第13話 -2 学科試験




 学科試験の会場は大量の机と椅子が並べられていた。もらった番号の席につくと、正面の教卓に三角帽子をかぶった魔女が立つ。ざわめきが少なくなり、広間の空気が緊張感に包まれた。


「それでは、ジェイダ学科試験を始めます。筆記具を忘れた方はその時点で失格です。いかなるカンニングにも目を光らせております、私どもが見つけ次第問答無用で失格です。侮る事なきよう。私共は監視、拷問の経験はあなたがた素人より実践豊富です……では用紙を配ります」


 電気が走ったように空気がピリッとした。違う緊張感が高鳴り、モゾモゾと動く受験生が何人かいた。亜人は目がいい人がいるがこの魔女の前でそんな不正はとても出来そうもない。鷹の目のような魔女だ。悪いことはしていないのに私も何故か居た堪れなくなる。


 彼女が杖を振ると用紙が宙を飛び、ちゃんと三枚下を向いて全員に配られた。


 懐中時計を覗き込む魔女以外、誰も動かない。彼女の懐中時計の音が聞こえてきそうなほどピンと張り詰めた空気がピークに達した。


「それでは始めてください」


 学科試験が開始した。一斉に用紙をめくる音がペンを走らせる音になり、広間中を埋め尽くす。名前と受験番号を一番に書き、問題に目を通した。


 〈うん……これはクチナワさんに出された問題だ。覚えてる〉


 まるで進〇ゼミみたいなセリフだったが、問題ごとに口の中に辛い感覚が思い出された。スパルタ指導のおかげで体が問題を覚えている。つらかった経験だったが、あの時負けずに乗り越えて良かったのかもしれない。


(問22.) 女神様の奇跡、インプリティングとは何か答えなさい。


 これは確か、地球では鳥が生まれてきた時最初に見たものを親だと思う刷り込みの意味だが、こちらでは女神が種族により違った特性を刻印付けした魔法のことだ。


 ペンは順調に進み、終了時間前に解答を終わらせ見直しもできた。クチナワさんに見つめられ、追い詰められるようにテストを出されたので時間配分も上手くいったと思う。


 全て私の体に叩き込まれている。人間の記憶の仕方はたとえば、顔を見るだけで覚えるか、耳で聞いて会話を覚えているか、握手など触れたりして経験として覚えるかの三パターンがあり、そのどれかが得意になっているらしい。どうやら私は後者の体感型のようだ。彼のやり方を憎んだが、ちゃんと理にかなっていたのかもしれない。


「終了です。受験番号、名前を書いてない時点で失格となります。では用紙を集めます」


 慌ててペンを取る人もいたが、無情にも機械的な喋り方の試験官は杖を一振りすると容赦なく用紙を集めた。ため息のような疲れた息を吐き出す声がそこかしこから聞こえた。


 集めた用紙を立ててぴっちりと揃えた彼女は正面に大きな用紙を張り出した。いくつかの項目に別れている。


「次は格技試験です。番号によって闘技場が違うので確認して移動してください。番号順に呼ばれますので時間内に現れなかった場合棄権と見なし失格です、以上」


 キビキビとした魔女が退出した。少し母に似ている。ググっと体を伸ばし息を吐き出した。鑑定しながら問題を読むので目が疲れた。肩を落とし席を立つ人と、余裕で風を切って移動する人、友達とふざけ合いながら騒がしく部屋を出る人と面妖は様々だ。


 大きな手をした熊の亜人は机で縮こまっていたが学科試験が終わると小さなペンを握りつぶし、勇まし気に模擬試合に向かっていった。私も張り出された案内を確認した。指定された模擬試合の会場は外の運動場になっていた。その他闘技場、演舞場、室内競技場と多くの施設が揃っているようだ。ここはとんでもなく広い施設だ。


 外は好きだ、冷たい外気を吸って今にも溢れ出そうな緊張感を吐き出したい。地図を確認し小走りで移動する。



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