第15話 -5 暴れるドードー
サーチを使い森を進んでいるとクロウくんが小脇に抱えたドードーが段々と弱ってきた。水辺はもう少しだ。心配になってきて二人の足並みは自然と上がる。
「もうすぐだからね」
元気付けるが様子は変わらない。弱々しく金属製の嘴を鳴らすと小さな鐘の音がカランとした。水の匂いが近づいてきて、茂みを抜けると崖下の広い川に出ることが出来た。水の流れは穏やかで岩で反射する音が綺麗だった。クロウくんからドードーを受け取ろうとすると私の指を見て動きを止めた。
「お前、その爪危険すぎるだろ。ひっ込めろよ」
「あ……そうだね、うん」
私は自分の指先を見た。移動中も努力はしたが鋭利な爪はまだそのままの状況だった。やはりクロウくんが言うように亜人の爪は引っ込めることができるものなのだろう、だが念じても変化はしてくれなかった。
駄目もとでしゃがみ込み、岩に爪を押し当てた。私のバカみたいな行動をクロウくんは黙って見つめている。
「お前……まさか爪の直し方知らないのか?」
「あはは! まさか……」
焦って力が入り、岩に爪がめり込んでいく。なんて強固な爪なんだ。自分のものなのに恐怖すら感じる。爪が引っ込む気配はないし誤魔化せないのかと諦め掛け、力を抜いた途端亀裂が入り岩が砕けた。それと同時に爪がシュッと収納された。驚いて尻餅をつき指を確認したら元の爪に戻っていた。人の爪に戻れて安堵のため息をつく。
「ほーら直った!」
「当たり前だろ、どんな直し方だよ」
「コツがいるだけだよ、亜人は爪が収納されるんだよ!」
そうなんだ、私は亜人なんだ。自分にも岩を砕ける身体的特徴を持ってるんだ。なんて頼りがいのある武器だろう。非力で弱い自分にもおさらば、だって私は亜人だったんだから!体に強みのある憧れの亜人、踊りだしたい気分だ。
「そういえば、お前ってなんの亜人だっけ?」
「えっと、一応……鳥人族」
「その爪猛禽類かよ、見た目からは想像できねぇな」
確かに。私はなんの亜人なんだろう。爪があるということは何かを捕食する生き物。獲物を捕まえる時、食べやすく引き裂く時、浮島のドラゴンのように攻撃する時。爪にはいろいろな使い道があるのだからそこから割り出せるだろうか。けど亜人ならなぜ付加魔法ができるんだ。ヒューマンだけにしかできないはず、私は亜人なのに……。
モヤモヤ悩みながらドードーを受け取り、水辺で傷を流してあげた。それでもぐったりとし、欲しがっていた水も飲まなかった。水につけても元気にならないし諦めて水辺から上がった。
「お、ラッキーだぞ。お前が砕いた岩に魔石が入ってる」
私が砕いた岩にしゃがみ込んでいたクロウくんが顔をあげた。側によってみると岩の中心に宝石のようなものが埋め込まれている。ピッケルのようなものを取り出し、クロウくんが慎重に砕き、いくつかの欠片を取り出した。クリスタルのような、七色の綺麗な宝石のようだ。手のひらに乗せ、私に差し出す。
「空の魔石だ、提出すれば一発合格に特待点もつく。いい純度だ、半分もらうぞ」
受け取ったら付加魔法が発動しそうで怖かった。手に取ったらヒューマンであることがバレてしまう。いや、亜人だ。どっちなんだ?だが受け取れない。
「クロウくんが取り出したんだから、私のじゃないよ。私は他の素材を採取するから」
「バカか、もうそんなに時間もねぇよ。それにお前が見つけたようなもんだろ」
迷っているとドードーが私の腕の中で暴れ出した。嗅いだことのある腐臭を放つ。これは……
「チッ、魔狂いか……」
クロウくんが背中から長い杖を取り出した。殺す気だ!
「だめ! 殺さないで!」
「離れろ、魔狂いになっちまったら見境なくお前も狙われる。不幸しかもたらさない」
「わかってる! お願い、私の分の魔石をこの子に食べさせて。そうしたら魔狂いはおさまるんじゃないかな」
「そんなチンケなノロマ鳥にこんな貴重な魔石もったいねぇだろ、バカいうな」
ドードーは暴れて私は身体中を引っかかれた。金属の嘴が目を狙ってきてすんでのところで避けた。まぶたの横が切り裂かれ、視界が赤く染まる。それでもドードーを離さずクロウくんに目で訴えた。
「お願い……」
クロウくんは一瞬止まった。だがすぐさま魔石をドードーの口に突っ込んだ。嘴がクロウくんの手を切り裂き血が飛び散る。
ドードーは魔石を飲み込むと暴れるのをやめ大人しくなった。岩の上に寝かせるとむしろグッタリとして動かない。
「手遅れだったのかな」
「そんなはず……くっ!」
ドードーの体が閃光を放ち、目を開けられなくなった。何が起きているのだろう、手探りで盾を構え二人で光を防いで発光が収まるのを待った。しばらくすると大きな鐘の音が響いた。恐る恐る見るとさっきまでいたみすぼらしいドードーのいた場所に、青く輝く大きな鳥がいた。翼の先と鉤爪が青緑色した金属になっていて、嘴はドードーのものと全く一緒だ。
私は目を拭って再度確認した。やはりそこにいるのはさっきのドードーとは似ても似つかぬ美しい鳥が堂々とそこにいた。
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