第1話 -6 隠し事
いきなりの展開に言葉を失った。ドラゴンの気を反らせたことに安堵したのか、悲しいのかわからなかった。
「……急がなければ、世界樹に伝わる前に脱出しないと」
全身を真っ赤に染めたリップさんがユニコーンに跨ると、逃げるように駆けた。
森の雰囲気が変化していた。 濃い霧が立ち込め、風もないのに意思を持ったように葉がざわつき、私たちの居場所を伝播させている。
不気味な植物の蔓が馬上の私たちを妨害してくる。正体の見えない者の威嚇する声が聞こえ、大地まで怒っているのか地面が揺れる。心に流れ込んでくる膨大な感情の渦に気分が悪くなってきた。リップさんも苦しそうな顔をして私を振り返る。
「あまりこの空気を吸わないように、霧のように見えるが世界樹が瘴気を出している。拓けたとこに出るまでの辛抱だ」
「……さっきのドラゴンより恐ろしいんですか?」
「世界樹を知らないのかい? 我々の創造神とも言われ、命を生み、世に恩恵を与えてくれる。だが破滅にも導くだろうと……君は何者なんだい? 先ほどドラゴンが、君の言葉に振り向いたように見えた」
どうしよう。違う世界から来たなどと言ったら、頭がおかしいと思われて捨てられないだろうか?ドラゴンやユニコーンの気持ちがわかったなど、この世界ではどう思われるのだろう……あの優しい目を思い出し、悲しくなってきた。
返答に困っていると拓けた草原に出た。私たちが最後のようだ。ユニコーンは大地を蹴って、その大きな翼で飛翔した。
「話したくないなら私も聞かない。この島のドラゴンは守護者だ、もしかしたら君を守りたかったのかもしれない。野生のモンスターにはありえないことだが、浮島ではどんな奇跡も起こる」
島の端に出たとこで驚いたが、島は宙に浮いていた。剥き出しの分厚い土の上に広大な緑が広がり、その中心に群を抜いて背の高い世界樹らしきものが見えた。圧倒的な存在感。脳で処理できる許容範囲を超えている。
こんな想像を超えた世界で1人で生きていく事は到底無理だ。リップさんの背中から伝わる、人の温度が暖かかった。
「……私、この世界のこと何も知らないんです」
か細い声で絞り出すと、リップさんは安心感のある笑みでわかったと短く返事し頷いてくれた。
立派な人だし、私は今日死んで目が覚めたら知らない世界だった、ドラゴンやユニコーンの気持ちが分かったと全て話しても、この人は守ってくれそうな気もする。だが今の私は本当に何もわからない。親族も知り合いもいない天涯孤独の自分。何が起こるか予測も出来ない世界で、自分を守らなければいけない。文明で生きていく為のルールや常識を知ってから自分で判断して、必要ならその時打ち明けても遅くないはずだ。
ユニコーンが巧みに旋回し、大地に向かって下降を始める。もしかしたら同じ境遇の人だって普通にいるかもしれない。そう思うと少し気持ちが軽くなった。
小さくなった浮島を振り返り見上げた。目覚めた時の大きな木、優しい大気と穏やかだった森。そして優しい目をしたあのドラゴン。また訪れることが出来るなら、わたしは……
「あれが我々の都」
考え事の途中でリップさんが指を差す。その方向に円形に広がる都市が見えてきた。夕暮れの草原が広がる大地にいきなりポッカリと山があり、それがまるごと街になっていた。
「ラグゥサだ」
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