『避難妄想』

『避難妄想』

　台風さん、きたよ！

　また、きたよ！

　大雨さんが、ふるぞ！

　また、ふるぞ！

　潮位高いぞ、川が溢れるよ！

　池も溢れるよ！

　地下街も、地下鉄も

　逃げろ！　逃げろ！

　とにかく逃げろ！

　はやく、逃げろ！

　ほら、地震がくるよ

　今すぐでも、くるよ

　外国の地震でも、津波はくるよ

　火山が、爆発するよ

　今すぐでも、爆発するよ

　ミサイル、飛んでくるよ

　今すぐでも、飛んでくるよ

　飛行機が、部品が、おちてくるよ

　もしかしたら、今すぐでも、おちてくる

　人工衛星も、おちてくる

　時々、ほんとに、おちてくる

　誰しも、みんな、助けたいけど、でも、助けられないことがある

　必ず助けはくるよ

　でも、助けられないかもしれないよ

　自然は、社会と違って、差別はしないから

　人間は、間違いをするから

　だから

　逃げろ！　逃げろ！

　あなたは、あなたにしか、助けられないから

　愛だけでは、助けられないから

　善意だけでは、助けられないから

　勇気だけでは、助けられないから

　主義や、主張だけでは、助けられないから

　闘争心だけでは、助けられないから

　外側のかべに、接着剤をぬる

　倉庫の柱に、屋根に、少しずつ、接着剤をぬる。

　駐車場の柱に、少しずつ、接着剤をぬる。

　その天井の、なみいたに、少しずつ、接着剤をぬる。

　ブロック塀に、べたり、接着剤をぬる。

　倒れないで、くださいな

　おうちの回りに、排水路　ほる

　古くなった床に、少しずつ、接着剤をぬる

　剥がれかけの、部屋のかべに、接着剤を、少しずつ、ぬる

　天井に、少しずつ、役にはたたないだろうけど、安い板を、張り付ける

　電池式の、予備灯を、家のなかに、はる

　警報ラジオを、柱に、張り付ける

　いつ、逃げるの？

　いつ、何がやってくるの？

　やれやれ、これじゃ、余計、寝られない

　睡眠薬が　命とりに　なるかもしれないな、

　でも、寝られなくても、命とりさ

　どっちみち、危ないよ

　危機感をひたすら高めるのが、正しいかどうか

　そこは、混ぜ合わせの、難しさだね

　でも、強迫性観念のつよい、たぶん、おくすり、たっぷり持ち込む、やたら、お手洗いがすぐそばの、ひとりぽっちのやましんは、避難はこわい

　もう、避難妄想ですよ

　これでは、もう

　戦時中の、空襲警報みたいじゃないですか

　自然さん、もう少し、我慢してくださいな

　人間さんは、我慢があまり、利かないから

　すぐ、いらいらして、おたがいに、嫌がらせしたり、けんかしたり、するから

　あなたが、お手本を、示してくださいな

　避難しなくてよいように

　みんな、なかよく、できる　よに

　こんやは、警報、でないよに

　あなたさまも　やましんも、あんしんして、寝られますように！

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