第23話 -1 魔法学の授業




 授業が始まった。


 ブロンズメダルの必須科目は魔法学、地理学、魔物学、戦術学、素材学、あと武術。学がつく授業は教室で座学だが、魔法と素材だけは授業と実技両方ある。


 庶民と下流貴族はドラゴンを模したメダルで、世界樹のメダルを持つ中流上流貴族とは座学の教室は別だった。


 私の最初の授業は魔法学だった。


「お黙りなさい、授業を始めます」


 講義室は木造で半円形の階段状になっており、机と椅子が端から端まで繋がっている。最初の授業だけあってソワソワする学生達を、入ってきた瞬間に黙らせた先生は試験会場で指揮をとっていた試験官、三角帽子のあの厳しそうな魔女だった。


「私の授業で口を利く時は、呪文を唱える時か質問を許可された時のみです。私語は許しません、質問がある時は黙って手を上げること。私のことはストリクト教授と呼びなさい」


 キビキビしたストリクト教授は杖を一振りして分厚い教科書を全員に配った。


 試験の時のように張り詰めた講義で皆が背筋を伸ばし、緊張感のある授業。物理に近い魔法学の授業は主に発動条件やエレメントの組み合わせ方、呪文の必要性だった。


「魔法学は年度末にある昇級試験の必須科目です。例えばこのように勝手に魔法でペンを取るものや居眠りする学生は、ブロンズメダルで社会に出てもらいます」


 ストリクト先生が杖を振ると、魔法でペンを動かしていた学生に羽根ペンをしっかり握らせ、机に突っ伏していた生徒を窓から放り投げる。外からワーッと悲鳴をあげる声が聞こえた。


「メダルの形ではなく色によって専門的な授業や就職先の幅も広がります。テストの点数やクエスト、論文などあなた方の活躍が認められる評価方法は様々です。日々精進なさい」


 きっかりしゃべり終わると九十分の講義の終了を知らせる鐘がなった。ドヤドヤと生徒が廊下に流れ出て次の授業へ向かう。


 次は実技の武術の授業だ。日によって格闘技種目か武器別に別れ、それぞれ科目を選んでよいらしい。


 私が武器で選んだのは盾クラス。アマミちゃんの得意な剣術クラスが一番人気で他に弓や銃などの遠距離型クラス、槍などの中距離クラスやハンマーなどの重量級クラス。ガウルくんはここに入るらしい。忍者のような隠密クラスもあってそこにオセロットくんの名前が首席であった。


 今日の武術授業は武器別ではなく徒手別。ボクシングや柔道など組手のものから鳥人族の空中戦から魚人族の水中戦、私は亜人の爪科を選んでいた。


 アマミちゃんとガウルくんは違う選択授業だが、嬉しいことにここはオセロットくんと一緒だ。手を振ると私と同じ黒い体操着姿で駆け寄ってきてくれた。


「初めての授業はどうだった? ストリクト先生だったよね」


「うん、厳しい先生だよね少し怖かった」


「ストリクトの意味は厳格って意味だしね。でも真面目な生徒にはとても優しいよ。あ、芽衣この髪型かわいい」


「ありがとう、ガウルくんが編んでくれたの」


 邪魔にならないよう休み時間にガウルくんが結んでくれた髪をオセロットくんが褒めてくれた。ニッコリ笑い返すと、廊下にいた生徒がこそこそと壁際に避けて行く。


「なるほど……うわ、僕の後ろに隠れて」


 オセロットくんが私の身を背中に隠した。いろんな理由から今年一番の大物ルーキーと言われてるクロウくんが、仲間を引き連れ移動している。


 世界樹の形をしたメダルの色はゴールド、優秀な生徒の証なのにクロウくんの軍団は上級生にも構わずゲラゲラ笑いながら柄の悪い歩き方で目の前を過ぎる。


 ジェイダはこの世界でも名門の進学校、貴族の人が多く一般市民扱いのドラゴンのメダルは差別的なところもある。現にトイレで先を越されたり、廊下で道を開けなければいけない大名行列のような場面に出くわした。


「あいつは稀に見る大物だな。そこらへんの貴族じゃ太刀打ちできない。この学園にも寄付金の額で難癖つける奴もいるから、何かあったらすぐ僕に知らせてね。これでもある程度の奴を黙らせる発言力はあるんだ」


 ウィンクをするとオセロットくんは私の手を引いて競技室に連れて行ってくれた。彼が戻ってくるのをジッと待っていた上級生の人たちの前を素通りして行く。同級生と行かないでいいのかオセロットくんに聞いても彼らの存在自体忘れていたようで、構わず置いて行ってしまった。



 防刃機能のあるタートルネックの長袖と長ズボンでオセロットくんと組み手を組むことになった。爪の扱い方を指導してくれながらニコニコしている。様子を見ていた上級生の一人が悪戦苦闘する私を見兼ねて話しかけてきた。


「オセロット殿、そんな弱い下級生なんかと組むのかい? 今年は武術の授業に出られるなんて珍しいのだし、宜しかったらこのわたしと……」


「誰きみ? 嫌だよ、どっか行ってよ。そうそう僕、今年は芽衣に会えるから真面目に学校に通うことにしたんだ」


 眼中にも入れずシッシと手で追い払われて、その背中から上級生の男の子がすごい顔でショックを受けているのが見える。不憫にも思えるその人を、もう居ないものと思ってるオセロットくん。


「……えっとオセロットくんいいの? お友達の同級生と組んだほうがいいんじゃ」


「いいのいいの、このクラスで僕くらい強いのって虎子って奴なんだけどアイツもあんまり学校来ないし」


「あ、虎子さん! 私と同じ寮だよ」


「もう知ってるんだ。アイツは貴族じゃないけど金持ちだから仲間の多い寮は溜まり場にしてるだけなんだよ。それにしてもガウル羨ましいなー僕も髪の編み方勉強しようかな」


 関係ないことをブツブツ言いながら考え事をしている。オセロットくんは私の二つ結びにした髪型を熱心に調べ、なかなか組手を組んでくれない。コソコソ盗み目する上級生と目が合うと、キツイ目つきで睨まれてしまった。


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