1章 04「そして服だな。なるべく綺麗な服。正直裸は落ち着かない」
4度目の目覚め。明かりは無く、闇だけが満ちている。
「あれ、夢か?」
ぼんやりした頭で、自分自身に尋ねるかのように独り言ちる。
「いや、あの感覚、夢じゃない。またやられたのか……」
手のひらを見つめ、感覚を確かめるように握って開く。
「さっきの剣士、強かったなぁ……バード・スラッシュだっけ。あんなこともできるんだ」
少しずつ思い起こしていく。そしてあることを思い出し、慌てて辺りを見回す。そしてあるシルエットを見つけ、驚いたように立ち上がる。
「き、君も復活したのか!? ウィルソン!!」
闇に立ち尽くすそれが彼の声に振り向き、暫く見た後、元の入り口方向に向き直る。
「やっぱりウィルソンだ! 良かった。もう会えないかと思った……」
所詮は物言わぬガイコツ。何が良かったのかアレだが、それでも愛着めいた感情を感じていたウィルソンの、変わらぬ姿でのリスポーンに喜びと安堵の息を吐く。
「はぁ……しかし、ハンターだっけ? 多分あの4人、グランドレイン以外にもいるよね多分」
どれだけいるかは分からないが、他にもやってくる人間はいるはずで、自分はともかくウィルソンもまたやられる恐れがある。それはどうにも忍びなく感じていた。
彼は座り込むとボソボソと独り言を言いつつ考え事を始めた。暫くそうしていると、よしと声を出して立ち上がり、ウィルソンの向かい側に立つ。
比重の軽い頭でどうにか今後の方針を考えたらしく、ウィルソンに話しかける。
「いくつか課題があるけど、まず早急になんとかしなくちゃならないことが3つある。なんだと思う?」
意味もなく勿体ぶる。ウィルソンが沈黙をもって答える。
「まず1つは名前だ。あの時ヴィルさんが名乗ってくれたのに名前も答えられなかった。それはいけない。ああいう時にカッコよく名乗れるのって、大事だと思うんだよね」
優先順位の1がこれである。もっと大事なことがあろうに、それを突っ込む相方はいない。
「次に拠点だ。ここはハンターたちがまたやってくる可能性があって危険だ。それに暗いしゴミゴミしてて居心地が悪い。できれば寝心地のいい環境と水場が欲しい。そうだな、ソファとベッドはもちろんだけど、お風呂とキッチンもあると良いな。まぁ、確かにガイコツだから入浴の意味は薄いかもしれないけど、埃っぽくなってるし、気分の問題ってのもあるかな」
彼は自分で出汁でもとろうと言うのか。
「そして服だな。なるべく綺麗な服。正直裸は落ち着かない」
まずは落ち着いて考えろと言いたい。
「最後に状況確認だ。今自分が置かれた状況が分からなすぎる。ここから出るなり人と話すなり、確認することが必要だ」
3つと言いながら4つ挙げてることに気づいていないのか、ウィルソンに対しドヤ顔で解説する。
「よしまず名前だ」
よしでもまずでも無い。しかしウィルソンは物言わず彼の話を聞き流す。
「せっかくだから、カッコイイのがいいよね。さっきの人ヴィルって言ってたし、西洋っぽいやつ」
ちなみに彼の人間だった頃の名前は、何故か靄がかったように思い出せない。普通の名前だったような気はしていた。
「うーん、何かテーマ欲しいな。剣士っぽいやつだと武蔵とか小次郎? 柳生、あー、円卓の騎士系とかか? アーサー、ランスロット、モルドレッド、カヴェインとか? アストルフォ、あー、ゲームも色々あるな。剣士か。“ゆうしゃ”とか“せんし”なんてなー、はははー」
そんな感じに暫く悶々としいい加減疲れた頃、自分の体がふと視界に入る。
「僕って骨だよな。ガイコツ、カルシウム、骨、ボーン……あ、映画にボーンってやついたな。強いやつ。ボーン、複数形でボーンズ。ボーンズ。あれ、ボーンズってなんだろう、しっくりくるな。よし、なにも今確定することないんだ。一旦ボーンズにしよう。で思いついたらもっとカッコイイのにしよう!」
骨の複数形。まさにそれである。
「じゃあ苗字は最強の剣聖にちなんで……でもまんまはあれだし、ゥを抜いてオルランドだ。ボーンズ・オルランド。うん、結構強そう!」
どこかチート臭い名前に決まった。
「あー、なんかやる気出てきた! 目標決めるのって、やっぱり大事だよね。よし、ここからだ。ここから剣士ボーンズ・オルランドの伝説が始まるんだ!」
剣士ボーンズ・オルランドの伝説は、実際は少し前始まっていたし、しかもその一歩目はスライムに溶かされるという。
なんにせよやる気の滾った彼はそこいらで再び剣とシールドを拾い、声も高らかにダンジョンの奥へと向かっていった。
…………
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