癒えぬ痛み-②
「やっぱり私、焼きそば買ってきていい?」
「あ、俺も買う。お前ら先歩いてて、すぐ追いつくから」
通り過ぎた焼きそば屋に慌てて戻っていく詩織と陽ちゃんの後ろ姿。
歩みを進めながらもそれを振り返っていると、隣にいた駿に肩をつつかれた。
「夕海は?何か食べたいものとかないの?」
「うーん」
人の波に身を任せ、目的になりそうな“何か”を探して視線を泳がせる。
露店が並ぶ賑やかなこの祭りは、二千発の花火も打ち上がる夏の一大イベントで、幼い頃から三年前までは毎年のように訪れていた夏祭りだ。
あの日も。
三年前の今日も、私はここにいた。
今はもういない、海斗と手を繋いで。
「…かき氷」
ふと前方に見えた露店を見て、無意識に出た声。
それを聞き取れなかった様子の駿は「ん?」と首を傾げ、私を見下ろす。
「かき氷。ブルーハワイのかき氷が食べたい」
「…あっ、ブルーハワイの、ね。オッケー、行こ」
駿は一瞬戸惑った表情を見せたけれど、ブルーハワイと聞いて伝わったんだと思う。
オーバーなくらい大きく頷いた駿は、かき氷屋の露店に向かって一緒に進んでくれた。
「ブルーハワイを一つください」
「俺も、ブルーハワイ一つ」
露店の店先で揃って同じものを注文した私たちは、端に寄ってかき氷が作られていく様子をジッと見ていた。
「ねぇ、駿」
「ん?どした?」
「かき氷といえば、やっぱりイチゴだよね?」
「んー、まぁ。イチゴかレモンだな」
「レモン?いや、絶対イチゴでしょー」
ブルーハワイを頼んでおきながら絶対イチゴだなんて言うと変だけど、私の中では昔からかき氷といえばダントツでイチゴ味と決まっている。
さらにミルクがかかっていたりしたらもっと嬉しい。
でも、今日は…そのダントツのイチゴよりもブルーハワイを食べたくなった。
海斗が好きだった、ブルーハワイのかき氷。
鮮やかな青が一番夏っぽいからという単純な理由でいつもブルーハワイを選んでいた海斗は、食べ終わると青くなった舌をわざと出してヘラっと笑ってた。
あの日も、そうだった。
あの夏も、バカみたいに笑って「毎年それやってるよね」って。笑い合ってた。
「夕海?」
「ん?あ、ごめん。何話してたっけ?」
「や、何も言ってないけど…いきなりボーっとしてたから」
「あははっ、そりゃあ暑いしボーっとしちゃうよー」
心配そうに私を見つめる駿に、明るくそう答えた、その時だった。
「ブルーハワイと、メロン味、一つずつもらえますか?」
すぐそばから聞こえてきたその声に、時が止まったような気がした。
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