第17話-2 第一回ウォーターリーパー釣り大会
私たちが連れてこられたのは氷の張った湖だった。ラグゥサの街からほど近くの森で、小さな孤児院が畔にあった。移動中にクチナワさんから話を聞くと、湖に悪質な怪魚が大量発生していて子供達を引き込むタチの悪いモンスターらしく、氷で塞がってる今のうちに大量討伐をしたいようなのだ。
孤児たちの面倒を見ているのは腰の曲がったエルフのおばあさんで、一人で孤児院を切り盛りしている。財政は厳しく、ギルドに討伐依頼をしても報酬の安さから誰も引き受けてくれないところに、たまに訪れる吟遊詩人を通して管轄のクチナワさんに話がいったらしい。教会の人も何人か駆り出されているようだ。
「司祭様自ら来てくださるなんて、大変恐縮でございます」
おばあさんの腰にまとわり付いて、何人かの子供が私たちを緊張した眼差しで見上げる。上は中学生くらいだろうか、下はヨチヨチ歩きの子まで様々な種族の子供達が十人くらいいた。
「よい、子供の安全のためだ。駆除中は子供らを近づけさせるな」
そう言うとおばあさんは深く頭を下げて、物珍しそうに振り返る子供達を促し家の中へ連れて行った。
「……では第一回、ウォーターリーパー釣り大会を始める」
私一人が拍手する中、テンションだだ下がりのメンバーで釣りが決行されたのである。
まずワカサギ釣りのように氷を円形に切り抜いて、魔石の付いた釣り糸を垂らすらしいのだが私は初めての天然の氷の上で腰が引けてしまった。
「大丈夫だよ芽衣こんなに頑丈だし、もし割れても絶対助けてあげるから」
「は、はい……」
ヨタヨタとへっぴり腰で手を取ってもらい、何とか釣り場まで着いた。この下が魔物の巣窟だと思うと恐ろしいものだ。
腰を下ろすとすぐ近くでクチナワさんが早速魔物を釣り上げていた。ウォーターリーパーの正体は手足のない蛙の途中のようなモンスターで背ビレや尾は魚のようで口が大きい、ナマズのようにも見える。
「こいつが怪魚の正体だ。肉食で水面を跳ねて動物を捕食し、鳴き声も厄介だ。氷を張ってる今が活動が制限されて一番捕まえやすい。肉はとくに油も乗っておらずパサパサで美味くはない。どこまでも厄介な魔物だ」
「クチナワさんすごい! 釣り得意なんですね! 早い、」
言い終わるか終わらないかのうちにリップさんも釣り上げた。氷の上でビチビチ跳ねるウォーターリーパーはクチナワさんのより少し大きく見える。
「わー! リップさんもおっきい! 魔石で釣りってどうやるんですか?」
「簡単だよ、魔石に食いついたら魔力を流すんだ。早すぎても遅すぎても……」
クチナワさんがまた釣り上げた。次は三匹食いついている。私は感嘆して拍手を送った。
「いいか、魔石から湖の底の魔力を探れ。誘導してタイミングよければ……」
話の最中にザバァッと豪快に水を撒き散らしリップさんが大物を釣り上げた。今度は九十センチほどある。私は向きを変え目を輝かせて拍手した。
二人は無言で釣りに熱中しだしたので私も釣り糸の先の魔石に気を集中した。
コツンと当たる感覚はわかるがタイミングを合わせることができず、引き上げてもヒットがない。一時間ほど頑張ったが成果は全くなかった。白熱する二人をよそに私は退屈になってしまっていた。
クチナワさんが呼んだ助っ人の人も得て不得手があるようで、退屈そうにする人や仲間が釣り上げたウォーターリーパーを絞める人がいた。素材を剥ぎ取っているようで骨と皮とヒレ以外は放っていっている。
「身の部分は捨てちゃうんですか?」
「ああ、家畜の餌にするくらいしか用はないかな。それもここまではいらないしね半分は捨てていくんだ」
まだ二人はバンバン釣っているし、結構な量が廃棄されるようだ。手にしてみると身は白身魚のように見え、臭みもない。脂がないのは淡白なだけだろう、本当に美味しくないのだろうか……ウォーターリーパーのナマズのような顔を見て閃いた。
「少し試したいことがあるんですが、身を半分いただいてもよろしいですか?」
「ええ。むしろ廃棄の手間が省けますので全部持って行って構いませんよ」
教会の人から身の部分だけを分けてもらった。アイテムバックに詰め込み顔を上げると孤児院の子が窓からこちらを伺っていた。目が合うとサッと顔を引っ込めまた顔を出す。
どうやら大人がいっぱいいるのに退避させられて退屈しているようだ。そうなら手伝ってもらおうと私は孤児院に向かって行った。
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