第1章
第1話
それは4月になり、俺が高校2年生になったその日のことであった。
始業式が終わり、これから部活だという明日香と別れ、アリ姉と帰りの電車に乗ったところ、アリ姉から「トシ君、あんた夕方から用事あるんでしょ?」と言われた。そんな用事あったっけ?初めて聞いたぞ。
自宅に戻ると、叔母さんは仕事に出かけており、家にいたのは定年をとっくの昔に過ぎた爺ちゃんと最近まで体調を崩して入院していた婆ちゃんだけだった。俺の自宅は元々祖父母が住んでいた家だったが、母さんが亡くなってすぐ父さんが実家に戻りたいと言って、俺もこの家で生活をするようになった。そしてほぼ同時期に、理由はよく知らないが離婚したという叔母さんとアリ姉もこの家で生活するようになった。そんな感じで僕は15年間、この家で過ごしてきた。
家に帰ってからは、アリ姉と一緒に昼ご飯を食べ、昼食後は新1年生の部活動勧誘会で発表する小説を執筆し(お互い文芸部に所属している)、夕方には叔母さんが仕事から帰宅。そして夜の7時前には父さんも仕事から帰ってきた。そして俺は仕事が終わったばかりの父さんに連れられ、近所のレストランに入った。
レストランには見慣れない女性がいた。どうやら父さんの知り合いらしい。年はかなり若く見えるけど40歳だと父さんが言っていた。しばらくして、自分と同じぐらいの年齢であろう女の子がやってきた。その女の子は4月にしては暑いであろうぶかぶかのコートに、帽子とマスクを被っている。
「トイレ長かったわね、もう来てるわよ」
とその女性が言う。どうやらその女性の娘さんらしい。
「すいません・・・」
とその女の子は言い、席に座ると帽子とマスクを取り外した。そして、僕はあることに驚愕した。見たことのある風貌と聴いたことのある声。その女の子はアイドル声優・
そして父さんはこう言った。
「そういえば俊彦。まだ紹介がまだだったね。父さんはこの人と結婚することになったんだ。新しいお母さんになる
さらに父さんはこう言う。
「確か沙弥香ちゃんはアイドル声優なんだっけ?俊彦くん、沙弥香ちゃんが出てるアニメはよく見てるしラジオも聴いてる。それに沙弥香ちゃんのCDや写真集もみんな買ってるみたいだよ(笑)」
いい加減にしてよ父さん!つーか、さーやんソロデビューもしてないし、写真集も出してないよ!CDはアニメの主題歌やキャラソンだし、写真集はアニメ雑誌のグラビア。しかし、父さんの一声で俺の世界は一変した。歳は俺から見たら1歳下。背は少し低いけど、綺麗な長くて黒い髪と雪のように白い肌。そして非常に可愛いルックスと少し特徴のある声とトップクラスの歌唱力。そう、父さんの再婚相手の娘はさーやんこと田所沙弥香その人だったのだ。
「
さーやんのその声に、俺は唖然としていた。そして俺は、
「あ、君が沙弥香ちゃんか。うん、よろしく・・・」
としか言えなかった。そして、
「俊彦くん、人見知りだから今すごく緊張してるんだよ・・・」
と父さんが言った。そして食事に入る。どうやら楓さんは3年前に離婚したという。3年前といえば、さーやんが子役のかたわら、声優デビューした時か。そして食事を終えると、さーやんは僕にこう言ってきた。
「俊彦さん。私はあなたにとって迷惑になるかもしれません。
そして俺はこう答える。
「迷惑だなんてとんでもないよ!沙弥香ちゃんみたいな妹ができて嬉しいよ。それに兄妹になるんだし敬語はやめないか?なんかこっちが気まずくなるから・・・俺こそ不肖の兄かもしれないけどよろしく」
俺のその言葉にさーやんは「うん。トシお兄ちゃん、よろしくね!」と最高の笑顔で反応していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます