第1話 -5 ドラゴンの目
手を引かれ馬の所に着くと、馬は乗りやすいよう足を折り、リップさんが軽々私を持ち上げ背中に乗せてくれた。胴体から翼が生え、額からは立派な角が生えている。おとぎ話のユニコーンだ。
他の人たちも見たことのない幻想的な動物に騎乗すると、見届けたリップさんも乗馬しユニコーンを走らせた。
「あれは古の龍だ。ドラゴンは深いダンジョンや寝ぐらから出てこないものなんだが、やはり世界樹の様子がおかしいという父上の言葉どおりなのだろうか……」
後ろを振り向くと、上空の影はさらに大きくなっていた。
「人を攻撃しますか!?」
「わからない。我々が探索に島に足を踏み入れたことに怒っているから、出てきたのだろう。軍隊ならまだしも少数部隊の探索で彼らを怒らせたことはないのだが、島の端まで間に合わ……ない……っ」
強風が吹き、頭上で大きな影が一瞬通り過ぎた。不思議な感覚が起こり、それは心の中に広がった。
〈 怒り、不安、そしてこれは…………心配?〉
先頭を行く騎士の、茶色いコウモリ羽のワイバーンが嗎を上げ立ち止まる。木をバキバキと鳴らしながら大地を震わせ降り立ったそれは、真っ赤な鱗に覆われた美しいドラゴン。鋭い牙を剥き出し、空に向かって耳を塞ぐほどの大きさで咆哮を放つ。
ゆっくりとこちらに顔を向けると巨躯に合う長い尻尾を薙ぎ払い、木を何本も打ち倒した。ドラゴンが空間を作ると、地響きをあげながらこちらに向かってくる。ユニコーンやワイバーン達は人間の恐怖が伝わり前足を上げ嘶き、現場はパニック状態になった。私たちが騎乗しているユニコーンは主人に忠実で、鼻息は荒いが落ち着きがある。
「陣形を乱すな! 距離を保ちつつ遠距離魔法を放ち、目を眩ませ視線から逃れた者から離脱せよ!」
リップさんが檄を飛ばし、皆が平常心を取り戻した。どうやらリップさんは経験の豊富な立派な軍人のようだ。勇敢に立ち向かうよりも、相手を見て離脱を試みるようだ。
「空に逃げず、木の隙間をかいくぐるんだ!」
魔法での攻撃が飛び交う。激しく動く馬上で落ちないよう、私は邪魔にならない力で彼の腰に片手を回し、盾で飛んでくる火の粉を払った。魔法での攻撃を受けてもドラゴンは傷一つつかず、少しも怯まない。
だがさっき感じた不思議な気持ちは、このドラゴンからずっと伝わってくる。怒り、不安、それを上回る慈愛に満ちた優しい心配。感情は激しさを増し、ドラゴンも凶暴性がひどくなって来た。
「このままじゃ森が……」
ドラゴンと魔法の被弾でどんどん周りが破壊される。バキバキと木が折れるたび、葉や花が火の粉を散らすたび、それと共に悲痛な悲鳴が心に聞こえてくる。得体のしれない声の正体に耳を塞ぐが、途絶えることなく流れ込んでくる。
一人の騎士がドラゴンの爪を避けようとバランスを崩し、魔法の攻撃の照準がこちらに向いてしまった。 いくつかの氷柱が飛んできて、とっさにリップさんは剣でなぎ払ったが、盾で塞いで砕けた欠片が彼のこめかみにヒットしてしまった。意識を手放したのかグラリと倒れかかってきた。
「リップさん! 大丈夫ですか!?」
落とさないよう上体をユニコーンの首にもたれさせたが、主人が手綱を離した為一気に不安になり、指示していないのにあてもなく走り出してしまった。
また、あの感覚……今度はユニコーンから流れ出してきた。
〈混乱、不安、迷い〉
主人を気遣いながらも目的がわからず戸惑っている。これはこの子の気持ちなんだと確信した。リップさんの背中からユニコーンの首に手を回し、なるべく落ち着きのあるような声で話しかけてみた。
「ごめんなさい、あなたの主人を傷つけてしまって。これ以上、なにも誰も傷つけたくないの。少しだけ私に協力してくれる?」
ユニコーンに伝わったのか、速度を駆け足ほどに緩めてくれた。ユニコーンに合図を出し、方向転換して元来た道に戻ってもらった。
ドラゴンは落馬した騎士に襲いかかろうとしている。あの子を止めなければ。まだ感じる、ドラゴンからの強い感情。
「やめてっ!」
叫ぶとドラゴンはこちらに視線を移した。その目はどこか優しく、気遣ってくれてるようにも見える。ドラゴンが首を低く下げ、大丈夫?と聞いてくれた気がした。
私が何か答えようとした刹那、ドラゴンの首が血飛沫を上げ地面に落ちた。目にも止まらぬ早さで抜刀したリップさんが返り血を浴び、自ら切り落としたドラゴンの落ちた首を見下ろしていた。
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