第3話 -4 平等な世界
ひどい目に合ったのに、好奇心には逆らえずテーブル料理に舌鼓をうっていると、人垣の中に特徴的な赤い髪のクチナワさんが見え隠れする。どうやら話すタイミングを見計らっているようで、ビクっと肩を震わせ、そそくさとリップさんの人垣近くに逃げ込む。ニ、三回繰り返し、取り分けたケーキに知らぬ間にまた毒を入れられていて、げんなりしてデザートは諦めた。警戒していてよかった……。
それでも満腹感に浸り、音楽に身を任せ優雅に踊る人たちをイアソンくんと眺め、うっとりしていた。会場は酔っ払った人もかなり増えている。
踊り狂う太った男女が大きな声で笑いながら、勢いよくぶつかってきた。衝撃でイアソンくんが吹き飛び、私は隣の人の背中に体当たりした。
鼻を抑えながらすみません、と謝ると見上げるほどのたくましい巨体。ゆっくり振り向くと白いタテガミと顎髭に丸い耳、ライオンの亜人だった。
百獣の王と称されるだけあって、威厳に満ち溢れた初老の男性と目が合うと、圧迫感に萎縮してしまう。
「いや、私は大丈夫」
地に響きそうなバリトンボイスだ。再度頭を下げ、尻餅をついたままのイアソンくんに向かった。
怪我してないか聞くと何も言わず相手をずっと睨みつけている。
「なんだい生意気な亜人だね! 文句があるのかい」
女性は甲高い声で叫び、扇子でペチペチとイアソンくんの頭を叩く。それを見た私は驚愕した。カッと頭に血が上り扇子を払いのけ、イアソンくんを後ろにかばった。
「子供相手になにするんですか! ぶつかってきたのはそちらです、この子に謝ってください!」
声を張り上げた私に周りの人がチラチラと振り向く。太った女性は私の全身を品定めするようにギョロリと目を忙しなく動かすと、鼻の穴を拡げてフン!とだけ残し、お尻を振りながら去ってしまった。連れの男性も何も言わず後を追う。彼らの振る舞いに唖然としてしまった。後を追おうと立ち上がるとイアソンくんにドレスを掴まれる。難しい顔をしたまま首を横に振り、私を引き止める。
わけがわからないでいると、イアソンくんの頭に大きな手がポンポンと置かれた。一部始終を見ていたライオンの亜人さんだった。
「偉いぞボーズ、家の主人を守ったな」
ニカっと笑うと彼の尖った犬歯が目立った。イアソンくんも彼に向けてニカっと笑う。
「不遜な輩はいるものです。特に亜人に関しては家畜として扱い、不逞な行いをする者もいる始末。女神像はヒューマンの姿をされていますので人間は眷属としておごり高ぶったとこがあります。だが最近は森が物騒になっており、彼らの作る魔力はかかせませんからな……」
彼は頬にあるシワのような深い傷跡をポリポリとかいた。家畜という言葉に胸が痛む。そんなのおかしいと声をあげたい。
もっと話を聞こうと口を開こうとしたら羊のウェイターが音もなく現れ、頭を下げた。
「ご歓談中失礼します。芽衣様とイアソン様、お帰りの支度が整いました。馬車へどうぞ」
「あ……はい……お話ありがとうございました。お先に失礼します」
もっと話したかったが、迷惑をかけてしまうと思い堪えた。ライオンのおじさまと挨拶を交わし、イアソンくんも大きな手で握手を交わしてもらっていた。私と違い、もう全く気にしていないようだった。
この世界は皆が平等に暮らしていると聞いていたのに、人間の方が位が高いのだろうか?子供にあんな態度を取ることが当たり前なのか。胸がモヤモヤした。
ウェイターの後について外まで案内してもらうと、車内には狩衣を着崩したリップさんが先にいた。
「すまない、撒くのに苦労して裏口から先に出させてもらった。二人とも大丈夫かい? 疲れたかい?」
気遣わしげなリップさんを見て、彼のように優しい人族の人もいるんだと思い起こされ安堵した。嬉しい気持ちに満たされ質問に首を振った。
「良かった。では二人とも、街の祭りに参加しないか?」
リップさんは街で売られているお面を手にし、いたずらっぽく笑った。
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