第9話 心は秋晴れ
告白したからといっても、二人とも家庭があり、何か変わる訳でもない。それに、狭い町だから、二人でカラオケになんか行ったら、直ぐに噂になってしまう。残念だが、そんなことはどうでもいい。真由美は気持ちがすっきり、正也クンも笑顔、それだけでいい。
秋が深まった10月下旬の金曜日、執務室から抜け出した真由美は、いつものように食堂に向かった。
「はい、カフェラテ」
「あ、ごめんなさい」
先に来ていた正也クンが自動販売機のカップを手渡してくれた。
「ふぅー美味しい」
気温も下がり、本当に温かい飲み物はありがたい。
「休みはどうするんだ?」
「そうね、買物かな」
「ははは、主婦だからな」
「そう、ちゃんとしないと」
いつものたわいもない会話に笑顔の真由美が「あなたはゴルフ?」と返すと、彼は「いや、明日、東京に帰るんだ」とちょっと寂しい顔になった。
「どうしたの?」
「うん、女房の具合が悪くてね」
「そうなの…」
「婿養子だから、こういう時は駆けつけないとね」
家庭の事情はいろいろ、話したくないこともあるだろう。正也クンは決まりの悪そうな顔をしていた。
「帰ったついでに銀行にも寄ってくるから、火曜日だな、会社に来るのは」
「大変ね」
「まあ、仕方ないさ」
コーヒーを飲み終えた正也クンは「うぅー」と背伸びをした。
「じゃあ、火曜日に、また。ここで」
「はい。あなた、気をつけてね」
「うん、ありがとう。寒くなるから、真由美も体に気をつけろよ」
執務室に戻る正也クンの背中はとても大きく、見送る真由美の心は〝秋晴れ〟だった。
しかし、これが永遠のお別れとなるとは、想像すらしなかった。
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