第15話 -9 救世主様
木の頂上で風を浴びながら呆然と立ち尽くしていると、植物のツタが体に絡みついてきた。驚いているとそのまま葉をかき分け、途中何度も引っかかりながら下まで運ばれ、地面に降り立つことができひとまず安堵した。すごい高さから目が回る強引なやり方で地面に戻され、葉や枝が髪や服に絡みついてボロボロだ。
蔦はなかなかほどけてくれず困り果て縛られたまま顔を上げると、木の下で乱れた服装の男女が驚いた顔でこちらを見ていた。あの顔は、
「ソ、ソウジくん! 何してるの!? キャーー!」
裸の女性が上に乗り、半裸のソウジくんは驚いて固まっていたが、こちらを見たままニヤリと笑うと女性を突き飛ばした。何してるなんて聞いたが明らかな行為中じゃないか、謝りながら私は赤面して踵を返し駆け出した。
「待てよ芽衣、誤解だってー別に何もしてねーよー」
半裸で追いかけてくるソウジくんに恐怖を感じて全速力で走った。弁解なんていらないから追いかけてこないで欲しい。上半身は蔦が絡まったままでいるし、このままソウジくんといたらろくな目に遭わないのは目に見えている。植物に野営地のマークを検索してもらい、それこそ死にもの狂いで逃げに逃げた。
「芽衣ーなぁんで縛られてんだよ、解いてやるだけだから待てってー助けてやっからよヒャハ」
「大丈夫だから! 来なくていい、わあ!」
前倒しに飛びかかられてしまった。私は亜人なのにエルフの彼にあっとゆう間に追いつかれ、背中に乗っかられ上から押し付けられてしまった。地面を押し返しても上からの重みに力でも勝てない。息がしずらくて苦しんでいるとソウジくんの吐息が耳に当たり呼吸が止まる。
「解いてやるついでにこの興奮治めるの手伝ってくれねぇ? なんか力が有り余って仕方ねーんだよ。あ、なに暴れんの? ほどかない方が好きだってこと?」
パクリと耳を食べられビク!と体が硬直した。次の瞬間ゾワゾワっと鳥肌が全身を包む。耳はダメだ耳はダメだ。反応して背中が仰け反ってしまった。
「やめ、やめて……ソウジくん!」
「……ハハ、このシチュエーションたまんねぇ〜」
背中の上でゴソゴソするソウジくん。カチャカチャ音がするが何をしているのかわからない。頭の中で警報が最大レベルまで上がる。絶対よからぬことを考えている。逃げ出そうと体を動かすがイモムシのような動きしか出来ない。
「ソウジ」
背中の動きがピタッと止まった。この声はクロウくんだ!声のした方に首をひねり、クロウくんに救助を目で懇願した。苦しくて涙目になってきた。
「あちゃー」
その声と同時にソウジくんが逃げ出した。重みがなくなり、肺が開放感から一気に軽くなった。ザクザクと音がして絡まり合った蔦が切られていく。やっと拘束を解かれ私は体を起こした。
「あ、俺が縛ったんじゃねーよ。芽衣が蔦に巻きつかれたまま木から降ってきたんだよ」
木の隙間から顔を出しソウジくんが声をかけてきた。私が彼を渾身の顔で睨みつけたらまた逃げ出した。絶対許すものか。
「クソバカ女め」
「わ、私が悪いの?!」
「チッ……目を離した隙に消えやがって、見つけたらソウジはケツ丸出しだし」
ブツブツと悪態をつくクロウくんは私の髪に絡みつく枝や葉っぱを取り除く。ぶつくさ文句は言っているが手つきはとても優しい。前髪の葉っぱを取ってくれた彼にちゃんと目を合わせた。
「ごめんね……クロウくん、ありがと」
口調は相変わらず冷たいが彼には何度も助けられたし感謝が尽きない。一瞬驚いたような顔になって、取ってくれた葉っぱをベシッとおでこに打ち付けられた。
「ほんと意味わかんねー女」
背を向け頭を掻くクロウくんの手はまだ巻き直すこともなく、ヨレヨレの包帯のままだったことに気づいた。
彼に対して分かったことがある。目つきは悪くて口調もキツいけれど、不器用な優しさがある。今日のクエスト試験が一緒でなければ分からないままだった。黒髪の後ろ姿を嬉しくなって見つめると、ちゃんと着いてきてるかたまに振り返ってくれる。その優しさと、少しは仲良くなれそうだ。
そして分かったことが他にもある。まずグーゴルさんの存在だ。亜人の始祖が存在していて会いに来てくれた。伝説の存在と知り合いと言うのは気が引ける。これは誰にも言えない秘密がまた増えてしまった。でも出来ればまた会って、願わくば女神様ともお話してみたい。与えてくれた力は、ギフトとして受け取っていいのか、私でよかったのか。尋ねたいことは山ほどある。
だがスキル鑑定のアルファベットの謎は自分で解明した。確かこの世界に来てすぐ自分をスキル鑑定したが、その時のランクは下から三番目のLC.と出た。つまり低懸念、ドードーは一番上の絶滅種のEX.だ。あんなに強いステュムパリデスになるのも今なら頷ける気がする。モンスターと亜人のスキル鑑定のランクは一緒の基準でいいのだろうか?人に鑑定を向けるのはプライバシーの侵害な気がしてまだ試していない。
低懸念……自分の弱さは分かっていたが、少々頼りなくて切ない気もする。ハァ、とため息をつくとクロウくんが振り返って歩みを止めた。顔で何だ?と聞いてくるので先を促すように背中を押して野営地に向かい二人で帰還した。
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