第6話 顔が赤いわよ!


それからというもの、真由美が結城部長の机の傍を通る時、目礼すると、彼も必ず“元気?”というように微笑みかけてくるようになった。


しかし、人の目とは恐ろしいもの。誰にも気づかれてはいないと思っていたのに、小池明美は気がついていた。


「ねえ、真由美さん、結城部長と知り合いなの?」

「えっ、どうして?」

「だって、いつも目で挨拶しているじゃない」

「いえ、そんなことじゃないのよ」


真由美は自動販売機の前でのことを話したが、「ふふふ、そうなの。ふふん、まあ、そういうことにしておきましょうか?」と彼女はニヤニヤしていた。


「何よ、変な笑いをして」

「オフィースラブ、久し振りに思い出しちゃった、この言葉」

「やめてよ、そんなこと言うの」

「ははは、顔が赤いぞ」


冷やかされて真由美は思わず頬を押さえてしまったが、確かに熱い。

(ウッソ、何よ、こんなの、え、どうしよう…)

先日、トイレに駆け込んだ時と同じ。意識していないつもりでも意識している。


「ふふふ、やっぱり、そうなの?」と明美は突っ込んでくる。今日は相手が悪い。「もう、明美さんったら」と言えば、「可愛いんだから」と冷やかす。

「もう、意地悪なんだから」と背を向けたが、こういう時は攻める方が強い。

「やめてもいいけど、今夜、飲みに行くの付き合ってよ」

「分かったわよ。何でも言うことを聞きますから」

「ははは、約束よ」

今夜の飲み代は高くなりそうだ。仕方ない。口止め料だから…

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