癒えぬ痛み-④
だけど、そうじゃなかった。
「夕海、一旦落ち着こう?駿、ここだと人もいっぱいだし、露店の裏までとりあえず移動しよう」
「オッケー。陽太、悪いんだけどここで買ったブルーハワイのかき氷二つ、裏まで持ってきてくれるか」
「了解」
三人は私を囲んでそんな言葉を交わしたかと思ったら、詩織は私のすぐそばに立ち、駿は自分の腕を私の腕にガッチリ固め、露店の裏側まで強引に進んでいく。
「どうして?何でこんなことするの?駿だって見たでしょう!?」
「ちょっと黙ってろ」
「何で?あれは、海斗だっ」
「いい加減目を覚ませよ!」
まだ言いかけていた私の声に、駿の大きな声が重なる。
「人違いだって言われただろ?確かにそっくりだったよ、あいつに本当に似てた。でも!海斗じゃない。頼むから、もう受け止めてくれよ…」
駿はそう言うと、歩いていた足を止め、私をぐっと引き寄せてその場で抱きしめてきた。
「海斗はもういない」
「いたじゃん!」
「聞け、夕海。おじさんも、三年見つからなければ区切りをつけて、あいつが死んだって。そう受け止めるって言ってただろ?」
「…や。嫌!」
「夕海!」
「嫌だ…追いかけなきゃ。やっと、やっと見つけたのに…」
「だから別人なんだって!さっきの人は、海斗じゃない!もう、いないんだよ。死んだんだよ、あいつは」
耳元で響く、掠れたような悲しい声。
そしてその直後、肩に落ちてきた駿の涙に気付いた私は、崩れるようにその場にうずくまった。
悲しいのは、私だけじゃない。
もういない、死んだ、と言った駿だって悲しくないわけない。
肩を濡らした駿の涙に触れると、行き場のない感情が胸いっぱいに広がった。
でも、どうしても認めたくない。
諦められない。
「死んでないよ…っ…」
会えなくなっても、ずっと信じてきた。
時の経過と共に、次第に受け止めようと変わっていく周囲を見ていても。
海斗はもう帰ってこないと、諦めていく人たちが増えていく中でも。
海斗はきっと、どこかで生きている。
そしていつか、ふらっと戻ってきてくれるような気がして。
ずっと待ってたんだ。
あの夏から、ずっと。三年前から、今日までずっと。
受け止めることなんてできなくて。
もういないなんて、どうしてもそうは思えなくて。
海斗が死んだなんて…私以外の誰もがそう受け入れたとしても、最後の一人になっても、海斗はどこかで生きている。
私はそう、信じていたかったんだ。
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