第2話 誓いを抱いて

前回『兵器』に挨拶をしてから1週間か、全く世の中の無能共には困ったものだ...大人しくこちらの情報を鵜呑みにしていればいいのに所にまで首を突っ込もうとする輩がまだ現れる...毎度『掃除』の依頼を出して更にはその証拠の抹消までせねばならん。お陰で3日は早く来れたというのに1週間も様子を見に来ることができなかった...幸いと言うべきか残念というべきか未だに『兵器』が再起動する様子は無いようだが、担当職員達がこれ以上痴態を晒すのなら『退社』させることも検討しておこうか...む、もう着いたか。

エレベーターが開いた、眼前に広がるのは通勤直後の社員達が行き交うロビーや社員達が慌ただしく働らき雑音に満ちたオフィスでも無い、見渡す限りに精密な機械が立ち並び規則的な電子音が響く研究施設の一部屋である。

モニターには各階全ての部屋の様子が映し出されており、そしてその一つに白い装甲を纏った、全く動く気配のない『兵器』はいた。

「あれから進展はあったか?」

「いえ、送る電力量を増やすなどできる策は試しましたが今のところ起動する気配すら...」

1週間が経っても進展無しとは、性能検査が出来るのはいつになるのだろうか...

「私の計画のためにも必ず起動させろ、そのための資金は惜しまんからな。」

「は、はい!それと...あの『槍』についての調査結果なのですが...』

「何かわかった事は?」

「それが...その...初めは『槍』に誰も近づこうとせず検査ができませんでした。なのでモルモットを使って運ばせようとしたのですが...運ぼうとして触れたモルモットが即死しました...」

「ほう...触れただけでか?」

「はい、皆糸の切れた人形のように...

その後調べたところ『兵器』同様地球上に存在するどの鉱物にも当てはまらない物質でできている事が判明いたしました。」

「やはりそうか...だが触れただけで生物が即死する鉱石...か」

もしも複製する事が出来れば『兵器』と鉱石!両方の力でこの国...いや、世界そのものだって私の支配下に...!

「...あれ?おかしいな...定時連絡の時間はとうに過ぎてるんだけどな...」

「んー?どうかしたのか?」

「それが...『兵器』の見張り番達からの定時連絡が未だに送られてこないんですよ...」

「あぁ...アイツらどうせ誰も来ませんよーなんて言っていっつも昼間っから飲んでるのさ。どうせまたその辺で酔いつぶれて寝てるんだろうよ。アイツら今度こそは減給...いや、退職する事になるかもしれないってのに全く...」

その日、施設内はいつも通り、普通の1日だった。組織のトップがやってきた事と...

『これからその日常が崩壊する』という事を除けば...

「...た、大変です!」

「どうした?また計器が飛んだか?」

「そんな事じゃありませんよ!突然『兵器』を監視していたカメラからの映像が途切れたかと思ったら別の部屋のカメラも連鎖的に接続不能に!」

「そんな馬鹿な...!『兵器』が脱走したとでも言いたいのか!?ついさっきまで起動する気配すら無かったんだぞ!それにあの枷は戦車の砲撃でも傷一つつかない筈だろう!?他の職員との連絡は!?」

「...ダメです、どの職員も応答しません!」

そんな馬鹿な...アレは人に過ぎた存在だとでも言うのか...?私はとんでとないモノを目覚めさせてしまったのだろうか...私の計画が遅れてしまうがやむを得ないか...

「森の反対側の施設の鎮圧部隊に大至急SOSを...もう送った?なら急いでここから脱出し、この施設を完全封鎖する!あとは鎮圧部隊に任せればいい!脱出装置を起動させろ!」

男は装置が隠してあるはずの場所に立つ、しかし...

「............」

「............」

「............」

「どうした...?早く起動させ...ッ!?」

彼の命令に従う者は誰一人としていなかった。当然だ、その男を除いた全ての人間は首と胴が繋がっていないのだから。

「...そんな、馬鹿な...だ、誰か無事な者はい...!?」

そこから先の言葉は激しく壁に叩きつけられ遮られた。そして目の前には...

「◆▼■●▼■▲」

『槍』を男の眼前に突きつけ、現在では理解できる者が居ない言語を発する『兵器』がいた。

「な...何を...話して...!?」

「●◆■●?▲■●◆...鼃、亜ー、あー...こんなものか?」

「急に喋った...まさか、学習したとでも...?」

「貴様がこの施設に再びやってくるまで暇だったのでな、この世界がどのような状態なのか調べさせてもらった。」

...と言っても奴らにバレる可能性の無い範囲内でだが...警戒する必要は無かったか。

「君は...いや、お前は一体...?」

「貴様のような外道に名乗るのは癪だが...これが最後だろう。

私は【旧世界を終わらせたモノ】

禁断指定No.0 code「W」...この世界での発音だとこれが私の名だ。」

...たしかにこれが私の名で間違いないはずだが...何か違和感が...まぁいい、今はコイツを処分するのが先だ。

「旧世界...終焉...?どういう事だ...?それではまるで...!」

...あぁ、そうだ...それが私が私である理由、償うべき罪...

「察しの通り、今貴様らが暮らすこの地球、その前に存在していた昔の地球...つまり旧世界を破壊した兵器...それが私だ。」

「惑星一つを破壊した兵器...?馬鹿な!地球上のどんな武器を使おうともそんな事出来るはずが...!」

「それが今の地球の技術力か...どうやら昔と比べると相当退化しているようだな...以前の技術では地球を破壊する事が可能な道具もいくつか存在したと言うのに...」

もっとも、全て禁断指定として封じられていたのだが...

「世界を破壊することの出来る兵器...か、ククッ...ハハハハハッ!やはり私の勘に狂いは無かった!君は最高の兵器だ!その力さえあればどんな国のどんな組織も敵ではない!世界そのものを支配できる!兵器とはそのために造られた物だろう?ならば私と協力しようじゃないか!そしてこの世界を...!」

「...お生憎様だが、」

その言葉と同時に『槍』が男を貫く、彼は最期に

「私は貴様の道具でも味方でも無い!私は『正義』の味方だッ!」

その言葉を聞きながら崩折れた。

「...これで終わったか。」

移動がてらこの世界の治安組織が腐っていない事を祈りつつ通報をする。

それが終わると同時に出口が見えてきた。

「...やっと出口が見えてきたか...現在使える機能は...地上の状況調査くらいか、時間はかかるがやらないよりはマシだろう。」

奴ら...どれほどの量の電力をかけたのだろうか...お陰で元から破損気味だった記憶媒体や兵装の大部分が大破している...どれも時間をかければ修復が可能だが...旧世界の記憶がほとんど無い...私が旧世界を破壊した事実、そして...あの『誓い』の記憶だけは残ったが...

今の世界は奴らのような悪人ばかりなのだろうか...ならば全て裁くだけだ。

いずれは世界を破壊しうる程の兵器が作られてしまうのだろうか...ならば全て破壊するだけだ。私は私の正義を貫くだけだ...もう誰なのかその記憶すら壊れてしまったが...あの人が最期に求め祈った『誰も理不尽に泣く事の無い世界』...その実現するまでは...!

「やっと外に出られたが...ここは森...だろうか?破損していない機能で今使えそうなものは...飛行システム...ダメか、記憶媒体と兵装の修復があらかた完了したら大至急で修復するように設定して...ん?」

...『deadly sins』の操作が不能...?まさか...いやそんなハズは...損傷が激しすぎて操作が出来ない...それだけなら良いのだが...今は修復結果を待つしか無いか...もし最悪の事態になっているのなら...大至急阻止しに行かなければ...!

「音探知は使える...ならばこれで都市を探して...」

よし、この音は人間が言葉を発する音で間違いない、居住区だろう。音からするき相当な人数もいるようだし...やけに固まって動いているがまぁ大丈夫だろう。

「まずは向かってみるか。...先ほどの連中のような人間ばかりで無ければいいのだが...」

その日世界に『正義』は現れた。

古き世界での誓いを抱いて

己の罪への贖罪を

愚かな悪への断罪を

『正義』は静かに動き出す









〜同時刻、Wが向かっている場所〜

森の中のとある場所がやけに賑わっている、その場にいる人間は誰もが武装しているが...それは何故か?組織のトップがいるはずの施設からSOSが出されたからだ。まるで1つの都市全ての人間を集めたのかと見間違う程の人数である。

「しっっっかし組織のトップが出向いてる施設からの緊急連絡が入ったからってここまで大所帯で、それも『人食いの大森林』だなんて呼ばれてる森林の中まで行く意味あるのかよ...早く帰りてぇなぁ...」

(描写的に分かりづらいと思いますので解説いたしますと、先程の施設はただでさえ人の住む場所から相当離れた場所にある大穴の側に無理矢理作った施設で、彼らはその真反対からそこに向かっています。...と言ってもこの大穴がそれ程大きく見えないほどこの森は広大なので...彼らがたどり着く頃には大惨事となっていたでしょう...まぁ施設の人間としては生きている者達が全員脱出した後の施設封鎖で完全にWさんを閉じ込められる、そう踏んでいたから通報したようですがね。)

「あの施設では何か特別な物を研究してる...って噂で聞いたがそれが暴走したとかだったりしてな!」

「怖い事言うなよ!縁起でもねぇ...それにしても...なんかこの辺異常に生い茂ってないか?1歩進むだけでも苦労するぜ...」

「確かにこれは異常だな...今まで通ってきた所はここまで生い茂って無かったのに...まるで、何かを守ってるかのような...!」

その時先頭を歩いていた者達は見つけた...いや、見てしまった。

影になっていて輪郭しか見えないが...それでもそれが人間ではない事だけは分かる。

すぐさまハンドサインを送りその場に居る都市規模の人間全員がその『ナニカ』を包囲する。

まさかこれが緊急連絡の原因か...?だがこれ程の人数、しかも武装は最新式だ、負ける事はあり得ない...!

「動くな!貴様は完全に包囲されている!手を頭の後ろに組んでその場にうつ伏せになれ!もし抵抗するのならば直ちに攻撃を始めるぞ!」

『ナニカ』はゆっくりと周囲を見渡した、その時その側に武器...恐らく刀が刺さっているのが見えた。

「ん?それは...刀...?まてよ、確かこの森に関する話の一つに...!」

「...あぁ...貴方達も、」

唐突に『ナニカ』が口を開く

「...『コレ』が目当ての盗人かッ!』

刹那、『ナニカ』が消えた。まるで元から何もそこにはなかったかのように...

「ッ!全員周囲を警戒しろ!盾持ちは前方に!姿は消えてもこの円周内からは出られん!居場所がわかったら集中砲火でケリをつけるぞ!」

...彼は盾持ちからは相当後ろに位置し構えていた。だから緊張してはいたが自分は大丈夫だと安心しきっていた。彼のいる場所と反対側の部隊の後ろから時計回りに絶叫と共に肉片が飛び散り血の海が広がるその時までは...

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