上げる女
最近、運がよく調子の良い友人がいるのだが、
彼の幸運は私のおかげに違いないと思っている。
彼には恋人ではないが、もう二年ほどの付き合いになる女性がいる。
その女性がなかなかに運のある女性だという。
なんでも友人曰く、
彼女を抱いた翌日には馬券は的中、面接は通過する、胸の大きな美人と出会う、試験の山は当たる、失せ物は見つかる、と言った有様らしい。
霊験あらたかな神社でもそうはいくまい。
京都は吉田の本宮に参って、春日を一周参ればやっと釣り合うだろうか。
そう思って先日実行したが、美人を拝めてはいないし、馬券は外すし、単位も愛用のペンも落とした。面接は結果待ちである。
腹立たしいので後日の追記になるが、面接は落ちた。
さて、本題に戻ろう。
友人の幸運がなぜ私のおかげなのかという話だ。
そもそもこの女性との馴れ初めまで遡る。
友人とその女性を含む複数人で食事をした後、過程はともかく彼女が、私の部屋に泊まることになったときだ。
お互い疲れていたし、私もそんな気分ではなかった。
その上、大して仲良くもない年下の女性である。
私は気を使って床で寝ることを選んだ。
床に申し訳程度の寝床を用意しているとき、
彼女が尊大な口調で、手を出さないならば、横に寝せてやろうじゃないかと、提案してきた。
なるほど、他人の家に上がり込んでベッドを専有していることを忘れそうなほどの態度である。
とはいえなんの文句もない提案であり、あえて言うのならば、私の困窮故にシングルベッドである以上二人で寝るには窮屈だということぐらいだろう。
それでも喜んで隣に寝たのは当然である。
勿論、何事もなく朝を迎え、晴れ晴れとした気持ちで彼女を追い出し、二度寝を決め込んだ。
さて、話の本番はこの後である。
どうやら後日、彼女は件の友人の家に転がり込んだらしい。
私以上の節操なしもいるもので、
友人は迷いなく手を出した。
全くもって、一切の迷いもなかったであろうことは察して余りある。
ここまでならばなんてことのない、美味しい話を逃したヘタレが一人いただけの話だ。
もちろん続きがある。
ことが済んだあと、私が手を出すことなく家から放り出したことを語ったらしいのだ。
彼女としては私程度が相手にしなかったことをプライドが許さなかったのだろう。
心情を理解するのは難しくない。
あとは簡単な話である。
彼も手慣れたもので、私を出汁にして彼女を口説いた。
それについては、私もよくやるので全く文句はない。
しかし、そのせいで私に不能疑惑がつきまとったことに関しては恨み言の1つや2つでは済まない。
いや、少しその疑惑を利用したこともあったので、イーブンとも言えるかもしれない。
とはいえ、全て済んだことである。
とにかく、彼がいまその女性と関係が続いているのは何をどう見ても私のおかげであるし、
きっかけを与えたのすら私だと言える。
これは、彼の幸運が私のおかげと言っても過言ではないだろう。
ここだけの話、一万円ほどの彼からの借金は、彼の贔屓の馬が勝ち続ける限り返済期限が伸びるであろうことだけは付け加えておきたい。
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