第15話

優さんが俺の家に食事をしに行ってから数日が経ったある日、俺は優さんにデートの誘いを受けた。この日部活がなかった俺は学校が終わると、すぐに家に戻り、制服から私服に着替え、待ち合わせ場所である渋谷駅まで向かった。ちなみに優さんは仕事を終えてからすぐ直行するらしい。




「俊彦くん、遅い。普通、こう言うのは彼氏の方が先に来るものでしょ?」


「いや別に俺と優さんは恋人になったわけじゃ・・・」




渋谷駅に着いた時にはもう、優さんが待ち構えていた。綺麗に整えられた長い黒髪からはかすかに香水の匂いがする。それに・・・めっちゃ美人だ。この日の優さんの私服は春らしく、ピンクのカーディガンに白いワンピース。かなり気合が入っていると言うことは俺にもわかった。




「しかし、なんで急にデートなんか誘うんですか」


「べっつにー。私の勝手でしょ」


「そうですか・・・」


「あ、そういえば俊彦くん、これからどうしようか・・・」


「そうですね・・・今何時ですか?」


「もうすぐ6時半」


「そうですか・・・そろそろご飯の時間ですね。お腹空きましたし」


「そうだね。私もお腹空いたし・・・あ、そうだ」


「どうしたんですか?」


「渋谷によく行くレストランがあるの。今から行っても大丈夫だと思うよ」


「あ、楽しみです!」




というわけで、俺たち2人はレストランに入ることにした。レストランは都内でもかなり有名な高級ステーキレストランであり、芸能界や政財界の大物が常連客として通っているとか。入った先は個室だった。ニューヨークやパリで修行したというシェフが目の前でお肉を切り、料理をしてくれる。




「・・・つーか優さん、そんなお金どこから出てきたんですか?」


「これでも私、トップ声優なんだから、それくらいのお金は出せるわよ」




即答だった。俺は念のため優さんに「先月どれくらい稼いだんですか?」と聞いたが・・・それが相当な額だったのは言うまでもない。しかもここ1年くらいずっとそんな感じだと優さんは言っていた。


食事はただ、純粋に美味しかった。国産の最高級ステーキ。俺も優さんも元々、肉類が好きだということもあって満足して食することができた。




◇ ◇ ◇




食事が終わった頃にはもう、夜の8時を回っていた。俺と優さんはもう少しデートを続けようかと思っていたが、俺は明日も学校だし、優さんも明日は朝から仕事があると言っていたため、どこにも寄らずそのまま帰ることにした。


そして最寄り駅に到着し、お互いそれぞれの方向に帰宅するため別れようとした時・・・




「俊彦くん、待って。私、あなたに大切な話があるの」




俺は優さんに呼び止められた。




「何ですか優さん、急に改まって・・・」


「・・・私は石見俊彦いわみとしひこくんが大好きです。世界で一番大好きです」




え、それって・・・




「ですから、よろしければお付き合いして頂けたらな・・・って思います」




つまりこれは・・・えーっと、とりあえず話を整理してみる。




・・・つまり、俺は優さんに告白された。要は優さんが1人の男性として俺のことが好きだっていうことだ。優さんの言葉は真剣だった。


そして、優さんの顔は初めて見るくらい紅潮していた。そして、俺の顔も紅潮し始め、心拍数が凄いことになり始めた。




伊藤優いとうゆうさん。めっちゃ美人で、めっちゃ演技が上手くて、めっちゃ人気のある俺の大好きな声優さんだ。そんな雲の上のような存在である人から真顔で告白されたら・・・もう断る理由なんてない。




「俺と優さんは、結構年離れてますし・・・いや。でも、恋愛に年の差は関係ないですよね。ありがとうございます。こんな俺を好きになってくれて」




俺は優さんにこう言った。それを聞いた優さんは感動のあまり泣いている。




「じゃあ、恋人なんだから敬語やめて。優って呼んで・・・」


「そうだな・・・優、せっかく付き合い始めたんだし、キス・・・くらいはしようか」


「うん・・・そうだね。トシ、これからずっと一緒だよ♡」




と言い、優と深いキスを会わした。ファーストキスだ。そして再び、優と互いに顔を合わせ、唇が触れ合う。それは脳が溶けるような、すっごく柔らかい感触だった。・・・キスの味って、そういう味だったんだな。




こうして俺は優と付き合うことになった。そして、俺にとって、そして優にとっても人生最初の恋人ができた瞬間でもあった。

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