第21話 -3 D・D
箱の扉は二段に分かれて横に開き、中を覗くと傷も汚れもなく綺麗に何も入っていない。赤と雷?と青の表示があるダイヤルがあり、箱のてっぺんには小さなくぼみがある。その横にD・Dと刻印がされていた。
「このくぼみ、魔道具かな?」
リュックを手繰り、クロウくんが試験中にくれた残りの魔石を呼び寄せた。
どのエレメントを付加させたらいいかわからなかったので全部イメージして手のひらで包み込む。
耳の奥で鈴の音が響く……目を開けると魔石の光がゆっくり消えて行く。
ハッとして気づいたが、一つしかない窓のカーテンが空いていた。オセロットくんに秘密を知られているとは言え、無用心すぎた。
寮の部屋は二階だし、今は人が出払ってるみたいだから人の気配はない。慌ててカーテンを閉め視界を塞いで、部屋を閉ざした。
戻って魔石を黒い箱にセットしてみた。ブンと音がして箱が稼働し始めたようだ。魔石に反応したなら魔道具で間違いない。
上段の青いダイヤルの扉を開けて見た。開けた瞬間驚くことに白い冷気が漏れ、箱の中の側面が氷に覆われていた。
「冷蔵庫だ……!」
パッと手で口を塞いでオセロットくんを見たが、天使のような顔をしてまだ眠っている。思わず地球の現代用語を声に出してしまうのは気をつけなければならない。
クロウくんがお父さんに『チキュウ』という単語を伝えただけで、ややこしい事に巻き込まれそうになってやっと学校に通えることが決まったのだ。
この世界の住民じゃないというのはまだ私だけの秘密の一つ。現存する食べ物ならまだしも、文明を偏らせる便利機器は歴史の方向を極端に動かすので私は提案を避けている。この世界の住民が見つけるべきだと思う。どういう構造?どういう意味?と聞かれてもうまく説明出来ないし、じゃあ何故知ってるのかと突っ込まれるのは避けたい。私はここの普通で暮らしたい。
オセロットくんに聞かれなかったことにホッと胸をなでおろし、魔道具に向き直った。
扉を開けたままの箱の中はあの短時間でキンキンに冷えて凍っていた。
アイテムバッグに物をしまえても時が止まることはない。食べ物は腐るし刃物も錆びる。冷蔵庫のようなものはリップさんの屋敷にもあったが、とても高級そうな装飾品でこんなにコンパクトではなく大型だった。
湖の氷を売る仕事もあるくらいだ。魔石のエレメントからか、多分この世界でも貴族の人しか扱うことがない品のように思える。
私は下部の赤いダイヤルも開けてみた。中は赤い光に照らされていて熱気が漏れる。どうやらオーブントースターのよう。
一台で二役のこの箱は便利な品だ。もしかして雷のようなマークは……とりあえず捨てずに使わせてもらおう。
おそらくこれは手作りだ。このD・Dという人はとても優秀な学者さんだと思う。こんなに便利な品だからきっと世に名前が出ているはず。興味が出てきた。
ガマズミさんが言っていた物置にまだ何か眠っているかもしれない、物置を探しに行こう。
靴を履いて寮の外に出た。裏に回ると可愛らしい庭園と畑その奥に林、左手には中心に一本だけ木が立つ野原が広がっていた。
少し、浮島で目覚めた場所に似ている。
物置らしきものがないかと辺りを見回すと、林の木立にこちらを向く小さな人影があった。なんだか見られているような気がしたので会釈をしてまた物置探しを再開した。
左手に進むと足音が重なる。振り返るとすぐ後ろに私の胸元くらいの背丈しかない髪の白い子が立っていた。
驚いて飛び上がる私を、赤い瞳が見上げる。亜人の特徴もなく耳に尖りもない。黒いマントを首元のリボンで羽織り、毛先はカールして肩にかからないくらいの長さの髪と同じく睫毛まで真っ白。息を呑むほど綺麗な子だが目の下にはクマがあり、顔色も悪くどこか生気のない石膏のようだ。
「あの……どうされましたか?」
幼く見えたがその中に色気も感じ、子供ではなくドワーフかもしれないと思い敬語で話しかけたが返事がない。不思議な目で私を見上げたままだ。
困っていると、やっと動きを見せた。アルビノのような白い手を上げ私の髪を掴むと、ぐっと下に引き寄せた。痛みに目をつむると顔のすぐ横で低めの声が聞こえる。
「ちょっと君の……血、ちょうだい」
ギョッとして反射的に手を突きつけた。相手の口が開いていて鋭い犬歯が刺さり、手の側面部分を切ってしまった。白い髪の子の口元に私の返り血が滴る。
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