第19話 -3 街の祈り






 外はもうすっかり夜の祭りの雰囲気になっていて、街のシンボルのマキガイの街灯が七色に輝く。爆竹や花火を上げる人も増えてきて祭りの盛り上がりはピークを迎えた。


 少し間ができたので、火花を散らし舞い踊る楽団の人たちを観覧していたら、甲冑を着た騎士団の人たちが来店した。


「リップさん! お仕事終わりですか?」


「やぁ芽衣。待ちわびたかいがあったな。着物姿とても、」


「隊長ーー! もう腹がぺこぺこであります、早速いただきましょうぜ!」


 何か言いかけたリップさんが職場の人をたくさん連れてきてくれた。何か言いかけていたようだが急いで席を準備し、おでんを用意していると私の後ろに隠れてリカちゃんがリップさんを伺う。


 今日は甲冑姿なので不思議に思っているのだろう。それに気づいたリップさんが目線を合わせるようしゃがむと両手を広げた。リップさんだと確信したリカちゃんが尻尾を振って胸に飛び込んだ。


「ありがとうございますリップさん、いっぱい連れてきてくださって」


「いや皆遠征の時に芽衣のきな粉や高野豆腐を食べた奴らでね、話したら食べに行くと言って聞かなかったんだよ。それにしても着物姿がとても、」


「隊長! この白いのなんですか? スープ吸っててうまいですね!」


 若い団員の一人がリップさんの話を遮り声を張り上げた。


「……うん、ちくわぶってものだ」


 イラついた声でリップさんが答えてあげていた。彼は浮島の時に見た顔だった。私に気づくと驚いた顔になって指をさす。


「あーアンタ世界樹の島にいた女の子じゃないか」


「あ、はい! その節はどうも」


「最初ランプフルーツが異常点滅してる下で見つけた時はアンタ、モンスターに囲まれてるし周りの植物まで意思を持ったように動いてるしで驚いたんだぜー。黒い服着てるし魔王でも現れちまったのかと思ったよ」


「あ……の」


 私はその時疲れて眠っていたので何を言えばいいかわからなかった。そんな異常な姿で寝てる人が居たら、それは確かに斬りかかられたのも納得できる。鑑定でどうにかあの時は言葉を発して人であることは証明できたが、よく思えば全く危機管理ができていなかった。今になって反省する。


 最近は言葉もこっそり覚えるようにはしているが、誰が着けたか分からないネックレスはまだ常に肌身離せない。


「それにしても驚いた、めっちゃくちゃ綺麗だったんだなー。料理もうまいし、なぁ今度デートしようぜ!

 いつ暇?」


 ニッコリ笑って両手を掴まれた。返事に困っているとその騎士団の人の背後に冷たい顔をしたリップさんが立つ。


「私が作ったちくわぶは食べてくれないのか?」


 後ろから刀を回し、剣先に刺したちくわぶを彼に向ける。騎士団の人は青い顔をして両手を上げ、手を離してくれた。リップさんに助けてもらって私はまた仕事に戻った。


 街の警護をしている騎士団の人たちは子供の相手はお手の物と言った感じで、遊び相手にもなってくれた。夜の屋台は子供達の笑声も溢れ、とても賑やかな雰囲気に。手作りのちくわぶを仲間が食べるのを嬉しそうに見守るリップさんに追加の巾着餅を持って行った。リカちゃんも嬉しそうな顔をしてリップさんの足の間に収まっている。


「皆さん小さい子の扱いがお上手ですね」


「街の警護の時は迷子の相手もするから子供には皆慣れてるよ」


「ねぇそのキモノっての、このくらいの小さい子にも着せてあげた?」


 リカちゃんを指差し、さっきの騎士団の人も話に入ってきた。着物を着た子は私と年長者の女の子が数人、小さい子達は動きやすい服装がいいからと皆が辞退したので鉢巻だけしている。私たちのメンバーにはいないので首を振った。


「そっかーいないのかぁ。さっき似たような服を着た小さい女の子が、何か探すように一人でいたんで迷子かと思ったんで保護しようとしたんですけど、瞬きした間に見逃しちゃって」


「それは心配ですね、リカちゃんくらい小さいなら連れの方がいるはずですし」


 突然背後で爆音が鳴り響いた。私はおぼんを胸に抱えて驚いて飛び跳ねる。皆で振り返るとやはり、ウィンクルの街名物の打ち上げ花火だった。


 二つの光の玉が動線を残しながら夜空に舞い上がり、弾けたと思ったら緑色になってゆっくりと葉っぱのように揺れながら街中に降り注いでくる。赤い光は空に留まり大きなリボンになっている。前回と少々内容が変わっていたが、こちらも信じられないくらい綺麗だ。暖簾から顔を出しクチナワさん達三人は初めて見るのか驚いた表情をしている。


 前回は気がつかなかったが、神機を両手で握りしめる人も居た。一同空を見上げ、世界に感謝する瞬間のようだ。皆一様に同じことを思い、祈り、感謝するこの時間が私はとても好きだった。

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