第3話 怨嗟の大太刀

破損した私機能の修復作業が始まったはいいが...逆に今使う事が出来る武器はいくつあるのだろうか...

『call』

その呼び出しと共に3種類の道具が目の前に現れる

「...呼び出せた武装は3種類だけか、想定外と言わざるを得ないが...『槍』と『蜂』さえあればどうにかなるだろう。」

(また私の出番ですか?はぁ...『蜂』はあくまで呼び名でその実態は目に見えない程のナノマシンです。この『蜂』実はもう既に登場しています。最初の話で出てきた棺は覚えていますでしょうか?あの棺はこの『蜂』が密集して出来た物で彼が言語を調べる時にバレない程度に砂のように分離し機械に侵入したり施設中の人間を殺し監視カメラを破壊していました。最も説明不足が過ぎたようですがね...通常時は目に見えない程の小ささで索敵や攻撃などを行なっております。しかし緑色に発光し目に見えるようになった場合には!...っと、今はこの辺で口をつぐみましょう。)

先程音が聞こえた場所に大分近づいたはずだが、この森の広大さを侮っていた...

「まったく、『翼』さえ使えればこんな事には...ん?」

前方から音が近づいてくる...数は6といったところだが妙だな...音がだんだん減っている...?

近くの木の上に登り前方を伺う。4人の武装した人間が必死の形相でこちらに走ってきていた。

「ハァハァ...アレが施設で起きた緊急事態の正体かよ!?あんなの人がどうにかできるもんじゃねぇだろ!」

「口を開く暇があるなら足を動かせ!追いつかれたら死ぬぞ!」

...何かから逃げているようだが...格好からするに施設の連中が呼び出した軍隊か?この世界の治安組織の人間が到着する前に奴らに占領されると厄介だ、ここで足止めしておこう。

木から飛び降り彼らの前に着地する、彼らは突然目の前に人型のシルエットが現れ混乱したがすぐに切り替え叫ぶ

「そこのアンタ!誰か知らないが助けてくれ!俺たちこのままじゃ切り殺されちまう!」

...?まぁいい、先程呼び出せた武器がうまく機能するか試すのが先だ。

呼び出しと共に柄は黒く、その表面には血管の様に浮かび上がった赤いイバラの模様が彫られている1本のナイフが現れ、それを手に取り構えると4人の心臓の上に赤い線が引かれ刃を振る。すると一瞬線に沿って景色が歪み、周囲は血で染まった。

...やはり脆いな、以前の人類もこれほど脆かったのだろうか...?

それにしても先程奴らは殺されると言っていたが...この先に奴らがあれ程怯えて逃げ出した原因がいるのだろう。このまま進めば鉢合わせるのは間違いない。もしそれが本来大人しく、危害を加えられたから反撃しその結果この兵士達が逃げ出したのなら話し合いで丸く収まるかもしれんが...それが好戦的なら話は別だ。罪無き者が理不尽に殺される...それだけは絶対に避けなくては...!

槍を手にさらに先へと進む、周囲は先程よりもより鬱蒼と茂り光も届きづらくなってゆく。すると突然前方から声が聞こえた、静かにステルス機能を使用し様子を伺う。

「助けてくれ...嫌だ...!まだ死にたくない!やめてくれ!」

泣き叫びながら男は懇願する。

!?...ステルスは正常に作動したはずだが...私の存在がバレたか...?

しかし実際にはその願いはWに向けられたのではない、男の奥に佇む『何か』に向けられていた。

「い...いやだ!やめ...て"...」

必死の命乞いも虚しく無情にも男は頭から叩き斬られた。

戦意を失った者にさえトドメを刺すとは...アレはやはり今始末しておくべきだろう。武器はほとんど使えないが不意を突けば楽に...

「...何者だ?出て来い、風の流れが少し変わった。そこに隠れているのは分かっている...」

...ステルスはしっかり機能しているし音も出ていなかった。だが風の流れでバレるとはな...だが会話が出来るのであれば好都合だ。ひとまずは話し合ってみるとしよう...

木の陰から出たお陰で相手の姿がはっきりと見えた。全身に白骨化したかのような色をした甲虫の死骸が集まって出来た具足を纏い、頭には一本の角が目立つ兜を被っている。だが妙な事に鎧や兜の下が完全に塞がれ見えなくなっている。顔は人と言うよりはこの世界の鬼と呼ばれる存在に似た形相をしている。だが口は対をなす形の甲殻のような物で隠されていた。そして手には先程哀れな兵士を切り裂いた...というよりは叩き切った紅黒い大太刀を持っていた。だがこの刀...違和感を感じる、刀そのものが蠢いているかのような...

ともかく今は奴に敵意が無いことを伝えなければ...うまくいけばこの森から出る道を聞き出せるかもしれない。

「すぐに姿を現さなかった事は謝る。だが貴方に対して敵意は...ッ!?」

突然振り下ろされた大太刀を間一髪槍で受け止める。なんとか受け止めはしたがわずかに力負けして押されている...

「この一撃を受け止めるか...だがこの先へは誰一人として通さん!」

「待て...ッ...こちらの...話を...!」

「問答無用!」

その瞬間刀が蠢き返しのついたソードブレイカーのような形状へと変化し、そのまま力強く刀を振られ反対側の木へと叩きつけられる。損傷は無いが態勢が崩れ、そこへ再び大太刀が振り下ろされる。人間であればそのまま血溜まりとなっていたであろう。

「舐めるな!」

しかし機械の身体に限界は無い、人ならばあり得ない動きで攻撃を躱し槍で反撃をする。生物ならどんな存在でも即死させる槍での反撃、ここでWの勝利...のはずだった。

槍がその身を貫くその瞬間、相手の姿が消える。

馬鹿な...確かに攻撃は奴を捉えたはず...どこに消えた?熱源反応を探知すればどこにいるかすぐに...ッ!?熱源反応0...敵影無し?そんな筈は...

戸惑うWの後方の何も無い場所から突如鎧武者が静かに、まるで初めからそこにいたかのように現れる、そして眼前の得体の知れない敵に対し大太刀を振り下ろした。が、敵の姿は斬撃に当たると同時に霧散し大太刀は地へと振り下ろされる。これは残像?ならば敵はどこへ...

「...ホログラムを使ったのは正解だったな。」

Wの本体が頭上から現れ目の前へと着地する。不意を突かれ武者の反応が遅れる。

「私の勝ちだッ!」

そして首筋へと槍を突き刺した。今度は姿も消えず攻撃が当たった事も視認出来た。しかし

「...降参だ。」

「なっ!?」

武者は平然とした顔で両手を挙げる。

攻撃は当たった...だが確かに手応えは全くなかった...何故だ?

「貴方程の実力の持ち主が何故あのような人間達の味方をする...?何か弱みでも握られて...」

「...何か勘違いしていないか?そもそも私はこの人間達の味方じゃないのだが...」

「...へ?」

「むしろ先程コイツらの親玉を殺したのだから敵対しているが?」

「............へ?」

先程の威圧的な雰囲気から一転して気まずい空気が流れる。

「お前...まさか私をアイツらの味方だと早とちりして仕掛けてきたのか...?」

鎧武者は気まずそうな顔をしながら目を逸らし

「いやー...あのその...ほら!...えーと...」

などとブツブツ呟いている。

「.........」

自分でも分かる程冷たい目で武者を見つめる。

「あははー......えーと...その...す、」

「す?」

「すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!」

...これは確か奴らのコンピューターのデータを漁ってた時に見つけた〔DOGEZA〕というものだろうか。

「.........(なんなんだコイツは...)」

〜しばらくして〜

「本当に申し訳ございません...疑うだけならまだしも話すら聞かずに斬りかかってしまうなど...かくなる上は腹を切って...!」

「落ち着け!...斬りかかって来たことに関しては何とも思っていない。だからまず話を...」

「...へ?許してくださるのですか...?私のような不埒者を!?」

コイツ...人の話を聞くつもりは無いのだろうか...流石に面倒だな...

「お強いだけでなくここまで寛大だなんて...!そんな方を私は疑って...あぁ...穴があったら埋まりたい...そしてそのまま地獄にでも落ちたい...」

コイツに話を聞こうとしたのは確実に間違いだった...先程の兵士たちを蘇生して尋問でもした方が早いかもしれないな...

「あー...生まれ変わったらサンゴにでもなりたいなー...ってまだ名乗っておりませんでしたね。先程は失礼致しました...自分は『白刃の護り手』、『双刃に縋り憑く者』。この大太刀、『死ヲ貪ル骸』...いつ聞いてもこのネーミングセンスは無いと思いますが...を封印、もとい監視しとある『刀』を護るべく呼ばれた悪霊の『蟲骸武者』(こがいむしゃ)という者です。以後お見知り置きを。」

「悪霊...?なんだそれは?」

「んー...?霊なら都市部でもたまーに見かけると思うのですが...まぁ説明しますとあの世へと行くはずだったのにこの世へ未練...それも怨みを持ちこの世に留まった存在です。霊とは普通は触れることが出来ない事や物体をすり抜けられる点では変わらないのですが大きく違う点として悪霊はこの世の存在に悪意を持って積極的に襲いかかる所ですね。ま、自分は雇われ悪霊なので守るべき刀からある程度の範囲から外には出られないんですけどねー☆(キメポーズ)」

あぁ、コイツ生きた存在じゃなく更に物体をすり抜けるから槍が当たらず、当たっても無事だったのか...それは分かったとして、

「先程からお前の話に出てくる守るべき刀...とは一体何なのだ?」

「えっ!?(しばらくの間)この森の噂話をご存知無いのですか!?えっ!?知らないのにこんなところまで来たんですか!?」

.........なんなんだコイツは...

「まぁ短い噂話だから話しますけど...コホン、『その昔この森に名のある武士が迷い込んだ。その武者は老若男女問わず幾千もの命を斬り伏せ、気づくと森で迷っていたという。その武士はそのまま死んだがその武士が持っていた刀は特別な力を持っており、今もなお森の何処かに眠っている...』大分端折りましたが大体こんなお話なんですけども、なんとその刀!実在しておりそれを守っているのが自分って訳ですよ!(誇らしげに胸を張る)」

「んでまぁその刀なんですけど雇い主の話によると『君を打ち負かす程の実力を持つ者が現れたらその人に渡してくれ』と言われてるのでもし貴方さえよろしければご案内致しますが...」

「特別な刀か...正直そんな物に興味は無いが...あいにく今は武器がいる。(兵装の修復作業がしばらくは終わりそうに無いからな...)案内よろしく頼む。」

「了解しました。それじゃあ付いてきてくださいな!えーと...確か来た方向がこっちだから...こっちで合ってるよね...?(ボソッ)」

〜数分後〜

よし着いた!これがその刀です!

そこには木漏れ日を浴びて美しく光る白い刃の刀が刺さっていた。

「これを引き抜けばいいんだな?」

「はい、でも確か雇い主の方が何かしらの罠を用意してるって言ってたような気がしますが...なんだったっけ...えーと...?」

「安心しろ、どんな罠だろうと私は機械。人間なら死ぬような物でも問題は無い。」

そして刀を一気に引き抜いた。...が今のところ何も起きないな...罠とやらは不発したのだろうか?

「確かあの人は...『君を打ち負かす程強くって刀を所持出来ても使えなければ誰が持とうが関係ないよね!(サムズアップ)』とか言って...ってぇッ!待ってください!それ引き抜いちゃ...!」

突如視界がガクンと落ちた。

...なんだ?膝をつくように信号を飛ばしたはずは...

「ガ...ァッ...!?」

体が...熱い...?あり得ない...私は機械だ...熱さなど感じるはずは...!チッ...ダメだ...熱が酷い...視界がボヤける...平衡感覚も...無くなって...ッ!?

次に彼は本来あるはずのない...機械には感じる事すら出来ない『痛み』に襲われた。

これは...まさか...痛い...のか?機械の私が...?一体どうなっているんだ...私の身体は...!腕が痛い...脚も、頭も、まるで引きちぎられるように...?待て、何故私は...この感覚を表現できる...?機械に感覚などない...そんな表現...出来るはずは...

そう考えていると身体の自由が無くなった時と同じくらい突然に痛みや熱が消えた。

...一体私に...何が起きた...?今はまず立ち上がらなければ...?何故だ...上手く立ち上がれない...?平衡感覚が壊れたのか...?蟲骸は何故...あんなに顔色が悪いんだ?それに先ほどより大分大きくなっているような...?まぁいい、取り敢えず今は...

「私に一体...何が起きた?」

恐らくすぐ近くからとても可愛らしい声が響く。

?何故私が言いたい事を少女らしき声が代弁している?...そもそも少女など一体どこに.........ッ!?まさか...いや、そんな筈は...!

「あのー...その...ハハハ...取り敢えず鏡でも見ます?」

渡された鏡で自分の顔を写す

大丈夫だ、安心しろ私よ、いつも通りの機械が写る筈だ...!万が一にもそんな事には...

鏡に映ったのは純白に光る装甲を持つ機械...ではなく、

幼い顔つき、水色の瞳、銀色に輝く髪は腰にまで届くほど長く、頭のてっぺんからは1房飛び跳ねていた。(いわゆるアホ毛です。)

...そんな...あり得ない...そうだ!鏡に細工がされているだけだ!身体はいつも通り...!

視線を下に向け手を見る、とても小さく柔らかそうな手だ。服の裾は白色が基本だが縁取りは銀色になっている。

これを読んでいる皆様はもうお判りであろう。そこにWはもはやおらず、ただ1人の幼女が呆然と佇んでいるだけであった。

その日、森に幼女の嘆く声が響き渡った。











......?今確かに女の子の声が聞こえたような...いや、流石に気のせいか。こんな場所に人がいるはずがねぇ。この森に入ってから1ヶ月...まだ見つからない...俺の能力もそろそろ使えなくなっちまう...一刻も早く...アレを...

「『白刃』を手に入れねぇと!」

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