第17話 -1 久しぶりの来客


 



 お手製コタツは好評を得たようで、雪送りの作業の合間のいい休憩所としてみんなの溜まり場になっていた。私とリップさんが雪像作りに案の定コタツで一息入れていると来客があった。


「なんだここは」


 かまくらの中を覗いてきたのはクチナワさんだった。訝しげに顔を顰めている。と言っても彼はいつもの仏頂面。それでも試験勉強に付き合ってくれて以来、会うのは久しぶりで嬉しいお客さんだ。


「こんにちわ、クチナワさん!」


 彼も今日はいつもの司祭服ではなく洋装で、シルエットの綺麗なロングコートを着て、髪を束ねている。


「ご無沙汰してます! よかったら上がってください。コタツ、暖まりますよ」


「コタツ……?」


 布団に囲まれたテーブルを見るとブーツを脱いで中に入ってきた。コタツの中を覗くと暖かい熱気に気づいたようで皮の手袋を外し、冷えた手を突っ込み中で暖め出した。中には櫂が丸まっていて、たまに布団の隙間からぴょこんと顔を出す。最近は食べるか寝るかで少し太ってきたのが心配だ。


「雪の中なのにここに入ると暖かいな、お前のドラゴンがとろけて亀みたいになってるぞ」


「寒さに弱いみたいで最近はここに連れてきてるんです。リップさんに手伝ってもらって作って正解でした」


「やはりお前が考えたのか、また変わったものを……」


 ちょうど蒸し直した餅でお茶にしていたのでクチナワさんにもだした。お湯でふやかして、きな粉をまぶした安倍川餅だ。リップさんはこの弾力が気に入ってくれたみたいでキラースライムを好んでくれるようになったが、クチナワさんはどうだろう。きな粉は気に入ってくれていたと思うが。


「これ、キラースライムなんですけど良かったら食べてみてください。きな粉をふりかけてるんです」


「私もいただいていますが、美味しいですよ」


 クチナワさんは炬燵から手を出して安倍川餅に手を伸ばし口に運んでくれた。小さめにカットしているが食べなれていないだろう彼が喉に詰まらせはしないかとヒヤヒヤした。


「うむ、キラースライムは庶民の食べ物だと思っていたがいけるな。追加」


「はい!」


 良かった、気に入っていただけたようだ。私の指についたきな粉まで舐めとろうとしてきたクチナワさんを、リップさんが腕をつかんで笑顔で制止した。クチナワさんが小さく舌打ちした。


「チッ……それより試験はどうだった? もう通知が届く頃だと思ったんだが」


「それが……まだ」


「やけに遅いな、冬越し祭りもあるというのに。試験はどうだったんだ?」


「えと、頑張りました! 学科試験は問題ないと思います」


「キキョウから模擬試合の時担ぎ込まれたと聞いたぞ、大丈夫だったのか? 変な奴にも付きまとわれてたらしいじゃないか」


「そうなのか芽衣?」


 二人の剣幕にたじろいでしまった。テーブルを挟んで尋問されているようだ。ソウジくんに傷口を舐められてヒールされたことを思い出し、耳が熱くなってきた。なにも知らなかったとはいえ、そこは黙っておきたい。呆れられるか馬鹿にされるはずだ。


「だ、大丈夫です! キキョウさんが治療してくれましたし、変な奴は多分チームメイトです……」


「本当だろうな……まぁいい、今日は頼みごとがあって来たんだ。人手は多い方がいい、リップお前も来い」


 珍しいクチナワさんの頼み事に私とリップさんは不思議に思い顔を見合わせた。


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