第15話 -6 お礼の羽根とソウジくんのヒール
「ヒャッハッハー! すげーっ! ステュムパリデスじゃねぇか」
「ソウジくん!?」
森の中からソウジくんが一人出てきた。金属の棍棒を肩に大股でこちらにやってくる。手のひらにはあのとげとげしい球を持っている。それを空高く上げるとバットで打って来た。跳ね返そうと盾で構えてステュムパリデスの前に立つと金属の翼が私を覆い、隠されてしまった。ガキンと金属がぶつかる音がして嘴を突きつけステュムパリデスが鐘の声で威嚇する。
「おおー、つーえーー!」
「やめてソウジくん!」
翼から掻き分け外に出た。手を広げ攻撃しないよう懇願した。
「ええー青銅でできた怪鳥ステュムパリデスだぜ? 滅多にお目にかかれねーんだもん、殺して素材にしようーぜー」
ソウジくんが振りかぶって翼を狙う。私は盾を構えて攻撃を防いだ。反動で盾が飛び、手ぶらになってもどかなかった。
「なぁクロウ、なんでこの鳥芽衣を襲わないんだ?」
「……確かに、傷は治ってるのに」
「ま、いーやクロウも手伝って。芽衣どかせてよ」
「いや、よせ。あれは殺さない」
「えー! クロウが素材欲しいって言ってたんじゃん、俺も欲しいんだって」
クロウくんの言うことは素直に従っていたのに、今回は諦め切らないソウジくんは毒々しい色の棘の球を大量生産しだした。駄々っ子だ、絶対言うことをきかなさそうだ。私は慌ててステュムパリデスに向き直り翼を抱きしめた。
〈ごめん! 私じゃソウジくんを止められないの、一本だけ羽根をちょうだい。あの棘に当たるときっと毒をもらっちゃう〉
優しい目で私を見つめ返すと伝わったようで、金属の嘴を翼に潜らせ羽根を抜いた。羽根を咥えたまましがみつく私に嘴をすり寄せてくれる。良かったらどうぞ、と心の中に声が聞こえてきた。
「おお! なになに今の!? 見たかクロウ? 意味わかんねー!」
「……あぁ」
羽根を受け取るとステュムパリデスは翼で風を起こし一瞬にして空高く飛翔した。あんなに早く飛べるなら余裕で逃げれたのに、私を攻撃からかばってくれたんだ。羽根は三枚あり、重くて持ち上げきれなかった。二人に渡すとソウジくんは興奮して喜んだ。
「もらっていいのか芽衣、めっちゃサンキュー! ありゃ捕まんねーよ、青銅のくせにめっちゃかてーし。なになに話しかけたように見えたけど何かの魔法?」
「まさか! 魔石をあげたからお礼にくれたんだと思う」
私もありがたく背中のアイテムバックに詰め込んだ。ランクの高いモンスターらしいし、これを提出させてもらおう。今から大量のゴブリン狩りは心身共に疲れる。はしゃぐソウジくんと黙りこくってしまったクロウくんで私たちは野営地に戻ることにした。
「ソウジ、どうして場所がわかったんだ。ついてくるなって言っただろ」
クロウくんは一気に不機嫌な態度に戻っている。声にイラつきを感じる。この短時間でクロウくんの微妙な違いをわかるようになった。ソウジくんは私の横に周り、また肩を抱いてきた。私の肩から小さなトゲトゲの球を剥がした。公園で遊んだらよく服にひっつくオナモミに似ている。
「あとはつけてねーぜ、分身を使って発信機をつけてただけ。あ、芽衣傷だらけじゃねーか。ヒールしてやんよ」
「ありがとう、目に血が入って見えにくくって。お願いします」
肩に置かれてた片腕が私の頭をがっちり掴むと、瞼の傷をソウジくんがベロンと舐め上げた。
「ちょ!? なにするの、離してやだー!」
「なにってヒールだろ、目に血が入りすぎると失明するぞ。動くなって」
失明は怖いが顔面を舐められるのを耐えなければいけないなんて、ヒールは手を握るだけじゃないのか。恥ずかしくて顔を掌で隠した。
「ほら邪魔だって、手も頬も怪我してんじゃねーか。大丈夫だって、虫除け効果もあるんだから」
「顔はもういいよ! くすぐったい!」
手をほどかれ降参したようなポーズにされる。ドードーが暴れた時の傷は丁寧に舐められあっという間に傷が消えて行く。間近で見るソウジくんの顔はエルフなだけあって整っていて直視できない。クロウくんといい、だいたいこの世界の人は顔立ちが綺麗すぎる。傷口を舐められ恥ずかしくて嫌なのに何故だか頭がポーッとしてきた。
「やっべ、お前の血なんか興奮する。なにこれ」
上着を脱ぎ出すソウジくんにクロウくんが後頭部を杖で勢いよく叩きつけた。
「ソウジ! ヒールしながら媚薬なんかねりこむんじゃねぇっ」
「バラすなって! いいとこだったのに」
「お前も気づけ馬鹿女!」
頭がはっきりしなくなったのはそういうことだったのか。珍しく声を荒げるクロウくんにリュックを引っ張られ彼の後ろに回され盾になってくれた。もうソウジくんには近づかないようにしよう。エルフはみんな変な人ばかりだ。
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