弟の運命

また、ため息をつかせてしまった。

また失望させてしまった。

俺が出来が悪いが故に。


父には1位が誰だとかそういうのは関係ない。桐生家の息子が1位ではない。それだけが問題なのだ。



「やあ、弟クン。またあの人にやられたみたいだね」



唐突にかけられた声に驚き、振り返ると次兄が壁にもたれかかってこちらを見ていた。

ピアスとラフな格好ということは今はプライベートの時間。


「兄を無視するなんて弟のくせに生意気だと思うんだけど?」


そう茶化されても今更というものでは無いだろうか。10年前から同じ家に住みながら空気のように過ごしてきたのだから。

というかプライベートで話しかけてくるなんて皆無に等しい。


「まあいいや。雑談しに来たわけじゃないからね。これ、返すよ」



ああやっぱりなにか業務連絡があるんだな。と納得して受け取ったものを確認するとそれは自分のクロッキーノート。



「それ、中の絵見ちゃった」



なかの、えを、みた?

え??

中の絵を見られた?

は???



「ほら、ちゃんと誰のか確かめなきゃだし。好奇心で見たんじゃないよ」



この家でクロッキーノートを持っている人は俺以外にいるわけがない。

確信犯だ。間違いなくこの人は好奇心で見た。


「心配しなくてもあの絵のことはあの人父親には黙っておくし、バレないように協力もしてあげる。だってこんな面白…興味深いことはないからね」


ああ、しっかり見られてる…。

珍しく話しかけてきたと思えばとてつもない嫌がらせだ。脅してこないだけマシだが、ある意味脅してくるよりタチが悪い。


もうダメだ。

下手したら一生おもちゃにされる。




でも父にバレないように協力してもらえるのだから利が無いわけじゃない。

この次兄は昔から父親にバレないように行動するのが上手だった。

ピアスやバイクなんてバレたら大目玉を食らうにきまっているのに約10年バレずに楽しんでいる。

力強い味方だ。


とは言っても対価が大きくないだろうか。

しかしを知られた以上逆らえる訳もなく。

俺はうなだれることしか出来なかった。




数日後、長兄に「話は聞いた。応援しよう」と言われあの人にバレたのが運の尽きだと悟ることになった。

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