ...一旦どこか...休める...場所を...ハァ...探してくれないか...?」
「ありゃ...流石に人間、それも少女の肉体でこれ以上歩くのは無理がありますか...どこか休める場所でも......?」
蟲骸が足を止める
「これは...一体誰が...」
そこには円形に草木や地面、その全てが黒く焦げ、焼けただれたトンネルのような物が出来ていた。所々に退けられ反動で戻ったのか先の黒くなった枝が飛び出している。
「...片側は何処まで続いているのか分かりませんがもう片側はどうやら湖に繋がっているようです。あそこならゆっくりと休憩は出来ると思いますが...この焼け跡を作った張本人がいる可能性も...どうしますか?」
「私の今の状態でリスクを踏みたくはないが...これ程の焼け跡が出来る原因を野放しにして置くわけにもいかないだろう、運が良ければ休憩の後反対側で出会すかもしれん、向かうぞ。」
現状使える武器である白刃をいつでも抜刀できるようにし、操作できる蜂に周囲を警戒させる。慎重に進みそして出口へと辿り着く。
目の前に湖が広がる、周囲に生き物の気配は感じない...反対側には今通ってきたような穴が開いている、そこからこちらへと進んだのか、それともこちらから向こうへと進んだのか...いずれにせよここには私達以外何もいないと判断した。
「大丈夫そう...ですね...それじゃあ自分は水を汲んで来ますのでそこで休んでいてください。......ここの水澄んでるし...飲み水にしても大丈夫...ですよね?」
不安になる事を言いながらも湖へと向かっていった。
...まさか人間の体で歩くのがここまで疲れるとは...早くこの疲れをなんとかしなければ...
人間となった彼女は座り込んだ。もし彼女がまだ兵器としての身体であったのなら、彼女が休んでいる木陰のすぐ近くに居た何者かに気づくことが出来たはずであったのに...
......んー?...あー...眠っちまってたのか...俺...一旦休みにこっちに引き返したはいいが眠っちまうとはなぁ...もう時間の感覚も無くなってきた...まだ空は暗くないから夜では無いよな?なら早く探さねぇと...一刻も早く...ってん?
違和感を感じ低木の影から湖の方向をのぞく、するとそこに彼が想定していなかった物を見た。
こんな森の奥に人、それも女の子...?
そこには確かに金属のようにキラキラと光る銀色の髪、白を基調とした服、11.2程の年齢と見受けられる身長、そして空よりも綺麗な水色の瞳に可愛らしくも何処か儚げな表情をしている少女が居た。
「............」
しばらくの間言葉を失った。自分が何を考えているのか分からない、今はただ俺の頬が熱くなっていることだけが分かる...
そして彼は自分が抱いてしまった感情がなんなのかに気づいてしまい戸惑った。夢ではない事の確認と同時に正気()に戻るため力を込めて頬をつねる。
おおお落ち着けー?俺!お前はロリコンじゃないだろ?違うよな?そうだろ?な?そうだ、うん、絶対そうだ。断じて未成年っぽい少女を恋愛対象に見ている訳じゃ......
直後視界に映った物によって表情が消えた
それは白い柄、白い鞘、とある伝承と一致する、そして彼が求めた物であった。
彼の身体は無意識に構えを取り、そして行動に移した。
突如草むらから何かが飛び出した。完全に不意を突かれ反応が遅れる、そして右腕に不思議な感覚が流れた。一瞬熱いのか冷たいのかわからない感覚が腕を流れるもなんとか距離を取る。腕を見ると黒く焼けるように肉が抉れていた。
「へぇ、可愛らしい見た目に似合わずとんでもねぇ反射速度だな...」
声の主へと視線を移す、声と体つきからして男である事は間違いなく、顔はボロボロのローブのような物で隠れており完全には確認できないがニヤリと笑っている事だけが分かる。しかしそんな事より彼女が気にしたものは彼の腕であった。
人間としては異常な程大きく、そして指は獣の爪のようになっていた。更に不可解だったのはその腕がまるで燃え盛る炎のようであった事だ。
「貴様...何者だ...!?」
『蜂』が緑色に発光しすぐさま腕へと群がる。
「えっ?見た目とは裏腹に凄い形相で睨むじゃん...しかも強気な口調...あっでもこれはこれで...」
男はブツブツと小声で何かを口走る、その間に『蜂』が腕の再生を終え散開した。(おや...?この説明は少し後にやる予定では?え?やっぱり無理だった...ですか...ハァ...全く、次からそういうプランは具体的に固まってから実行するように心がけてくださいね。ですがまぁ役割は役割、説明するとしましょう。
前回の説明で緑色に光ると...まで説明して切りましたがその続きです。通常蜂は本体が拘束された場合にそれを切断し逃れる補助などを自動で行いますが万が一にも本体が負傷、または負傷者を発見した場合緑色に発光し治療を始めます。単体の治癒力はそれ程でもありませんが蜂自体自己増殖...発光による修復を利用した物ですが...により世界中に散開する事が出来るほどの数存在し、対象の周囲だけでも数百単位で治療するためあらゆる傷を治す事ができ、更には死人すらも(当然デメリット無く)蘇らせる事が出来るいわばチート装備です。著者曰く...『死別は絶対回避したい』だそうです。...読者の皆さまはいくらなんでもやり過ぎでは?とお考えだと思いますが...初めに申しました通りこれは駄作ですので致し方無いのですよ...さてと、今回はこれくらいにしておきましょうか。1つの話で2回も説明する事になるとは思っていませんでしたよ、全く...)
腕が完治した事を確認し白刃を構える。
「一体何が目的なんだ...?貴様...!」
男は一瞬彼女の腕の火傷が元どおりになっている事に驚いた顔をしたがすぐに顔を上げ今度はしっかりとした声で答えた。
「目的?そりゃあその刀が俺には必要なんだ、ただそれだけだ。今すぐそれを俺によこせ、そうすればこれ以上危害は加えねぇさ。」
「...私が貴様の言葉を信じるとでも?」
白刃を握る手に力が入る。
「まぁ...そうなるよな...?」
相変わらずニヤリとした笑いと共に男も構える
二人が対峙し周囲が静かになる、聞こえる音は風で草木が揺れる音のみ...
そして水が跳ねる音と共に刃と爪がぶつかり合った。...と彼女は思った。しかし実際にはそのような事は起こっておらず、気づけば白刃が手を離れ既に男の炎の手の中に収まっていた。
男にとって目的は白刃を手に入れる事ただ1つであり、少女との戦闘では無かった。なので彼は腕を攻撃に使うのではなく、相手が認識する前に白刃を手から奪い取ったのだ。
己の手の中から白刃が消えた事に気付いた時にはもう手遅れだった。
男は炎の腕を消し『素手で』白刃を手に取った。
「やった...やったんだ、俺は!話に聞いた通りの力が有れば今すぐにでも約束...を...ッ!?」
直後男が頽れる、呼吸は荒く顔は苦痛に歪んでいた。
...私の記憶違いでなければ...この反応、先程どこかで見たような...
「大丈夫ですか!?気づくのが遅れましたがこの蟲骸武者只今...ってアレ?彼どうしたんです?ついさっき見たときは対峙してたと思ったのですが...?」
「...一つ聞きたいことがあるんだが」
そう言いながら男が手から落とした白刃を回収する。男の様子はローブで見づらいが苦しんでいる事だけは確認できた。
「はいはいなんでも聞いてくださいな!あっ自分の知識の範囲内でお願いしますね」
「...白刃の呪いは引き抜いた後も有効なのか?」
「何を聞かれるのかと思ったらそんなことですか〜いやいやー、流石にあの性悪な雇い主といえどそーんなタチの悪い事するはずが...
...あの人喜んでそんな事するお方でしたね。そうですね、ハイ。」
目にも止まらぬ速さで蟲骸が目を逸らす、
私はただ...その男の身にこの後起こるであろう災難に同情し、せめてそうならないよう祈ってやる事しか出来なかった...
祈り始めてから3秒とたたずに男が立ち上がる、フラフラとしていてとても具合が良さそうには見え無かった。苦しんでいる間にフードの部分が頭からはだけていた。
そして男...いや、『彼女』はふらつきながらも、今まで感じられなかった程の敵意を込めた声で、先程までの低い声ではなく割と可愛らしいと美しいの中間辺りの声で唸った
「テメェ...ッ!俺の体に何をッ?しや...がっ...?え?」
そこには先程までの男の姿は無く
「心なしかいつもより声が高いような...それに一部を除いて体がとても軽く......は?」
所々が切れボロボロになった服、手入れをしていなかったようなボサボサとした腰まで届くほど長く赤い髪、スラッとした体にスイカを半分に切って仕込んだかのように豊満な胸...
...気のせいか...?あれを見るたび何故か私の胸の奥が痛むような...?
男だった者は今や自分がどうなったのかを理解した。
そしてその日二度目となる絶叫が森に響いた。
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