癒えぬ痛み-③


「かい…と」


呟きながら、その声がした方に視線を向ける。

するとそこには、あの夏消えてしまった、あの日からずっと探し続けていた海斗の姿があった。


夢?そう思いながら、自分の手をぎゅっとつねる。

ちゃんと痛い。夢じゃ、ない。



「海斗!」


溢れてくる想いと抑えられない衝動にかられ、露店のおじさんにお金を払っていた海斗に、気付けば横から思い切り抱きついていた。


「えっ…」


戸惑うような声と、固まっている体。

ぎゅっと抱きしめてみても、海斗は時が止まったように立ち尽くしているだけだった。



「バカ!!」

「へっ?」

「何してたの?どこにいたの?」

「や、えっと…」

「ずっと、探して…海斗のこと、みんな探して…」


そう言いながらその胸に顔を埋めると、涙がポロポロこぼれてきた。


「ちょっと、いきなりなんなんですか?やめてください!」


だけどそう言われ、誰かにぐいっと体を引き離された直後。私たちの間には何故か見知らぬ女の人が立っていた。


「何って、海斗が…」

「海斗って誰ですか?突然抱きつくなんて、おかしいですよ!」


おかしい?どうして?だって、海斗が目の前に…。


「海斗!」

「ちょっ、夕海。落ち着けって」


取り乱す私を、駿が後ろからそう言って抑えてくる。


「だって海斗が!」

「待て、夕海。あの、突然すみません。その彼が俺たちの友達にものすごく似てて。本当に…よく似てて。その友達は、三年前の震災で行方不明になったまま未だ見つかっていなくて」


冷静に、言葉を紡いでいく駿の声。

だけど目の前にいるのは確かに海斗で。

似ているなんて、そんな単純なことでは済まされないくらい、本当に海斗そのもので。


「何言ってるの駿。海斗だよ?ねぇ?海斗でしょう!?海斗!」


涙で滲んでいく視界の中、その目を見つめてただ名前を呼んだ。


だけど泣き叫ぶ私に向かって、その人は言ったのだ。



「人違いですよ」


とても落ち着いた声で。

無表情のまま、涙を流す私の目を見て。


「僕は、あなたの探しているお友達じゃないです。すみません」


そう言って、謝まられてしまった。



「…嘘」

「嘘じゃないです」

「違う!海斗でしょう?どうして嘘つくの?」

「ちょっ、夕海!確かに似てるけど、違うんだって。海斗じゃない。彼だってそう言ってる」

「嫌!何で?どうしてわからないの?海斗だよ?」


駿の腕の中で必死に暴れていると、買ったかき氷も受け取らないまま女の人は海斗の腕を引き人混みを進んでいく。


「待って!海斗!離してよ、駿!お願い、離して…」


泣きながらそう言ったのに。

駿の腕は緩むことなく私を抱きしめ抑え続けた。


「ちょっと駿!何してるの!」

「おい、何があった?」


いつのまにか目立つ騒ぎになっていた私たちの周囲には人だかりが出来ていて、その隙間をかき分けるように現れた詩織と陽ちゃんの姿に、私は思い切り叫んだ。


「海斗が!海斗がいたの!お願い、駿を離して!」


二人は、駿のことを止めてくれると思った。

きつく抑えられた腕から抜けだせるよう、助けてくれると思っていた。

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