第1話 虚空に響く鼓動

約一年前、とある国で大規模な地震が発生した。その地震による被害は甚大なものであったという。多くの学者や専門家が原因を究明しようとし、連日報道機関によって様々な議論が飛び交っていたが...数ヶ月もすると忘れ去られていた。

そして震源となったとある密林にはとても深く、そして広い穴が開いていた。その穴は表向きはとある組織...(っと、情報不足でしたので補足しておきましょう、この組織は常軌を逸した野心家であり財と権力の為ならどんな手段でも使うような男が創った...そんな組織です。)が数年前に採掘の始まっていた資源の採掘現場である。表向きは...

しかし実際にはこの穴は地震と同時に開いた穴である。ある日組織内にその底に地震の原因となった『モノ』がある事を解明した...いや、してしまった者がいた。

そしてその『モノ』は掘り出された。

地下深くに埋もれていたとは思えないほど滑らかで、現在では解読する事の出来ない記号の彫られた棺が...その場で開けようと試みた愚かな者達も居たがどんな道具や重機を用いても開ける事は叶わなかった。その翌日、そのような歴史的発見をしたというニュースは1つとして無かったという。

それから数ヶ月の歳月が経ち、この世界で用意できる最先端の技術を集めたその施設...(説明が省かれておりましたのでまたも補足しておきますがこの施設は先程の穴から採掘した鉱石を調べるために数年前から建てられていた研究施設...だと世間には知らせているようです。)でついに棺が開かれた。

中に入っていたのは透き通った柔らかい緑色の、歴史に名を残すほどの彫刻家が彫ったかのように美しい『槍』であった。手にとってその美しさをじっくりと眺めたいとその場にいた者達は感じたが、それ以上にこの『槍』には絶対に触れてはいけない...と本能が警告を発したかのような恐怖を覚えたという。

しかしその場にいた者達に最大の高揚を与えたモノは別にあった。

まるで『槍』を護るかのよう抱き抱えて『ソレ』はあった。

何千...いや、周囲の地層からして何万年以上も前から棺に入っていたとは思えないほど純白の装甲はこの世界に存在しない鉱物で出来ており、古代技術で造られたはずのソレは現代技術では到底造る事の出来ない代物...人の形を模した『兵器』であった。

一切の欠損や損傷は無く、顔であろう部分には目となるであろう黒い1本のライン、そして口には全てを噛み砕いてしまいそうなほどの牙がついていた。幸いな事はこの『兵器』が完全に機能停止していた事である。しかし不幸な事に人間の欲望に果ては無い、彼らは莫大な費用をかけて『兵器』の再起動を試みてしまった...

............ぅ.....あ...?.....こ......こは....どこ......だ...?.........わた......しは.........だめ......だ...じぶ......んの名....前も....わから......ない.........

............視界......も...くら......い.........ひとま....ず....周囲の.....確認を......

上体を起こそうと体を動かす、だが少し動かした所で動きが止まる。

...........?.....これ以上....体が......動かせない......?拘束...されている.........?......だが.........私には...やるべき事が......あったはずだ...それが何か........それすら...思い出せないが......重要な......事だったはず...だ......ん.........?何か....あの方向から.....聞こえる......話し声......か......?

「...!対象に反応有り、再起動に成功しました!」

「おぉ!やっと起動したか!...ん?こちらに顔を向けている...私達の声が聞こえているのか?それなら好都合だ、これから主人となる者として挨拶でもしようじゃないか!...拘束具の点検は今朝行ったばかりなのだろう?ならば心配はいらん、私一人で行く。」

.........?...音が....近づいてくる......アレは人間......だろうか.........?奴は...私が......何者なのかを...教えて......くれるの...だろうか.........?

「やぁ、お目覚めかな?『兵器』よ!...もっとも私の言葉を理解しているとは思えんがな。」

......?何か...私の知らない言語で.....話している......?だが何故だろうか...こいつからは......嫌な感じがする.........

「私にはこの後予定があるのでね...あまり長居する事が出来ないのが残念だよ。だから端的に言うが、これから君のデータを取らせてもらうよ。君のその装甲がどれほどの衝撃に耐えられるのか、戦力として君がどれほど役に立つのか...どのような結果を得られるのか、今から楽しみでならないよ...!」

......言葉は理解できるようになったが...奴の為に働けという事か......それが私の存在理由なのか.....?いや、そんなくだらない事では無かったはずだ...ならば何故......?

「測定の結果によって君の今後が決まらのさ。『兵器』として利用させてもらうか、そのままスクラップとして処分するか...ね。」

...私を利用する?......つまり私が本来するべき事はコイツに協力することでは無いのだろう......ならば私の存在理由は一体......?

「そして素晴らしい結果を残した場合は君に残っている全てのデータを消させてもらうよ。もし君に理解能力だけでなく自我まであっては困るのでね...あくまで君には私の命令に従う忠実な駒になってもらうのだから。」

駒...か、その口ぶりからするにコイツは正しい行いをするような人間では無いのだろう。先程感じた不快感はそれのせいか...

「ふむ...そろそろ時間か。今回はここまでのようだ、あまり遅れると金食い虫がうるさいのでね...『兵器』を保管室に移送しろ!それではまた会おうじゃないか、私の野望の為にも失望させないでくれよ?」

...虫唾が走る、こんな人間のために働く?ふざけるな!まだ私が何者かすら思い出せない...だがこれだけはハッキリとしている、私は正しい事の為に存在している。それだけは...?体ごと移動している...拘束していた台ごと移動しているのか...?だがここを動くわけには...まだ私が何者なのかすら分かっていないのに...こんな所で...!

必死に体を動かすが拘束具が外れる様子は無い、どうやら抵抗される事は相当警戒されていたらしい。

嫌だ...せめて私が何者かだけでも...思い出せれば......ッ!?

その時暴れていた反動で目隠しが外れ視界が開けた、そして『兵器』はあるモノを視認した。己が守るべく抱いていた、そして今では邪な者達によって無数のコードに繋がれている美しく緑色に光るその槍を...

あれ...は?......ア...レは...!

「......あ...ァ.........!」

そうだ、やっと思い出した!自分が何のために存在しているのか、自分が何者なのか!どうして今まで忘れていたんだ!?どうして...どう...して...?

「...あれ?おかしいな...」

「ん?どうかしたのか?」

「それが...先程まで起動していたはずの被験体が完全に停止してしまって...」

「先程の起動は一時的なものだったのか...?ならありったけの電気を流しておけ!そのうちまた起動するだろう。あの『兵器』さえあれば私の長年の野望も...フフフ...」







...............









......ねぇ、最後に約束してよ、

僕はもう助からないからさ...せめて...

せめてこれから先、今の僕のように理不尽に苦しみ涙を流す...

そんな悲しい結末が決して無い...

そんな...平和な...世界...を...

そうだ、この願いを...『あの人』の祈りを...!それが私の...私の...ッ!

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