第23話 -2 地理学
午前中の授業はまだ慣れずへとへとになり、昼食を済ますと午後からは学部とサークルの見学に。
数日のうちに絞り込まないといけないので、しばらくギルド見学は難しそうだ。
といっても新入生は森に出る報酬の高いクエストは春がすぎるまで制限されているので、街で出来るお使い程度のクエストを受ける子も多いよう。
お祭りのおかげで今は生活に余裕があるとはいえ、まだクチナワさんの借金も返せていない。
冒険者として働いたお金で返して安心してもらいたい。街でアルバイトをしようか悩んでいる。だが入りたい学部やサークルは沢山ある。なかなか時間を効率よく計画できていなかった。
同級生とお昼も一緒にとらないオセロットくんが授業終わり、学部の見学に付き合ってくれていた。幅広く顔が利くようで、行く先々の研究室やサークル施設では丁寧に迎え入れられ見学させてもらえた。
「オセロット様が文学部に顔を出してくださるなんて! この子は? ダメダルじゃないですか、しかも庶民の」
「僕の大事な人だ、言葉に気をつけてくれる?」
「ええっ!? ……それは失礼しましたわ」
「ったく。芽衣、この文学部は昇級したら哲学部と心理学部の授業を受けれるようになるんだよ。メダルの形も気にせず入れるからね」
「あ、そうなんだ……ありがとうオセロットくん」
服をピシッと着て見るからに頭の良さそうな人達は、なんだこのちんちくりんそうな女はと顔に書いて、怪しいものでもみるような目線で私を見下ろす。
オセロットくんに話しかけてくる人達は世界樹クラスのプラチナカラーだ。
いわゆるブルジョワ系優等生の先輩方で、オセロットくんが下の一般生徒を案内しているのが不思議でたまらないよう。
普段は温厚だろう彼にシッシと手で追い払われ、素直に従う上級生たち。私を見ながら男女なくコソコソ話をしている。
「ごめんね嫌な奴らで、僕の家柄を知ってか付きまとってくるんだ」
「ううん! ごめんね私なんかの案内頼んじゃって」
「そんなこと言わないでよ、あんなハイエナのような奴らより芽衣といた方が楽しいんだから」
行く先々の生徒が彼の姿をみると驚き、目を輝かせる。
オセロットくんがここまで目立つ人だったのを忘れていた。彼は雑誌にも顔が出ている有名人だ。一般市民の平凡メダルの私が横にいて疑問に思われていることだろう。
「本当は魔石学部と魔導士サークルも見たいんでしょ?」
「うん、けど魔石学部はヒューマンかオセロットくんよりさらに上の研究員メダルじゃないと入れないんだよね? 魔導士サークルも貴族のヒューマンだけだし」
「そうなんだよ、僕もそこはさすがに顔がきかないんだ。ごめんね」
「ううん、入ったら目立っちゃうから元から候補にしてなかったの。覗いてみたいなとは思ってたけど」
「魔石学部は素材学を教えてるドワーフの教授なんだよ。魔石や素材の活用方法はほとんど彼らの発明だからね。
ただ何歳なのかも不明で気味の悪い変わり者の人でさ、芽衣の明日の地理学の先生は亀の亜人なだけあってかなりのお年だよ」
その言葉どおり、次の日の地理学の教授は白い眉毛で目が隠れた、よぼよぼのおじいちゃん先生だった。少し大きい白衣も型が古く、その上から甲羅を背負っている。
震える手と声で非常にゆっくりとした喋り方の先生は眠気を誘い、始めての授業だというのにもう机で寝こける生徒が多かった。
「私の名前はアドワイチャ教授……ムニャムニャ。地理学はその名のとおり地形や気候について。春がすぎて、新入生に解禁される森は試験会場から範囲を広げた通称レベル1の森、そして女神の神殿ダンジョン。比較的安全で整備もされていますニャムニャム」
途切れ途切れだが静かに話す教授は私にはとても可愛く映る。おっとりしていて常に微笑んでるように見え、親しみやすそうな親近感さえ感じさせてくれるおじいちゃん先生だ。
新米冒険者が入れる森の地形から上級生が入れる範囲の広いレベル2の四季の島、研究生になって許可されるのは未開の地。
そして特別な研究を許された教授か、政府から任命された教会の人または騎士団のみ足を踏み入れることができる神秘の島、それが空に浮かぶ浮島。
私がこの世界で目覚めたあの場所は入島がとても厳しく制限されていた。
思い出せば懐かしいあの場所、グーゴルさんや女神様は異世界観溢れるあの森の木の下に今時分も居るのだろうか……
寮に帰っても窓辺から浮島を探してしまう。今日はどこからこの世界を見守ってくれているのだろう。
世界樹と女神様のレッドデータブック ~ 秘密の書 ~ ソノ @sono08
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