桐生の血は
最近俺を見つけると次兄がニヤニヤしながらちょっかいかけてくるようになった。
確かこの人長兄の補佐に自分の学業にと忙しいはずなのだが。実は暇なんだろうか。
「ところで弟クン。どっちが下?」
「いきなりなんですか」
「やっぱり突っ込まれる方がキツいから。兄としてはさ、自分の弟心配なんだよ」
絶対に嘘だ。
仮に心配していたとしてもだ。少しだけで大半はただの野次馬根性だろう。
何も情報を与えまいと俺は口を貝にする。
心配するというのは長兄のように「感染病に気をつけろ」と忠告をしてくれるとかそういうことだ。
まあ、ノックもせずに唐突に来て満足して去っていくのはどうかと思うけれども。
ちょっと、いやだいぶ?想像していたまともな兄像が壊れたけれども。
「入れられる方はリスクもあるし痛いし。いくら胡散臭くても経験者の言うことはちゃんと聞いておいた方がいいと思うよ?」
「経験者?」
「それにあの彼なら知ったらやっぱりやめようなんて話にもなりそうだし」
「“あの彼なら”?」
「なにより誠兄が心配してるから頑張れ弟クン」
励ますように肩を叩いてくるが、穴の問題よりも他に気になる発言が1つ2つあった気がする。
いやまさか。まさかのまさか?
とりあえず、次兄の過去は置いといて、だ。
「もしかして、パーチェのこと、調べました?」
「実は誠兄がうちの弟は脅されたり騙されていないかって心配してたんだよね。彼、なかなか面白い子だね。ちょっとからかったら睨まれちゃった」
秘密保持と信用と実力の観点で適任なのは理解できるが、なぜ。どうして。
誠一郎兄様には恨みはないけど、次からはバレないようにしよう。絶対に。
「あんなことするぐらい好きなら騙されても騙せないよね。誠兄も安心してたよ」
目が聞きたい?聞きたいよね?と言っているが無視をする。
隙を見せた途端甚大な被害がもたらされるのは分かり切っているからだ。
それを察したのか次兄はすぐにつまらなさそうな顔になった。
「失敗したな。からかいすぎて反応が薄くなってきた。次からは手法を変えないと」
「
僕がため息をつきながら言うと次兄は目を丸くして何かを呟いた後、笑った。
「大人になっちゃって。お兄ちゃん寂しいなぁ」
「そういうところ僕達本当に父親に似ていて血の恐ろしさを感じてます」
「まあな。ま、考えとくよ弟クン」
そう言うと次兄は頭を撫でてぐしゃぐしゃにして去っていった。
今まで関わろうとしてなかったから今更普通の兄弟にはなれないけど、普通じゃない兄弟にはなれたら。
そう、修二郎兄様も思ってくれたらいい。
ほんのちょっとだけ今の関係が好きな自分がいるから。
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