第3話 遠くの恋人より近くの他人
それから間もなく、真由美は大学の友人にボーイフレンドを紹介された。
「ねえ、彼なんかいいと思うけど?」
「え、でも…」
頭の片隅ではいつも正也のことを思っていたが、東京は遠い。
「付き合ってみなさいよ」
気は進まなかったが、そう言われて、何回か会っていると、情が湧いてくる。
「ま、真由美ちゃん…」
「あ、いや…」
初めてのキスは二十歳の時。レンタカーを借りてドライブした峠のパーキングエリア。甘いも酸っぱいも何もない。ただただ、唇を合せただけだった。しかし、急速に仲は深まり、初体験は二十一歳の秋。
「真由美ちゃん、いいだろう」
彼の下宿で迫られたが、「ダメよ、それはダメ。そんなことしたら、お嫁にいけなくなちゃう…」と逃げようとしたが、「ぼ、僕と結婚しよう」と言われ、「ほんとね?絶対よ」と体を開いてしまった。
だが、就職が決まり、彼は東京へ。またしても叶わぬ恋で終わってしまった。
その頃、開かれた高校同期会で「高橋君は都市銀行に就職したんだって」と話を聞いたが、手が届かない人だと思って諦めた。
大学卒業後、真由美は就職した地元の自動車販売店の同僚、2歳上の牧野(まきの)武(たけし)と知り合った。
彼は根明かのお調子者、知的で物静かな正也とは全く違うが、一緒にいると楽しくて、「この人となら幸せになれる」と直感した。そして結婚。姓も飯田から牧野に変った。幸いなことに二人の子宝、男の子と女の子にも恵まれた。かれこれ30年、真由美は50歳を超えていた。
長男は今年で27歳、就職、結婚して東京にいる。だが、25歳の長女は地元企業に就職し、自宅から通っている。
「お母さん、今日は飲み会だから、遅くなる」
「また、合コン?いい加減にしなさいよ」
「ハイハイ、分かりました」
娘はこの通りだから、結婚の気配は全くない。
「今夜も接待だから、晩飯はいらない」
夫はいつもの通り。慌ただしく出勤していった。
今朝もにぎやかな始まりだ。朝食の後片づけを終えた真由美も鏡に向かった。
そう言えば、今日は新しい部長さんが来る日、どんな人かしら?
ふと思ったものの、自分は派遣社員、誰が来ようと関係ない、直ぐに忘れてしまった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。