第3話 -3 蛇草
慌ててイアソンくんに駆け寄ろうとしたらエルフが私の前に立ち塞がる。
「あの子のには毒は入れてない、安心したまえ」
必死に押しのけようとしたがエルフが塞ぎ、妨害してくる。脇からイアソンくんの皿を覗き見ると鑑定では異常なしだった。ホッとしたのもつかの間、掴んだ腕に力がこもり激しい憤怒が湧き上がる。
あの子のには、と言った。彼が毒を盛ったということじゃないか……リップさんの祝いの席じゃなかったら声を張り上げていた。一体どういうことだと彼を睨みつける。エルフは余裕で私のものだった毒入りの肉を口に放り込んだ。
「どうやら君はエルフではないようだな。我々はグルメだ、好んで毒を分泌し交換するのだがアテが外れたか」
「もしイアソンくんが食べていたら、どうするんですかっ」
「気づかれないうちに解毒できるさ……君は特別な目をしているようだ。その若さで、ただの肉塊を海牛と見破ったとしても、食べてみなければ海牛の種類まではわからない。貴族の場にも、戦場慣れもしていないようだ。何故エルフでないのに毒を見破れた? 君からは懐かしい魔力を感じる……昔、エルフの里で会わなかったか? 私の名はクチナワだ、わかるか?」
矢継ぎ早に質問され、たじろいでしまう。逃げようとするとドレスの裾を掴まれ、引き寄せられた。せっかくのリップさんの祝賀会……声を上げ、場を乱したくない。睨みつけ威嚇すると、エルフは興味深そうに私を観察する。
「芽衣、どうした?」
リップさんがお供を連れ、訝しげな顔をして現れた。突然の乱入者にエルフは冷ややかな視線を向けた。
「い、いえ……」
毒を見破ったなどバレたくなかった。先ほどのエルフの感じでは、鑑定スキルは異色のようだ。返答に困っているとエルフが掴んでいた裾を離し、微笑した。
「素敵な装飾品でしたので、近くで拝見させていただいておりました。アラクネの糸で紡がれたドレスは最高級クラスの物ですね」
「まぁ素敵! わたくしも拝見させていただいてもよろしくて?」
リップさんに取り巻いていた一部が私とエルフに寄って来た。はしゃぐ若い女性がエルフに話しかける。
「貴方はもしかして天南星家の蛇草様ですか? 素敵な方がいらっしゃると思っておりました。今日は枢機卿はご一緒ではないので?」
「ええ、今日は私一人でリップ様のお祝いに」
クチナワクサという名のエルフがわたしの手を引き、リップさんの前に立つ。クチナワさんは顔を天に向け、手のひらを向かい側のリップさんにかざすと視線を下げ、初めて二人は目を合わせた。
「聖騎士のクラスアップおめでとうございます、女神のご加護を」
目の奥が笑っていないクチナワさん。
「世界樹と共にあらんことを」
硬い表情のまま言葉を返すリップさん。周りの女性陣は2人の優美な所作に熱いため息で惚けたが、真横に立たされている私は2人が睨み合っている事にハラハラとしていた。
「……それでは、芽衣さんまた後でお話ししましょう」
赤い髪を翻しクチナワさんは席を外した。緊張感から解き放たれ、やっと胸をなでおろしたが彼に名前を知られてしまったことに気がついた。
だが鑑定スキルに気づいたかもしれなのに、彼は周りに話さないでくれた。ふと見るとリップさんは硬い表情のままだった。さらに来る祝賀に訪れた人々にお礼を返す作業に戻っていたが最初と違い、短く済ますと心配げに少し離れた私に視線を向け、距離を保ってくれた。
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