第13話 -3 黒髪の彼
格技試験が行われる運動場は、石畳のフィールドが三つ用意されていた。観客席もあり、見物人が大勢いた。人に見られながら試合するなんて嫌でも緊張を煽られてしまう。
まだ出番ではないので参加者が準備をする場所に行くと、オセロットくんが私を見つけ駆け寄ってきてくれた。
「次は模擬試合だね。対戦相手は直前までわからないし、武器の規制もない。けど危険だと判断されたら即座に試験官たちが止めに入るから、不安にならなくていいよ。ただ、フィールド内は魔法の力が弱められてる……芽衣は何とかして場外に出すことを考えるんだ」
「う、うん」
「勝ち負けで試験の合否にはそんなに響かないから、相手を見てさっさと場外に出て大丈夫。お願いだから無茶しないでね」
運動場の下草が、肌にチクチクと参加者の殺気を伝えてきてくれる。心配してくれているが私も自信はつけてきたつもりだ、負ける気で挑みたくない。
リップさんの騎士団の特訓を乗り越えたんだ、大丈夫。不安な気持ちを押し殺し自分に言い聞かせた。
フィールドに審判の服を着た人が立ち、拡声器でアナウンスする。
「これより模擬試合を始めます。明日のクエストのチーム編成の選考もありますので皆様の特性を披露していただく場だと認識を忘れず、相手選手に怪我をさせないよう配慮されてください。ヒーラーも待機しておりますが、明日の試験に響くほどの怪我を追わせた場合失格とさせていただきます……では模擬試合を開始します!」
空気を震わせる怒号のような歓声とともに試合が始まった。
対戦相手の組み合わせに統一性はなく、魔法使い対戦士、エルフ対ドワーフ、亜人対亜人等、種族も男女も関係なく戦い方もそれぞれだった。
切り傷だらけになった戦士の男性がすぐ真横を通って救護室に運ばれた。みんな手加減しているようにはとても見えない……。
観客もオセロットくんでさえも興奮して試合に見入っている。私は次々繰り広げられる高度な戦闘技術にすっかり縮み上がり、さっきまでの意気込みもどこへやら……逃げ出したくなってしまった。
試合は進み、空を飛ぶアーチャーも居れば薬品の入った小瓶を投げつける者もいる。目の前の試合では狼を従えた亜人が口笛で狼に指示を出し、相手選手に喰らいつかせている。
「あんなのもありなの!?」
「うん、一応使い魔は武器扱いなんだ。櫂を連れてくれば良かったかな」
「危ない目に合わせたくないかな、見境なく毒を吐くだろうし」
「それもそうだね。ごめん、この時期特有のお祭りだから興奮しちゃって……あ、やっぱりあの野郎戦う気なかったか」
悪態をつくオセロットくんの目線の先にヒューマンの男の子がいた。フィールドを自分からさっさと飛びおりて棄権試合となった。
ポケットに手を突っ込んだまま男の子は戻って来る途中立ち止り、体を曲げ靴紐を直しているのか俯く彼の頭は黒髪だ。黒は魔力が強いと聞いたが体調でも悪いのだろうか?
棄権した子をジロジロ見ていたら失礼に思われそうだが、なぜだか目が行ってしまう。飄々と片手をポケットに、受験プレートを手のひらで投げて遊ばせながら友達の待つ席に戻った男の子。椅子に足を広げ、つまらなそうにしている。
周りの友達は彼を中心に固まり、女の子たちが彼に纏わり付いている。周りの子達は試合で怪我をして退場する人を笑い、大きな声で野次をいれている。それにも興味がないのか黒髪の男の子は周りを止めることもせず、女の子を手で払いのけ平然としている……なんだかやな感じだ。
「やな奴。黒髪だから魔力は強いんだろうに、手の内を見せたくなくて棄権するやつもいるんだ……相手選手は見せ場を作れなくて可哀想に」
肩を落とすトラの亜人に同情の目を向けているオセロットくん。やな感じと思ってしまった私の心を読んだのかと思った。そういう理由で棄権する人もいるのか……男の子は特に周りともしゃべらず、ふてくされているようにも見える。
気を取り直して試合を参考にしようとフィールドに視線を戻すと、背後から聞き覚えのある会話が聞こえてきた。今朝、宿屋の食堂で会話していたうさぎの親子の声だ。
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