優しい思い出
母親との思い出はふわふわしていて時折夢なのではないかと思うことがある。
優しい世界。
桐生聡ではなく、ただの息子でいられた時間。
戻りたいかと言われれば、どうなのだろうか。ただ、時々無性にたまらなくなる。
なんでパーチェにあの頃の話をしてしまったのだろう。
あの頃は、きっと普通の家庭だった。
母親が笑っていて、嬉しくて、僕も笑って。
兄達は母親に聞いてもらおうと色んな話をして。
兄達は跡継ぎ教育を二人とも受けていて、僕と兄弟仲は希薄だったけど、でも、きっと今ほどじゃなかった。
父親も母親が微笑んでいるのを見て嬉しそうにワインを飲むのがいつもの夕ご飯の時間だった。
だけれど、その【いつも】を見ることはきっと二度ない。
家族の核だった母親がここにはいないから。
母親が療養のために別荘に行ったのはいつだったか。
それから母親には一切会えていない。
その日から核の失った家族は縛り付けなければ存在できなくなった。
僕が生まれなければ。
お母さんは僕を産んだせいで体を壊した。
だからきっと、僕が生まれなければ家族は家族のままでいられた。
お母さんがお父さんの言うことを聞くいい子でいることを望むのならば。
それならばいい子でいよう。
いい子でいればきっとお母さんも戻ってきてくれる。褒めてくれる。
だから。
お願いだからそんな目はしないでくれ。
俺は幸せだ。
パーチェ。
君の愛を認める訳にはいかないんだ。
俺はこれで幸せだから。
だから、──────────
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます