杏と僕と綱吉さんの物語

@natsuki

第1話     杏との出会い。



 狸小路をブラブラ歩いていたら、人垣に出会った。聴衆の雑音に混じって歌声が聴こえた。途切れ途切れだったけれど、その歌声に僕は耳を傾ける。ステキな声色、一癖も二癖もある歌詞、そして独特のメロディ、その女の子の歌にまばらだけれど、確かな拍手が起きた。

「こんな寒い日に最後まで聴いてくれてありがとう」言いながら深々とおじぎをした彼女を見た。綺麗な子だった。寒いのに額にはうっすらと汗、ストレートの髪をかき分けながら彼女はギターケースに給った小銭をポケットにねじ込みギターをしまう。

生ギター一本で路上ライブ、札幌の四月はまだ寒いってのに。

 彼女は求められる全員と握手し、帰ってゆく数人の熱心なオーディエンスに手を振って答えていた。

 人影もなくなったところで歩み寄りくしゃくしゃの千円札を差し出す。

たった一曲聴いただけだけれどステキだと思ったから。

 彼女が初めて僕を見る。

「ありがとう」伏目がちに答える。そして、その千円札をぶっきらぼうにジーンズのポケットにねじ込む。

「オリジナルなの? ステキな歌だね」

僕は彼女が行ってしまう前になにか一言気に入ったってことを言わなきゃなどと思ったのだ。

「気に入ってくれたの? 失恋の歌だけどね」

はにかんだように笑う。

「うん。とても良かった、良かったじゃ足りないくらいステキだった」

「ふふん」と言いながら真正面から僕を見詰める彼女の視線があまりにも眩しかったから僕は一瞬ドギマギ。

「ねぇ、時間ある?」

見詰められてぼーっとしている僕に彼女が畳み掛ける。

「ご飯食べてないんだ。付き合ってよ、時間あるならね」

僕の返答などはなから無視してるみたいに彼女はそっけなく言った。

大きすぎるギターゲースを背負い彼女はスタスタとその場を立ち去る。

 僕はまるで夢遊病者みたいにその跡を追った。





 いまだに夢の中にいるみたいだった。

背中に彼女の温もり。ぴったりと寄せた裸の体温、シーツの感触が心地よかった。

薄暗い中で当たりを見渡す。

 脱ぎ捨てられた下着が迷子の子犬みたいに行き場を失っていた。


誘われるままに彼女と焼き鳥屋に入り、彼女は焼酎の水割りを何杯か、僕はビールを数杯。旺盛な食欲に、その食べっぷりに僕は益々彼女のことが気に入り、だってそうだろ、こんなに美味しく食べる女の子ほどこの世の中にエロチックでステキな存在がいるだろうか、


 僕は次々に、焼き鳥やつくねや鮭のおにぎりを頬張る彼女の口元を見詰め続けた。

そしてタクシーに一緒に乗り込んだところまではおぼろげに記憶にあった。


で、暗転したみたいに彼女とベッドの中。

どうやら僕の家ではないらしい。だからここは彼女の部屋、そして彼女のベッドの筈だ。

「起きてるの?」

「うん。ちょっとね、今、なぜこういう状況なのか戸惑ってる」

仰向けになり天井を見詰める。彼女の喘ぎ声が耳にこびりついていた。

すでにやっちゃったんだ。下半身の気だるい感触がまだ名残を留めていた。

「まだ、できるでしょ?」

「まだって? 何が?」

「バカッ!あれに決まってる」

言うと彼女はシーツを捲り上げ僕の分身を握り締める。

口に含むとすぐに勃起した僕の分身に彼女は満足そうな笑みを浮かべた。

「いいでしょ?」

「うん。僕に二言はないですよ」

「そういう言い方、けっこう好き」

器用にゴムを被せ、自らの秘所にあてがった。

「久々なのよ。セックスってこんなに気持ち良かったんだってね、少し驚いてるのよ……はうっ!」

 彼女の整った形のいい乳房が揺れた。仰け反った先に薄い陰毛が僕の分身と重なっていた。

 僕はすでに暴発しそうな勢い。それを感じたのか彼女は動きを止める。

「いっちゃ駄目よ!まだ駄目、我慢して、お願いだから」

「うん。ゆっくり動いて。そうすれば多分我慢できる。ふうう」

「いい子ね。バックからお願い。 思いっきり突いて」

桃みたいなハート型のお尻そして反り返る背中、見事にくびれた腰骨に手を宛がい、ゆっくりと挿入。

「はぁ……」たまらず彼女の途切れ途切れのうめき声。

 その声に逝きそうになるのを必死で我慢する。

「名前言ってなかったね、あんずよ。楠木杏くすのきあんずはああ……」

高梨薫たかなしかおるです。よ、よ、よろしく」

「キスして思いっきり。そうキスだけで逝けるくらいのキスして」

 舌と舌が絡み合い、唾液が口元からお構いなく零れ落ちたけれど、僕らは暫く夢中でお互いの唇を奪い合った。

「逝きそう……」

「駄目!まだ駄目よ。ゴムの買い置きないんだから、もう少しだけ我慢して」

「は、はい。頑張る」

「そ、そういう言い方とってもスキ」



 カーテンの隙間から頼りない四月の日差しが舞い降りていた。

下腹部に違和感を覚え、ゆっくりと覚醒する。

ふり向くと笑顔の杏さんが動くなと合図する。

「薫君のここ、また硬くなっちゃたね」

「杏さんがいたずらするからですよ。そんな触り方するから」

「したいんだけどいい?」

「ゴムないって」

「いいの、逝きそうになったら抜いて」

言いながら上になった杏さんが僕の勃起した分身を宛がう。

 杏さんはもう充分濡れていて僕の分身はあっと言う間に埋没した。

なんだか杏さんとならこうやって無限にできそうな気がした。

 苦悶の表情を浮かべる杏さんに愛おしさが増してゆく。


唐突に玄関のベルが鳴った。

「はっ?」動きが止まる。挿入したまま杏さんは聞き耳を立てる。

「しーっつ、静かにして。動かないで」

二度、三度ベルはけたたましい音を立てた。

「楠木? いないの? 綱吉つなよしだけど……なんだいないのか」


 靴音が遠ざかってゆく。

「どなたですか?」

そんな僕の言葉を杏さんが唇で塞ぐ。唾液まみれの舌がお互いを激しく求め合う。

「気になる? ならない?」

耳元で囁きながら杏さんが激しく腰をゆする。

「薫君のここ元気だね。硬くなったままだもん」

その言葉が合図みたいに僕は果てた。


 お昼、互いに裸のまま杏さん買い置きのカップラーメンを啜った。

 杏さんは食べながら僕の分身を値踏みするみたいに眺めてる。僕は幾分照れて杏さんに背を向けた。

「薫君、しよ」

そそくさと僕の手を引き、ベッドに向かう。

「どうしちゃったんだろわたし。したくてしたくて堪らない。薫君もしかしてすごいセックス上手?」

「全然ですよ。我が生涯に寝たのは二人です。でも、杏さんとはジグソーのピースみたいにピッタリだってのは何故だか分かります。いわゆる肌が合うってやつですね」

「そういう言い方とっても好きだわ」

 熱心に杏さんは僕の分身を弄んでる。

「後ろからね、入れて」「はい」

杏さんは自分からうつ伏せになる。ステキなお尻と肉感的な太もも、すらっと伸びた脚が顕になる。僕は確かめるようにゆっくりと杏さんの中に入ってゆく。

 「はうう」杏さんがため息に似たうめき声を漏らす。

「さっきの路上の失恋ソング聴きたい?」

 突然、杏さんは思いっきり腕を伸ばしてベッドサイドのノートパソコンを開き、ユーチューブを再生。

 薄暗い部屋にディスプレイの蒼が充満する。

僕はバックで挿入しながらその画面に釘付けになる。

 

 紛れもなくそこには僕に抱かれ喘ぎ声を上げてる杏さんが歌っていた。

アコースティックをかき鳴らし、路上とは比べものにならないくらいの圧倒的な声色であの曲を歌っていた。


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杏、シンガソングライター 8月メジャーレーベルよりデビューを予定。

デビュー曲 「さよなら、明日は忘れたげる」

 13,483,421回視聴      登録済み 163万


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なんだよ! この回数? チャンネル登録者の数が……?


「杏さん、これって?」


あの日、杏さんは僕の疑問なんか気にもせず数えられないくらい何度も何度も交わった。

 僕の一滴が枯渇するまで何度も何度も……あの曲が流れる中で……。







第二話       杏と綱吉さんの関係に僕は嫉妬する。





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