05. あなたとTogether!-(2)
新米兵士くんの提案に俺を構築する細胞全てが満場一致、ささっと指の位置をスライドさせてメイド服のボタンに指を押し当てた。
短い電子音と共にロックが解除され、俺は本日何度目かわからない生唾を飲み下しながら筒状の箱を取り出し、黒い布切れを広げた。
これを、あのツンツン優月が。
そうそう、この赤いスカーフとプリーツスカートと――
「これセーラー服やないかーいッ!」
箱とコスプレ衣装をベッドに叩き付けると同時に、シャワールームでキュッと蛇口を閉めた音が響いた。
「どうした……!?」
「ああ、いやあ? なんでもッ? ああははは、テレビ面白くってついツッコんじゃって! 俺この番組のファンで真似して一緒に言っちゃうんだよね!」
俺はアクション映画さながらにソファに飛び込み、テーブルの上のリモコンを掴んで電源を入れた。
途端に画面には肌色多めの映像が流れ、金髪女優の濡れた喘ぎ声が多分液晶最大の音量で響き渡る。
オーマイゴッドはこっちのセリフだ。
「…………」
「……そうか」
優月の冷静すぎる返事と共にシャワーの音が再開、俺ももう一度電源ボタンを押して、静寂がおかえりなさい。
ソファに腰掛け、祈るように指を組み、そこに額を預けた。
静まり返った部屋の中、楽しく盛り上がっていた俺の心も一気に冷却された。
危機だ。
これは危機的状況だ。
アホほど文字数を割いて俺の葛藤を描写したにもかかわらず、全部ひっくり返るだなんてヒドいにも程がある。
コスプレ衣装は、恐らく入れ替わってるか何かしたのだろう。かといってロビーまで行ってクレームを言って交換してもらう……というのはラブホテル初心者の俺にはちょっとハードルが高い。
じゃあどうなるか……。
俺はこのまま優月にセーラー服を着せることになる。まあまあ優月は嫌な顔をするだろう。それは良い。
そして俺は学生にも関わらず毎日見ている女学生の服を、ラブホテルに来てまで着せようとする歪んだ性癖を持った危険人物として認識されることになる。
それだけでなく俺はアダルトビデオ的番組のファンで面白くってついツッコんじゃったり一緒に言っちゃったりするらしい。この場合、ツッコむとか言っちゃうとかの意味も微妙に歪んでくる。
現時点で完全に引かれてるでしょ。下心アリアリのアリでしょ……。
仕方なくこういう状況になったとか言い訳できないでしょ、これ……。
ここにセーラー服というセカンドアタックが待っているという状況だ。
ヤバすぎる。
…………。
とりあえず。
ここは気を利かせて誤解を解く方法などはないだろうか。
顔を上げて部屋を見回したところ、大きなベッドの枕元に薄汚れた紙袋が置かれていた。
白いシーツの上に汚れた紙袋を乗せる優月の無神経さを疑いつつ、部屋のゴミ箱に備え付けられたビニール袋を剥がして紙袋の上に被せる。
しかし一体何が入っているのだろう。袋自体は外側に生ゴミの残骸が付着しており、中から何かが染み出しているというわけでは無さそうだった。
あの状態の優月が大事そうに持ち歩いているもの。
あの拒絶反応――パンツなのでは……?
であればこれも洗った方がいいんじゃないだろうか。
俺は何気なく、そして心の底からの親切でその紙袋を開けた。
中には――中央に赤く光るサーキュレーターのような装置、帯の部分には難しい漢字、色は黒。まさしくパンツ――ではなく、ステレオタイプの変身ベルトが入っていた。
「…………」
…………。
ほう。
マジか。
あちゃー。
いや、これは。
そうそう、忘れてた。そんな話もありましたね。
ちょっとコスプレ服のことを考えすぎて、すっかり忘れていました。
変身ベルト。
変身ベルト、だ。
これは誰がどう見ても、変身ベルトだ!
俺は部屋の中のあちこちを歩いた。
全く思考が機能しなかったのだ。からから、ぐるぐる、ころころと、ただ空回りして何の取っ掛かりも得られなかった。
優月が黒服に追われている原因は、コレだ。
剣咲組が、ヤクザが探し回っている代物だぞ?
何で彼女が持っている?
いや、待て。
早とちりはいけない。
これは本当におもちゃの変身ベルトで、優月は特撮マニアなのかもしれない。
もしかしたら、「やっぱV3だよね」とか、「ブラックRXはアリ」とか、「平成ならローグ親しみやすい」とかそういう話が出来る女なのかもしれない。
俺は優月を信用したくて、自分のほうこそ騙されているなんて思いたくなくて、少ない可能性を搾り出しながらも再び紙袋に近づき中身を
特徴からして、竹中が一生懸命に説明していた変身ベルトだ。
今日何度も飲んでいる生唾とは違う意味のものを飲み下し、俺は紙袋の中に手を突っ込んで帯状のそれを引き出した。
見た目はやっぱりおもちゃのソレだ。
俺は決して特撮ヒーローに詳しくはないが、ありがちなテンプレートスタイルとはいえ、細かいところは見たことのないデザインだった。
黒地ということもあってどこか禍々しく、正義の味方のグッズには見えない。
だったら、ライバルキャラとか?
なんて思っているところだった。
それは……腕を伝って頭に意思が叩きこまれた、という感覚だった。
『
「は……?」
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