第15話 -4 大きな使命感



「って君ってドードー鳥! すごい、地球では誰もが知ってる一番有名な絶滅した鳥だよ、EXランク! これってどうゆうこと?」


 EXは絶滅を表す意味だ。EX.(絶滅)EW.(野生絶滅)CR.(深刻な危機)EN.(危機)VU.(危急)NT.(準絶滅危惧)LC.(低懸念)DD.(データ不足)NE.(未評価)と団体によって多少異なりがあるが個体数を表すカテゴリーと基準のはず。


 なぜこの世界の生物を、頭の中で起こる鑑定が地球表記なのか。それどころか、このドードー鳥は地球ではとっくの昔に絶滅しているはず。多少見た目は異なるが本で見た通りの特徴もしている。疑問が解けたのに新たな謎が浮上してしまった。だが今は幻の鳥に出会えたことに感動さえしている。


「確かにドードーって語源の意味はノロマだもんね」


 天敵のいない島で翼は退化して警戒心なんて持っていなくて、侵入してきた人間による乱獲、飛べないから地上に作った巣の卵や雛が持ち込まれた動物によって捕食され、目撃から八十三年で絶滅してしまったかわいそうな動物。それがなぜこんなところで生きているのか。地球ではもう二度と見られない鳥、絶対に守ってあげたいという責任感がより一層強くなった。


 愛おしげにドードーを抱く。使命感が芽生えていて不気味な夜の森も逞しい気持ちで小さな杖明かりでも進むことができる。


 話しかけながら歩みを進めていると、突然背後からギャギャギャと声がした。一瞬にして背筋の凍るようなあの声、振り返るとゴブリンの群れが木や茂みから湧き出てきた。サッと血の気が引く。この子を抱きかかえているので杖を構えることができない。情けないが、まずゴブリンと戦う気がどうしても起きない。


 脇目も振らず駆け出した。気持ちがはやるのに足がもつれる。その上ドードーを抱えて走ってはすぐに追いつかれるのにそれでも逃げ出した。それは私の本能が逆らえないからだ、目に入るのも嫌だからだ。


 悲鳴をあげて数メートル走る。すぐ背後からはゴブリンの笑うような声が聞こえ今にも飛びかかられるだろうと諦めかけた時、前方の木から影が降ってきた。月明かりを背にした人影だ。影は素早い動きで私の横を通り過ぎ、背後が光り爆音が起こった。地面を揺らす衝撃に足場がふらつきドードーを覆うように私はしゃがみこんだ。


 土が地面に落ちるパラパラという音が止むと森は静まり返った。恐る恐る振り返ると暗がりでよく見えないが、その影の足元にはゴブリンが散らばっている。真っ黒な影が砂利を鳴らしながらゆっくりと近づいてくる。不気味な存在が近づくたびに心臓がさらに心拍数を上げたが腰が抜けて立ち上がれない。影はへたり込む私の前にしゃがんでその顔を確認できた。


「クロウ……くん」


 むっつりとした顔は不機嫌な顔をして黙り込む。ゴブリンの脅威が去って、さらにチームメイトに会えたことで私は安堵感から涙が滝のように溢れた。


「あり、ありがとう……! ゴブリン、き嫌いで」


「知ってる」


「助けてくれてあり、がとう……う」


 まっすぐ目を見つめながらお礼をいう。ここまで近くで見たことはなかった黒い瞳が今は刺さるようではなく、優しいとさえ感じる。


「それ、捌くのか?」


 クロウくんが見下ろす先にドードーの子がいる。慌てて庇い、首を振る。


「ダメ! 素材にはしないの! それにお肉も美味しくないでしょ? ……た、助けたくて……」


「知ってる」


 クロウくんは、わずかだが微笑んだように見えた。知ってるとはどっちのことだろう?お肉が美味しくないことか、助けたいと言ったことか。助けてくれたタイミングからして跡をつけていたのだろうか……。


 自分の奇行を見られていたのだろうか、恥ずかしくなって赤面した。クロウくんが立ち上がったので私も涙を拭って立ち上がった。


「水辺に行きたいんだろ、こっちで合ってるのか?」


「うん。あ、亜人だから鼻が利くの。あと水辺に行こうと思ったのはこの子が火傷してるからであって」


「あぁ。変なやつだとは思っていたが、モンスターに語りかけるやつは初めて見た」


「どこから見てたの!?」


「木の上。お前、亜人ならもっと周囲に気を配れるだろ。こんな森の中で一人、もっと警戒心を持て。女のくせに殺気の出どころには敏感に反応出来るくせにバランスがおかしいぞ」


 ぐうの音も出ない。そもそも探索には特化しているサーチは加減を習得していないので森だと範囲もありすぎ、単純に探索だと植物達が小さな虫にさえ反応して集中力が取られる。


「うるさいなぁ。あとチクチク殺気送るのやめてくれる?」


「男といちゃついてるのがムカつくんだよ」


「いちゃついてなんかいませんー! オセロットくんは大事な友達だもん」


「向こうはそうは思ってないだろうがな」


「ひどい! 友達って思ってくれてるよ!」


「あ? そういう意味じゃねーよ」


 喧嘩腰だがこんなに彼と会話が続くのは初めてだ。一言で返すだけで周りの友達と談笑しているのも見たことがないし、ちゃんと話せるんだと知った。会話のキャッチボールは続き、自然な動きで彼はドードーを私の腕から取り交代してくれた。口調はキツイが紳士的な行動もとる。不器用なだけで意外といい人なのかもしれない。


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