第19話 -4 意外なお客様






 雪のように降り注ぐ魔法の花火が地面に溶け込むとゆっくりと街の喧騒が戻ってきた。フィナーレの花火が上がると、祭りの雰囲気が穏やかになった気がする。


 祭りを楽しんだ人も帰宅の流れに変化していた。手伝ってくれた子達もあくびをする子がいる、そろそろ子供達を帰した方が良さそうだ。いっぱい働いてくれたのでアルバイト代はたっぷり渡そう。


「芽衣、花火綺麗だったね。僕はそろそろこの子達を送ってくるよ。なるべく急いで戻るけど、その間一人で本当に大丈夫?」


「うん! 商品もほとんど売れちゃったし、ゆっくり片付けしとくよ。みんなをよろしくね」


 騎士団の人はまだ騒ぎ足りないのか、誰も動かないし大丈夫だろう。泣き喚いて帰ろうとしない双子を、可哀想だがリップさんとクチナワさんから引き剥がしてみんなを馬車に乗せた。


「お姉さん、本当に楽しかった! また遊びにきてね、ありがとう」


「こちらこそ本当にありがとう! 助かったよ、院長先生によろしく伝えてね」


 院長先生にもお土産を用意して届けてもらい、名残惜しそうに手を振ってくれる子供達を見送った。全員にお小遣いを渡せてホッと一安心できた。


 いい思い出になってくれたらとても嬉しい。屋台に戻るとエビネさんがクスクスと笑っていた。


「聞いてよぉ芽衣ちゃん、クチナワったら子供も悪くないなっていうのよぉ。子供嫌いのこの人が、エッチねぇ♡」


「おい黙れエビネ」


「芽衣さん、私は自分の子を取り上げる夢があるんですが良かったら」


「お前も黙れキキョウ」


 クチナワさんはわからなかったが、二人はだいぶ酔いが回っているようだ。舌打ちするとクチナワさんは立ち上がった。


「出るぞ、こいつらを連れてくるべきでなかったな」


 先に屋台を出たクチナワさんを追いかけた。話したいことがあるのだが、なかなか機会は巡ってこなかった。


「あの! クチナワさん今度またお時間もらえますか、できたらまた二人きりで……」


 沈黙が続き、目を瞬かせて驚いていた。いけない、これはまた前回と同じパターンだと私の脳が学習していた。


「いえ! あの、クチナワさんにしかお話できないあのことで、えっと」


 エビネさんとキキョウさんが追いかけてきて、また途中で話がシドロモドロになってしまった。彼にしかできない話、それは試験中に発覚した私の亜人の爪のことだ。ヒューマンには現れないこの髪の色が亜人で間違いなかったことを知らせたい。


 流石に亜人の始祖のグーゴルさんに会ったことは伏せておくつもりだが、ヒューマンにしかできない付加魔法が私にもできるのを知っているのは彼だけ。クチナワさんにしかできない相談なのだ。


「なにかあったんだな……なるべく早く時間を作る」


 頭を下げて三人を見送った。試験の日以降、爪は突然出ることはないが人に触れる時は指先の向きに注意している。


 自分の無知で人を傷つけるのがとても怖かった。生まれた時から亜人なら、きっと両親が取り扱いを教えてくれていたことだろう。オセロットくんも尻尾の扱いを幼い頃注意されたと聞く。私が今更周りに聞くには歳を取りすぎている。


「隊長ーー! 中央広場でエルフとドワーフの乱闘です、応援要請が入りました」


「はぁ、この時間から騒がしくなるかもしれないな、すまないが行って来る」


「いえいえ全然大丈夫です! 気をつけてくださいね」


 騎士団の人がおでんを掻き込み駆けて行く。リップさんも片付けの手を止め、顔を切り替え仕事に戻った。人の流れはまばらになり、隣の楽団も片付けをしている。私もテーブルを片付け屋台だけで営業を続けた。


「おおー赤いランタンがいい感じだな、芽衣いるかー?」


 暖簾をめくり顔を見せたのはトレードマークのトゲトゲ頭に黒のダウンを着たソウジくんだった。


「わぁビックリした! ソウジくん!?」


「クロウもいるぜー」


 ソウジくんが暖簾をさらに拡げ中に迎い入れたのはこれまた試験の時のメンバー、クロウくんだった。相変わらずムッスリした不機嫌な顔をしてニット帽から見える黒髪とピアス、今日はパーカーを着て年相応な格好をしている。


「クロウくんも! うわぁ来てくれてありがとう、試験の日以来だね。どうしてわかったの?」


「まぁまぁそこは貴族様の力ってやつだよ、なにこれ何の店?」


 二人は暖簾の奥の席に座り、ソウジくんが物珍しそうにキョロキョロする。


「おでんって食べ物の店だよ、良かったら食べて見て」


 私は菜箸を使い、いくつかお皿に盛って割り箸も渡した。クロウくんはお箸を綺麗に使えるようで、ソウジくんは具にぶっ刺して口に放り込んだ。


「うわ、うめーー! 芽衣が作ったのか? 天才じゃねこれ、なぁクロウ!」


「本当? 良かった、クロウくんはどう?」


「……悪くない」


 表情は変えないがクロウくんは綺麗に食べてくれる。向かい側からわかりにくい顔の微妙な違いを私は感じ取った。彼にも気に入ってもらえたみたいだ。私も気分が良くなって元チームメイトがきてくれたことが嬉しくなってきた。


「あ、ソウジくん試験の時にくれたモンスターラディッシュも出してるんだよ。摩り下ろしてるからきっと辛味も増してるよ、使って見て」


「マジで! 最高じゃん、酒無いの? テンション上がってきた」


「隣のイグルーがそうだけど飲んで大丈夫なの?」


「なんで? 野営地でも飲んでたけど、あん時の謎の興奮は酒飲む前だし今のところ大丈夫だって」


 ソウジくんがルンルンで暖簾をくぐり買い出しに行った。クロウくんは構わず夢中で食べ続けてくれている。餅巾着の追加を頼むと無言で私を見つめてきた。


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