第2話 ファイト! 初めてのバトル。
和やかな青空。教室の窓で切り取った空は昨日と変わらず、青く、澄んでいた。
しかし、空を眺める言葉共華の表情は、どこか曇っていた。
クラスメイト達が話す昨日の話が、嫌でも耳に飛び込んでくる。
魔法少女ファボリテ。
赤いマントをまとった魔法少女のこと。
そして、ネットで話題の彼女を助けた、青い魔法少女のこと。
「なーに、暗い顔してるのさー」
話しかけられた声にも、どことなく上の空で聞き流す。
「そんなに、小テストの点数悪かったの?」
無理やり共華の視界に入り込んできたのは、いかにもスポーツ少女な友人、字(あざな)。小麦色に焼けた肌に、ショートヘアがよく似合う。
これで勉強もできるんだから、神は二物を与え過ぎだ。
「天才ちゃんよりは低いけど、まあまあの点数でしたよ」
事前勉強はきっちりやったつもりでも、きっと字には勝てないのだろう。共華の口調はいつもよりもぶっきらぼうになってしまう。
「ふーん。じゃ、どうしたのさ」それでも、友人の字はどこと吹く風だ。「昨日もライン既読スルーだしさ」
そこで、共華は思い出した。
昨日のライン。字からの通知。
-ファボリテの後ろにいるのって、ともかっち??-
「で、ファボリテと一緒に映ってたのは、ともかっちでしょ?」
「えーっと」
目の前に迫る字の緑色の目がキラキラしている。ファボリテのこととなると、彼女は強引だ。
それに、彼女には嘘を言っても無駄だ。昔から、無駄に野生の勘が鋭いのだ。
「はい……。私です」
「やっぱりねー」字は嬉しそうに笑顔を浮かべ、直ぐに真顔に戻った。「そういえばさぁ、あの青い魔法少女、ともかっちみたいじゃない?」
「……まさか」
-トモカ、思いきってこの子に言ってあげればいいのです!―共華の肩にちょこんと青い鳥がとまる。―「私がその魔法少女リツイットだって」-
「言えるわけないじゃん……」
何を隠そう、言葉共華、彼女こそが新しく現れた魔法少女なのだ。
青い帽子に青い杖(じどりぼう)。氷を操る魔法少女は、瞬く間にネットで話題の人となった。一躍人気者の仲間入りを果たしたが、当の少女の表情はあまりさえない。
窓ガラスへ視線を逃がすと、浮かない少女の顔が見返してくる。そして、表情があまり変わらない青い鳥が羽ばたいている。
なぜか、青い鳥は他の人には見えないらしい。
「だって、魔法少女が自分だとか……誰が信じてくれるのさ」
彼女はまだ、そのことをクラスメイトはおろか、友人にすら告げられずにいた。
ふと、窓の外から視線を字に戻す。特徴な大きな目が、不思議そうに共華を見下ろしていた。
「ともかっち、なに独り言、言ってるの?」
「えーっと」
-トモカ、こんな失礼な奴にはハッキリさせないとダメです!-
字の頭上を青い鳥がくるくる回る。無害そうなこの鳥こそ、彼女を魔法少女にした張本人なのだから、あなどれない。
-ちょうど良いです。敵が現れましたよ。変身です、トモカ-
「疲れてるなら、相談のるよ。このあと、カフェとかいく?」
―トモカ、行きますよ―
「あぁ、聞いて欲しいかも」
この青い鳥を振り切ろうとした。字の誘いに乗ろうとした時、青い鳥はソッと囁いた。
-私の一声で、あなたをこの場で変身させることも可能なんですよ-
耳元の囁きに、共華は小さな悲鳴をこらえることができなかった。
字の顔が、ますます心配そうに歪む。
「どうしたの? やっぱり、今日のともかっち変だよ」
彼女の手が、共華の腕に触れようとする。
「ごめん、ちょっと用事思い出した。カフェはまた今度にして!!」
作り笑いを浮かべて、その手を振り払う。急いで席を立ち、下校し始めたクラスメイト達に混じって、教室を出た。
共華は振り返らない。足早に、階段を駆け降りていった。
途中赤髪のクラスの人とぶつかりそうになる。
「ご、ごめんなさい!」
何か言いたげな表情を浮かべた彼の横を通り過ぎ、一階の下駄箱に駆け込んで学校を出た。
しばらく走って人が少ない場所に辿り着いて、共華はようやく足を止めた。運動は得意でないから、もちろん息は上がり、服がジトっと汗ばんでいる。
-トモカ、なぜ披露しないのですか?-
「パニックになるでしょ、突然魔法少女になったら。私は、普通の高校生なんだから」
-そうですか? 魔法少女はみんなの憧れ、アイドルじゃないですか!-
「いや、だめだから……」
―トモカ、コトダマは倒さないと、被害が拡大しますよ―
「コトダマって、なんなのさ。ずっと気になってたけど」
-あの黒い化け物ですよ-
「あれ、コトダマって言うんだ……」
-場所はここから東側の電波塔。早く倒しに行きましょう!-
「もう、わかったから……」
-では、みんな大好きの、変身のお時間です-
青い鳥の掛け声と共に、共華の足元に光の輪が生まれる。軽やかなパリンという音で、腕に足に氷が生まれ、砕ける。青のドレスに銀のアクセ。純白の羽がくっついた帽子。
「魔法少女リツイット! あなたのハートを、リツイットしちゃうんだから☆」
誰もいない空を見上げ、トモカは決めセリフ。
「なんで、こんなセリフ毎回言わなきゃいけないの?」
-それが、魔法少女の宿命ですからね-
青い鳥はいつも通りだった。
「すみません! 通ります!」
そして、トモカは走る。人混みを物理的に抜けながら、化け物-正式名称コトダマ-が現れた場所を目指す。
-リツイット! コトダマが見えてきましたよ!-
青い鳥が大きな声で叫ぶと、確かにビルの間から電波塔が覗き、そこに化け物がまとわりついていた。
前回のと違い、無数の腕が黒い体から生えている。その無数の腕を使って、器用に電波塔にしがみ付いているのだ。
テラテラとうなぎのように鈍く光る長い体。白くてうつろな目と思しき円が二つ、彼女の方を向いて、また元の位置に戻る。
「でか、くない?」
そもそも、この距離で、ばっちり目で見えてしまうのって、かなり大きい。
-では、コトダマを倒すための魔力をためなくてはですね-
「そこから?!」
-スマホ、見てみてください-
やっとの思いで人混みを抜けて、縁石の上に立つ。そして、トモカは、言われるままにスマホを取り出した。ロックを解除すると、SNSの画面が飛び込んできた。そして、無数の通知。
「なにこのアカウント……」
-それが、リツイットの魔法少女アカウントですよ。リツイットの活躍を見た人がくれるコメントや応援メッセージが、魔法少女の力となるのです-
SNSのロゴマークのような青い鳥は、バタバタとトモカの頭の周りを飛び回る。
-昨日の戦いで、魔力を使いきりましたからね。ストックはゼロ。特に何もツイットしてないですから、必殺技打てるほどのコメントがなかったんですね-
「そんな」
ピローン。通知音。
-あ、ツイットが来たようです-
画面には、誰かのツイット。
―青い魔法少女、街中歩いてっぞw―
誰のこととは言わないが、確実に自分のことだとトモカはわかった。
いつしか、スマホを握る手に力がこもっていた。顔なんて、上げられない。
画面上のツイットに何か言い返してやろうと思うが、それよりも先に周りがざわつき始めた。
誰かが、ファボリテだ、と叫ぶのが聞こえた。
「魔法少女、ファボリテ」
空に視線を上げると、どこまでも澄み渡るキレイな青空。そして、そこを飛んでいく赤い魔法少女。
トモカは、赤い魔法少女の名前を小さく吐き出した。
真紅の服に身を包む魔法少女。ネットで話題。正体不明。
もう一度スマホの画面に目を落とすと、リツイットよりも、ファボリテに関するツイットが増えていた。その中でも、ファボリテ本人の投稿が群を抜いて注目を集めている。
唇と軽く噛み、トモカも思わずスマホに指を走らせる。
同じように、ツイットをしてみる。
もちろん、反応は芳しくなく、ポツリポツリとツイットが来るばかり。
なんで私の時は無反応なんだ! という文句を飲み込み、トモカはポケットにスマホをしまった。
「やってやればいいんでしょ」
スマホを掲げる人々をかき分ける。
誰もトモカのことなんて見ちゃいない。
ようやく電波塔に辿り着くと、今まで以上にすごい人でごった返していた。そして、懸命に人を中に入れまいとする警備員。
その横を、隠れるように通り抜ける。意外と、あっけないものだ。
-いよいよコトダマとの対決ですね。準備はいいですか、リツイット-
「うん」
忍び込んだ電波塔のエントランスには誰もいない。エレベーターのボタンを押すと、1の数字が点灯する。
箱の中に乗り込んで、展望階へ。
エレベーターが上昇する間に、上がった息を整える。
チーン。
軽いベルの音と共に、ドアが開く。
「なに、これ」
トモカは思わず息を飲んだ。
床を這う黒い木の根のような黒い管。それらがぐったりと床に倒れる人々に、絡みついている。
人がたくさんいるはずなのに、完全な静寂に包まれた空間。
それをなんと表現していいのか、トモカには言葉が思いつかなかった。
-コトダマは、人間の言葉を糧に生きていきます。だから、このように大量の人間を捕まえてしまうのです。-
「この人たちは、どうなるの?」
-それは……-
「コトダマの餌となる「悪意ある言葉」を吐き続ける、ただの機械と化すのよ」
凛とした声が、窓の向こうから聞こえた。
見なくても、誰の声かわかる。
「ファボリテ」
「随分遅かったじゃない、リツイット」軽い身のこなしで、ファボリテが展望台の中に降り立った。その瞳はキッとトモカを見つめている。「あんた、魔法少女に向いてないんじゃない?」
「あなたみたいな、ちゃらちゃらした魔法少女に言われたくない!」
「ふん。決意だけは立派じゃない」
ファボリテの剣が煌めく。
炎の波は、トモカに向かう。その間、トモカは反撃はおろか、何もできずにただ思わず目をつぶることしかできなかった。
次に目をあけると、トモカの足元にはさっきまでなかった黒い管が転がっていた。振り返った壁には、同じように黒い管がべったりと絡みついていた。
トモカに向かって伸びる管の先端は焼け焦げていた。
「けど、ぼーっとしてる場合はじゃないでしょ。この前の雑魚と一緒だと考えてたら、あなたが食われるわよ」
そして、ファボリテの姿は消えていた。少女がいた場所には、黒い管がドスンと音を立てて叩きつけられた。
-リツイット、これくらいのことでめげてはいけませんよ-
「わかってるって」
しかし、ファボリテとの間の圧倒的な力の差を感じざるを得なかった。
後ろからコトダマの一部が迫っていたなんて、全然わからなかったのだ。
-リツイット-話しかけてくる青い鳥の声が、妙に明るく感じた。-そろそろ、リツイットに関するコメントが溜まってきた頃じゃないでしょうか-
「え……?」
-大技はまだですが、一通りの魔法は使えるようになったはずです-
「もっと早くに言ってよ」
-いやぁ、新旧の魔法少女が会いまみえる。そんな瞬間を邪魔できませんでしたからね-
「もう……」
トモカは改めて杖を構えた。
-魔法のコツはただ一つ。魔法で何を作るのか、しっかりとイメージして魔法を放つことです-
「わかった」
焼き切られた背後の管を背に、前に集中する。黒い管が、一斉にトモカに向かってくる。
「はっ!!」
氷の柱が、管をピン止めしていく。
-上出来です、リツイット!-
青い鳥に褒められたそばから、視界の端から新しい管が現れる。
幾度も現れる管を、トモカはすべて、氷の柱でピン止めしていく。
「ねぇ、これいつまでやればいいの?!」
-ちまちま倒していては、また魔法切れですね。どんなに大きくなっても、コトダマは頭を叩けば倒すことができます-
「外にあるんじゃないの?!」
ーそれなら、外から来たファボリテが倒しているはずです。きっと、この中に頭を隠しているのでしょう。どこにあるのかは、わかりませんがね-
トモカは周りを見渡す。エレベーターホールのすぐ横のフロアマップを見た。
「じゃ、こっち!」
-その心は?!-
「ファボリテと逆方向だからに決まってるじゃん!」
トモカは走る。襲い来る黒い管は全て氷の盾ではじいていく。動かないエスカレーターに飛び乗り、一つ下のフロアへ駆け下りる。
コトダマに窓をふさがれ、薄暗い室内。
「こっちだ!」
ただの勘で突き進む。周りにはファボリテの姿が見当たらない。黒い管もまだあるから、きっとファボリテも頭を見つけられていないんだろう。
薄暗いからこそ、黒い管に捕まった人々が手にしていたスマホの明かりが目につく。それが、足元を照らすから何とか前に進める。
何人かは、息絶え絶えになりながらもスマホをいじっている。
「そこまでして、なんでスマホいじりたいんだか」
トモカには、理解できなかった。
けれども、いち早く頭を見つけて、みんなを助けなきゃ。そう思って、辺りを見渡した。
「あ」
少し広いスペース。無数のスマホのライトが照らす中、白い円が二つ、こちらを見ていた。円が収まった黒い頭が、ゆっくりと持ち上げられる。
「あれだ!」
コトダマの頭は、その場から動こうとはしない。
「はい! ツイット投下! ファボリテより先に見つけたんですからね!!」
「えーっと」
トモカはスマホを操作する。なぜか、指先が震える。
「写真をつけるのも、お忘れずに」
ようやく、見つけた報告を投稿してみる。投稿してから、写真を撮り忘れたのを思い出した。
しかし、そのツイットを中心にたくさんのツイットが寄せられる。スマホの振動が、トモカの心臓の音を速く震わす。
―リツイット!―
「わかった!」
トモカは杖を掲げる。
幾本もの氷の槍は、コトダマの頭に一直線に向かう。しかし、それよりも早く無数の黒い管が粉々に氷を打ち砕いでいく。
細かな破片となって散っていくのを、トモカは茫然と見ていた。
「き、効かないじゃん」
「必殺技です。先ほどのツイットで、たくさんの反応が来ています。今ならいけますよ、リツイット」
トモカは、もう一度杖を掲げる。杖に青い光が集まる。
「トティウス……グラキエス!!」
氷の破片が宙を舞い、コトダマを取り囲む。それぞれが鋭い氷の塊に一瞬で成長すると、黒い管等ものともせず、貫いていく。氷が突き刺さった場所から、表面が凍り付いていく。
コトダマは激しく首を振るも、その動きが鈍くなっていく。
「えい!」
杖を振るえば、パリンと音を立てて氷ごと細かな破片になっていく。
コトダマの頭が、音を立てて床に落ちた。
「やった……やったよ!」
-おめでとうこざいます、リツイット」青い鳥の表情は変わっていないが、嬉しそうに羽をバタバタさせた。
「また一つ、コトダマを倒したのです。これは、もう期待の新星―――リツイット、後ろ!!-
その声にトモカが反応するよりも早く、背後のガラスにひびが入り、砕け落ちる。両腕で顔を覆う。その隙間から空の青さと眩しさに目を細めた。
そして、空の青さに不釣り合いな、黒くて白い目をしたコトダマの頭が覗いた。
地面を這いながら、無数の管がトモカの足に絡みつく。踏ん張るより先に引っ張られ、瞬く間にトモカを吊るし上げる。
みるみる内に、青空は眼下に広がる。
「ちょ、ちょっと! 離して!」
トモカの声もむなしく、展望台はみるみる遠くへ。冷たくて強い風がトモカを撫でる。
頭上には、小さい街並み。目の前には、大きな化け物の顔。
白い円が二つ、トモカの方に移動した。
「な、なによ! 離しなさい!!」
このコトダマ、頭がいくつもあったというのか。
白い円形の下に、横に筋が入る。そこはどうやら口のようで、みるみる大きく広がっていく。
「え、嘘」
花びらが開くように口は大きく広がり、真っ暗な空間が広がる。その先は闇。何も見えず、何が広がっているのかさえも想像がつかない。
「ちょ、ちょっと……食べないでよ」
空の風とは違う、生温かい風がトモカの頬を撫でる。黒い空間はみるみる近づいていく。
「やだ」
トモカの声は、誰もいない青空に吸い込まれていく。
「やめてよ……」
コトダマの白い目が細くなったように見えたのは、笑っているからなのだろうか。
トモカは、肺の残った最後の空気を吐き出すように、声をあげた。
「いや!!」
ドガーン!
爆風。轟音。ガラスのきらめき。
炎が、展望台の窓ガラスを突き破りながら噴き出した。
目の端で、展望台から赤い何かが飛んでくるのが見えた。
「アモレムフランマ!!」
そして、太陽を背に、赤い魔法少女が燃える剣を振り下ろした。
炎がコトダマの首を断ち切る。黒い体を紅蓮に染め上げ、コトダマから伸びる無数の黒い管は端から消し炭のようにバラバラと消えていった。
ものの数秒の出来事。それが、トモカには数十分のもの出来事のように、スローモーションに映る。
「助かった……の?」
トモカを縛る黒い管もほどけてバラバラになっていった。
それと同時に支えも失い、トモカは宙に放り出されてしまったのだ。
「あ」
重力が彼女を地上へと引っ張る。
手を伸ばすも、全く届かない。
「落ちちゃう」
肩が痛くなるくらい、右手を伸ばしてみても、空気を掴むばかり。
「……えい!」
トモカの下に眩い光が走る。それは赤い光の網。
軽やかなバウンドと共に、トモカの落下は止まった。
「全く。イチイチ世話の焼ける魔法少女ね」
ファボリテだ。
彼女も赤い光の網に乗り、トモカの頭上で浮いていた。
「あなた。魔法もろくに使えないのに、魔法少女してるの?」
ぐうの音も出なかった。
「コトダマとの戦いは、あなたが思っているほど、簡単じゃない。痛感したでしょう?」
「……」
二人を乗せたまま、光の網は移動する。そして、砂糖が溶けるようにふわりと消えると、トモカは展望台に座り込んでいた。
「そんな軽い気持ちでやっているなら、辞めてしまいなさい」
トモカは、何も言い返せなかった。
力なく座り込んだトモカを、ファボリテはおいて、壊れた窓際へ歩き去る。
「……やめるもんか」
トモカはやっとの思いで吐き出した。それは本当に小さな声だった。しかし、その小さな叫びに、ファボリテは歩みを止めた。
「は?」
くるりと振り返って見下ろした視線は冷たい。
トモカはキッとその赤い瞳を睨みつけた。ファボリテの背後から差し込む光が、眩しい。
「魔法少女になったんだから」それでも、トモカは目をそらさずに続けた。「あなたみたいなSNS映えを気にする、チャラチャラした魔法少女なんてあっという間に追い越してやるんだから!!」
まくしたてた言葉に、ファボリテは一瞬目を見開き、そして、目を伏せた。
「そう……やってみなさいよ」少女の声は消え入りそうだった。「やれるものならね」
ファボリテは、そう吐き捨てて、展望台から飛び降りた。
トモカが慌てて下を見やると、眼下の家々の間を飛ぶように走る赤いマントの魔法少女がいた。
「ファボリテ……今に見てなさい」
-やる気満々ですね、リツイット-
「もちろん。この力は、困っている人のために使わなきゃ」
その声が強がりだって、トモカ本人が一番わかっていた。でも、そうでもしないと前にも進めず、この場で泣き出してしまいそうだった。
「そういえば、リツイット」
絶妙なタイミングで、青い鳥が声をかけてきた。
「ん、どうしたの?」
「私のことは気軽に、『ジドリン』とお呼び下さい。今回私のこと、一回も呼んでないですよね。つれないじゃないですか~」
思わず、口元のこわばりが緩んでしまった。
正直、今それを言うかって気がした。
「行くよ、ジドリン」
少し、胸のつっかえが楽になった気がした。
改めて、トモカは眼下の街を見下ろす。
赤い魔法少女の姿はもうどこにもない。
「見てなさい、ファボリテ」
空で落ちそうなトモカを助けてくれたファボリテ。その姿がいつかの姿を重なり、胸がキュッとした。
そうだ。トモカはそういう人を助ける魔法少女になりたいのだ。
「すぐに、追い越してやるんだから」
トモカは両手をついて立ち上がる。
そして、眼下の街を振り返らずに、トモカは展望台を後にした。
その姿を、ジドリンはじっと見つめていた。
「大丈夫ですよ。トモカならすぐに……すぐにSNSの楽しさがわかってきますから」
青い鳥は音もなく、トモカの後を追いかけていった。
とりマ マ法少女って、マ? シデーノ @SideeeNo
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