第21話 -5 魔道具と筋肉
ガウルくんは怯えた様子で少し屈んで部屋に入って来てくれた。ギリギリ角は天井に当たらず、突き抜ける様子はなかった。
「座って座って! 私のお友達のオセロットくん、それで彼は新しいお友達のガウルくん! 私たち同い年だよ」
「お友達……」
コタツの前でちょこんと正座するガウルくんは、うつ伏せに寝転がったまま顔を向けるオセロットくんと私を交互に見て黙り込んだ。フンと鼻を鳴らしたオセロットくんが私を見て体を起こし、花冠の乗った髪を整えてくれた。
「芽衣かわいい、その花輪似合うよ」
「ありがとう! ガウルくんが作ったんだよ、器用だよね」
「ふぅん、センスいいじゃんガウル」
「あ、ありがとうオセロット」
やっとガウルくんが微笑んでくれた。頬杖をついて話しかけるオセロットくんに、短いが穏やかに答えるガウルくん。私はお茶菓子を用意しに台所に行ったが会話が途切れる様子はなく、二人は仲良くできそうだった。
バレないよう手の傷口を洗った。牙で傷つけられたのは初めてだ。そこまで深くなかったが水につけると赤い血が滲み出てきた。
唇をつけて自分の血を舌で確認する。鉄の味がする。実際ヘモグロビンという色素が赤い色をしており、鉄がたくさん含まれている。タコやイカは銅が含まれているから青色の血の色。変なことはない、私の血の色。
あの子は何に驚いたのだろう。怖がらずに話を聞けば良かった。亜人の血に関してだろうか。今となっては考えても仕方がないし、関わりたいとは思わない。
気を取り直して傷にパッドを貼り塞いだ。それこそ屋敷のみんながあれやこれやと物を持たせてくれていた。簡単なお菓子なら作れるだろう。
カエルの親子から買った餅は祭りで使い果たしていた。そもそも餅は冷凍しない限り、すぐカビが生えるのでついた餅は長持ちしない。
私は餅米を二十キロ買っていた。それを水に浸して水分を吸わせた餅米を、水と一緒に粉砕して水を操る魔法で水分を抜いて作った白玉粉、水洗いした餅米を乾かし粉砕して篩にかけて作る上新粉を用意していた。
ガラスのボウルに白玉粉と水を混ぜ、上新粉と砂糖も入れさらにかき混ぜる。それをあの黒い箱の前に持って行った。
二人が不思議そうな顔をしてこちらを向く。私はダイヤルを雷のマークにセットし、箱の中に入れ扉を閉めた。二分ほど祈るように箱の前で正座して扉を開けて見た。ボウルから湯気が出ている。上手く行ったようだ。
器が熱いので気をつけて布でくるみ、ルンルンでまた台所に戻った。
やはりあの雷マークは電子レンジ、光のエレメントも付加していて良かった。電子レンジの仕組みはよくわからないが、最も短い電波のマイクロ波に誘発された水分だけが摩擦し合い熱を生み出す。
電子レンジがここでも同じ用途の為に作られたかは謎だが、三つの性能を持つ黒い箱のおかげでお菓子作りがスムーズに進んだ。
出来た熱々の生地をチョコと混ぜ合わせたものをココアパウダーの上で薄く伸ばしたもの、もう一種は生地をシナモンの粉ときな粉を混ぜ合わせたものの上で薄く伸ばし正方形にいくつか切った。
あんこがあれば完璧だったが……包むものはなかったが、これでも十分美味しい生八つ橋の出来上がりだ。
ちょうどおやつの時間だろうか、炬燵で生八つ橋を囲んで三人で談笑した。
「芽衣、これ美味しい」
「ほんとガウルくん? 良かったー、原料がキラースライムだからちょっと心配だったんだ」
「キラースライムは……むしろ好き」
それを聞いて私は手のひらを彼に向けた。耳垂れマークを出すように首をかしげ、同じように手のひらを向けてくれたガウルくんにハイタッチをした。本当はポカンとした表情の彼に抱きつきたいくらいの気持ちだ。
「私もキラースライム大好物なの、同志がいて嬉しい! オセロットくんは苦手なんだよ、美味しいのに」
夢中でチョコ味の生八つ橋を食べるオセロットくんが唇についた粉を舐めとった。
「違うよ、あの時は熱々のを食べて舌を火傷したからだよ。これは本当に好き」
チーズ餅フライを作ったのだが猫舌の彼には大ダメージだったみたいだ。
「それにしても、芽衣あの黒い箱使いこなしてたね。なんだったの?」
「冷やした状態で保存できる部分と、逆に温めることのできる魔道具だったの。便利だからこのまま捨てずに置こうと思う」
「わぁお、面白いな。前の住民のいい置き土産だね」
全くありがたい品だ。一人暮らしに必要不可欠な冷蔵庫と電子レンジがタダで手に入った。そして新しい友達も出来、幸先のいいスタートを切った気がする。嬉しくなって八つ橋を食べながらニヤついた。
「場所が邪魔そう……持ち上げようか?」
「あ、でもすごく重たいの。一人じゃ」
むくりと立ち上がるとガウルくんは黒い箱をヒョイと持ち上げてしまった。あんぐり口を開けて驚く私とオセロットくんにガウルくんは顔でどうしたのと聞いてくる。
慌てて場所を指定して移動してもらった。そっと置いてくれたガウルくんに驚いた顔のままお礼を言った。あんな重い物を一人で持ち上げられるなんて、筋肉とはすごいものだ。
「ガウルすごいなー、どうやって鍛えてるの? 僕は鍛えても筋肉つきにくいんだ」
「何もしてない……戦闘は苦手だ」
「亜人の生まれ持ったものか、羨ましい」
私は自分のヒョロヒョロな腕で力こぶを作って見比べる。二人でペタペタと彼の体を触るが身体の作りが全く別物だ。
亜人にも色々いるんだなーと改めて感心する。二人で彼の腕にぶら下がると軽々持ち上げてくれた。
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