第15話 -8 ドラゴンの拉致

 



 瞼が眩しい光に当てられ目を覚ました。眠い目をこすり上体を起こし、目線の先に日が登るのが見える。


 朝日に目を凝らすと、太陽を背に黒い点の影がポツンとある。不思議に思い、眩しい光を遮りながら目をこらすと確かに何かが宙に浮いている。神々しい後光をバックに頭のとんがった銀のスライムがこちらに目を向け佇む。覚醒しない頭でボーッとしばらく二人で見つめあった。


「おはようございます、芽衣」


「あ、おはようございます……」


 機械のような片言で話しかられ目が覚めた。モンスターが目の前にいるではないか、何をのんきに挨拶を返しているのだ。慌てて腰の杖を取り出しスライムに魔法を放つ。電撃は跳ね返り銀の体には傷一つつかなかった。


  立ち上がり体制を整えようとしたが足場が不安定にぐらついた。驚いたことに私は木の頂上で鳥の巣のようなものの中にいる。周りはどこまでも続く森と空。強風が吹き恐怖とパニックでその場にしがみついた。


 スライムに目を向けるとグニャグニャと不規則に動いている。この動きは一度見たことがある。銀の流動体は大きく広がり、美しい流線を描き一角のドラゴンになった。絶望的な状況に唖然として動けないでいるとドラゴンが口を開いた。


「攻撃をやめてもらえますか? こちらはあなたを傷つけるつもりはありません」


「あ、あなたはなん……ですか?」


 銀の龍はまた姿を変え、今度は十二単の綺麗な女の人になった。頭頂部にとんがりがあり、一本角の鬼のように見える。


「私はこの世界でいう女神に仕えるもの、今では女神の使者や、眷族のドラゴンと呼ばれております」


「あなた様が、あの……私に一体何の用ですか? どうしてこんな場所に?」


「世界樹に愛された方、女神に選ばれし君。ちょうど近くで魔狂いの反応があったので、ついでにご挨拶しようと思いまして。連れの方が目を離された隙に植物に手伝ってもらい、こちらまで運びました。驚かせてすみません」


「そうですね、とても驚きました……あの、あなたは女神様とお話することができるんですか? もしかして、」


「この世界のものは誰でも意思を感じることができるはずです。長い歴史の間に人は忘れてしまったようですが……私は創始の時代からいる最後のもの、今も昔も世界の掃除人として命令に従っております」


 何だかすごい人と話をしている……。女神様と話ができるなら何故私がこの世界に転生されたのか聞いてみたい。この人のように使命があるから呼ばれてたのではと少し不安になった。誰でも意思を感じることができると言っていたが思い返す限り鈍感だからか、女神様の意思は聞こえたことも感じたこともないはずだと思う。だからこの世界では私はずっと戸惑ったままだ。なぜ私なのだろう。何故私を転生してくれたのだろう。


「あの、私は女神様の意思が全く聞こえないんです。何故私が転生されたのか、選ばれた理由を聞いてもらえますか? 何か使命とかあるんでしょうか?」


 また銀のスライムの形に戻り、頭のとんがりが空からなにか受信するようにビビッと動いた。


「……とくにないようですね。今は思いつかないから、好きにしててと言われてます」


 肩すかしをくらった気分だ。選ばれし者なんてかっこいいと思った反面、使命があってもこんなへっぽこでは役に立てそうもないので悲しいかな安堵もした。


「ところでアイテムバックは気に入ったのかと、そちらの方を気にされていますね。若者の好みがわからぬようでございます」


「これはクチナワさんからじゃなかったんですか!? あ、あなたやっぱりあの時の蛇さんでしたか」


「はい。模擬試合の時も上空から見守っていたのですが、雲を引き裂く魔法をぶつけられ慌てて逃げました。あなたの生命反応の微妙な変化に女神様は逐一反応されますので、あまり無茶はされぬよう。過保護な方ですので」


 クロウくんが言っていた銀の龍の正体はこの人だったのか。危なくぶつけてしまうとこだったなんて、それは申し訳ないことをした。そこまで見守ってもらうと、萎縮してしまう。心配されるのはありがたいが、とんでもない力を持っていそうだしあまり目立つこともして欲しくない。心配されないようしっかりしなくては。


「教会や祭りの場は信仰心が高まる場所故、お姿を具現化しやすくなるのですが今の時代では混乱をきたすと、何度かお止めしました。なかなか届かないあなたの現状をやっと感じれて、とても喜ばれましたよ。立派に生きてくれてとても満足だと」


「ありがとうございます、プレゼントはとても重宝させていただいておりますとお伝えください。あとこの世界と、与えてくださった命にとても感謝していると」


 サーチに反応があり、遥か下に人の気配と生命反応。そういえばこの人?に反応していない、いったいなぜだろう。


「では私はそろそろ……最近はモンスターに偏りがあって魔狂いが増えていますので仕事が多くて。あなたは彼女が最も愛する子です。我々は兄弟姉妹、その力はどうぞこの世界のために……皆で共に邁進しましょう。私はグーゴルとお呼びください。芽衣、またお会いする日まで」


「やっぱりあなたは始祖のドラゴンの……!」


「今ではそう言われております、だが本当の意味では始まりはあなたです。それではさようなら」


「え……? あ、はい! さようなら……」


 名前を聞いて確信した、やはり亜人の始祖と言われるグゴールだ。グーゴルさんはそう言い残すと鳥の形に変化し、朝日に向かって飛び去った。


 あの人もまた不思議な存在だ。それと女性でいいのだろうか、伝説のドラゴンなのにとても優しい人?だった。なんどか危険になった時の迫り来るような正体は彼女の気配だったのかもしれない。みんなに災難が降りかからなくていまさら安堵した。


 グーゴルさんに手を降り見送る遥か先の朝日がとても荘厳で綺麗だ。緑の海がどこまでも広がる壮大な景色。不思議な力で転生してもらえて改めて感謝だ。


 勝手に体をあちこち変化されてしまったがきっと、女神様は生きやすいようヒューマンと亜人の力を両方与えてくださったのだろう。もっともっと女神様には聞きたいことがあった。グーゴルさんの最後の言葉の意味はなんだったんだろう?


「……いったい私はどうやって降りればいいのか一番に聞けばよかったかな」


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