第2章

第3話

少し前、お母さんが再婚した。どうやらお母さんの再婚相手には連れ子がいて、その結果、私に血の繋がらない兄ができた。




兄の名は石見俊彦いわみとしひこさん。歳は私より1つ上。背はあんまり高くないし、顔だっていかにもオタクっぽい感じがする。正直、私のタイプではない。でも、私は彼について一つ思い当たることがあった。




なぜなら彼は、私のイベントによく顔を出している人だからだ。




私はアイドル声優という仕事をしているので、ファンの人の顔を覚えるのは得意な方だと思う。それに彼は私の熱心なファンで、何度もイベントに顔を出しているから尚更である。ただ彼と対面した時は、『アイドルとファン』ではなくて、『兄と妹』という立場になるので、初対面のフリをしたんだけどね。




「なんであんな人がお兄ちゃんなんだろう・・・」




私はお母さんの再婚を機に新しく引っ越した自分の部屋でふと、そう思った。




◇ ◇ ◇




父さんの再婚と引っ越しから1週間が過ぎた。楓さんやさーやんとの暮らしにもようやく慣れた気がする。ただ、俺とさーやんにはまだ、少し距離感があるのは気になるけど・・・そんなある日の夕食後、俺とさーやんは父さんからあることを言われた。




「今日、結婚祝いで遊園地のチケットを4人分貰ったんだが、父さんも母さんも当分行けそうにないからあげるわ。お前らで誰か誘ってこい」




父さんはそう言い、机に遊園地のチケット4枚を置いた。




「俺は大丈夫だけど、沙弥香は土日休めるかどうか・・・」




俺は父さんにそう言い、さーやんにいつ休みなのかを訊ねた。さーやんは次の日曜日は予定がなかった。とりあえずこの日に行こう。


そして余ったチケット2人分で誰を誘うか。まずはアリ姉を誘った。するとアリ姉は「その日なら大丈夫」と言ってくれた。そしてあと1人誰を誘うか。結局、俺とは幼稚園以来の付き合いである南郷明日香なんごうあすかを最初に誘うことにした。でもあいつ部活で忙しいからなぁ。そう思いつつ、明日香にLINEを入れる。すると明日香は、「その日なら部活ないよ」という返事があった。




◇ ◇ ◇




そういうことで、俺・さーやん・アリ姉・明日香の4人で遊園地に行くことになった。朝8時・駅前に集合と言ったが、結局集合時間前に4人全員揃ったため少し早く目的地に向かうことになった。




「亜梨紗さん、久しぶりです。で、あなたが沙弥香ちゃんだっけ?よろしくね」




と明日香は喋る。明日香は俺と同い年で、少し背が高くてポニーテールの髪型が特徴である。おまけに通う高校も同じというくされ縁だ。しかし、高校に入ってからの2年間ずっと俺とは別のクラスで、おまけにチアダンス部の活動で忙しくなったため、最近はあまり話していなかった。まぁ一言で言えば、俺と対極の位置にいる幼馴染みだ。昔から男女関係なく誰とでも話していたな。




◇ ◇ ◇




電車に揺られた俺たちは、遊園地に着いた。しかし、雲ひとつない青空だ。おまけに日曜日。遊園地の中は当然・・・




多くの人で溢れていた。ちなみに駅に着いて、チケットを買って入場するまで1時間以上かかった。そしてアトラクションは軒並み1時間2時間待ち。結局、昼までまだ時間があったので、空いているアトラクションを廻ることにした。




「アリ姉、怖いよ!しかも気持ち悪いし・・・」


「所詮は造り物よ。トシは高校生にもなっても、まだ怖がってるの?」


「亜梨紗さん、私もギブです・・・」


「明日香さーん!」




アリ姉によって、半ば強引にお化け屋敷に入った4人はこの有様。唯一、アリ姉だけが平静を保っていた。そして迷路やミラーハウスといったアトラクションに入り、4人で昼食を取ることになった。




「そう言えばトシ、私のチア画像あげる。LINEに載せたから」


「うわ、マジかよ」


「あ、明日香ちゃんズルい。私だって黒タイツ履いた制服画像送るんだから」


「あー、2人ともズルいです。私だって、お兄ちゃんにいっぱい画像送っちゃいますよー」




食事中、俺は3人から画像攻めに遭っていた。嬉しいんだけど、通知が止まらない。




「トシ、さっきは変な思いさせてごめんね・・・」


「いいよ、別に・・・明日香はめっちゃ可愛いし・・・」


「え、それって・・・」




食事が終わると、4人でジェットコースターに乗ることにした。しかし・・・




「サイコー!久しぶりに乗って爽快だった」


「明日香ちゃんそれは私もよ。それはそうで、あちらの兄妹はどうやら気分が良くないようね」


「速すぎ。死ぬかと思った・・・」


「私、ジェットコースター苦手なんです・・・」




アリ姉と明日香がジェットコースターで大興奮していた一方、俺とさーやんは速すぎて目が回る勢いだった。あいつら、俺がジェットコースター苦手なの知ってるだろ。




そして陽もすっかり西に傾き、最後は観覧車に乗る。




「そういえばトシ君と明日香ちゃんって、いつ付き合うの?お互いもう告白しなさいよ」




アリ姉が俺と明日香にこう言ってきた。さーやんも「お兄ちゃんと明日香さんって、両想いなんですか?」と興味深々だ。しかし、




「んなわけあるか!アリ姉の意地悪!悪魔!それに沙弥香も沙弥香だよ!」


「私、部活に忙しくて恋愛する暇なんてないですよ!」




お互い真っ向から否定したのは言うまでもない。そして、




「まあまあ。皆さん、もう観覧車のてっぺんですよ。それに夕日がすごく綺麗です!」




とさーやんが言ってきた。・・・うん、確かに夕日は綺麗だった。




◇ ◇ ◇




遊園地を後にし、駅に戻るとその場でトシと沙弥香ちゃん兄妹、そしてアリ姉と別れ帰路についた。みんな駅からバラバラの方向に家がある。本当ならもう少し一緒にいたかったが、陽もすっかり暮れてしまったし、仕方ない。




「・・・アリ姉の意地悪、悪魔」




私は帰り道、ふとそう思った。正直、私はアリ姉が苦手だ。昔から頭が上がらない。勉強だってずっと教えられてばかりだし、それに「私はトシ君と同じ家に住んでいる」とか「従姉弟だから結婚できる」とか言って何かと自慢してきた。そして、




「私ってなんで、あいつのことがずっと好きなんだろう・・・」




とも思った。あいつとはもちろん、トシこと石見俊彦いわみとしひこである。正直、私はいつからトシのことが好きになったのかはわからない。ただ、小学校の時にはもう、『好き』だと言う恋愛感情はあったと思う。


それに沙弥香ちゃんのことも私にとってかなり気に掛かってきた。あんな可愛い、アイドルやってる子が妹になったんじゃもう私、勝ち目ないじゃん・・・




「アリ姉や沙弥香ちゃんには絶対負けたくない。私は絶対トシを振り向かせてやる」




私はそう決意し、家に戻った。

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