第72話 シンデレラさんに学ぶ

 夏の甲子園が終わってから、俺たち弘高野球部の2学期はイベントの連続で突っ走っていた。関西観光が終わってから学校に戻り、弘高生徒の大半とOB、地元有志による盛大な出迎え。すぐに始業式で演台に並んで全校生徒からの拍手。OB会主催の準優勝祝勝会、そしてすぐに国体出場への壮行会やら何やら。

 9月末には国体に出場し、またも準決勝で京浜義塾を下し、決勝戦では2年生が抜けて若干弱体化した光陵学院に勝利して優勝を勝ち取った。そしてまた国体の祝勝会やら全校集会での勝利報告やら。

 10月に入れば3年生が抜けて公式試合が不可能になったが、中間テストや体育祭などの定期テストや学校行事をこなす事となった。ちなみに体育祭では山崎が短距離走系の種目で無双状態であり、特別種目のクラブ対抗仮装リレーでもトップでバトン(野球部は金属バット)をキャプテンに手渡していた。アンカーのキャプテンはキャッチャーの装具フル装備だったので、周回遅れの剣道部と、追いすがるサッカー部と、ほぼ同時でテープを切っていたが。


 そして11月。今度は文化祭である。

 とはいっても、野球部としては特に何もなく(大会等は無いが、人数が少ない運動部という事で、部活での参加は不参加となった)クラスの出し物のみ、という事になったのだが。


「うちのクラスは、野球部および模型部の全面協力による展示となります」


 という事になっていた。これには、山崎の提案と、雑に展示物で1年の文化祭を乗り切ろうとするクラスの意向によるものだ。学校の文化祭の空気感を把握できていない1年のクラスなどは、こういう若干消極的な姿勢になる事も多いと聞く。展示は『弘前高校野球部の軌跡』である。

 軌跡といっても創部から今までの歴史とかではなく、今年の夏の県大会から甲子園決勝までの試合の軌跡を試合結果と写真で説明し、目玉として『最終決戦ディオラマ』と称される、約36分の1モデルの模型が最終回表と最終回裏とで、フィギュアの配置変更という形式で展示されるのだ。

 なお、内野の黒土は本物の甲子園の土を接着剤で接着して使用、その脇には山崎と俺が採取した【甲子園ミミズ】が入った水槽も展示される。そして準優勝の盾とメダル等。


 あとは甲子園マスクに関する展示も少々。これは本物が監修したため、本物が使用した装具と同じ商品が展示されたり、本人しか知らない情報などが少し混ざって展示されているような気がしないでもないが、それが分かる人など居ない。思い切り異彩を放つ怪しげな展示物となっているが、受け狙いのカオスな雰囲気は出たと思う。

 この若干雑ながらも相応に集客効果のある展示は、うちのクラスに俺と山崎という、野球部の勝利に大きく貢献したKYコンビが在籍している事によるものが大きい。おかげで当クラスは見張りを定期的に交代すれば、あとは文化祭を回り放題という事になる。


 なお、俺と山崎は貢献度が大きいという事で、見張りシフトからは完全に除外されている。やったぜ!!


※※※※※※※※※※


 文化祭準備は、模型部のディオラマ納品を待ちながら、展示物の製作と、ディスプレイ関係の製作を行う事になった。演劇や店舗営業の準備に比べれば楽なものだ。主に監修が仕事の俺と山崎は、資料の不備や記述間違いがないかを確認しつつ、個人持ち出しの展示物を担当者に預けたり置いたりしていく。


「ま、そういう訳で、文化祭当日は二人で回るとして」

「確定なのかよ」

 山崎がそう切り出すと、反射的にツッコミを入れざるを得ない。ただ、一人でブラブラするのよりはマシだ、という考えもあり、特に文句を言うほどでもなかった。何かこう、文化祭的な特殊イベントから弾かれたような気も、しないではないが。


「あと、あたし『ミス&ミスターコンテスト』にも出場するから。アンタの推薦って事で」

「聞いてないぞ?!」

 たった今聞かせたから、と山崎。


「たぶん今年はあたしが優勝するとは思うけど」

「えらい自信だな」

 見た目がいいし、今年の野球部バブルからすれば非現実的という程でもないが。それにしてもすごい自信だ。2年とか3年の組織票というものがありそうな気もするが。


「今年のミス部門はね、セクハラ抗議を恐れずに、なんと水着審査があるみたいなのよ!!だとすれば勝利は必然!!水爆攻撃で男子を悩殺してやるわ!!」

「それ大丈夫なの?」

「「「おおお――」」」


 俺たちの会話を聞いていたクラスの男子から歓声が上がる。実行委員会の暴挙とも言える決断、あとで問題にならなきゃいいが。


「まあ、『水着ではなく私服での審査』みたいな変更があったとしても、私物水着の上にエプロンを着用すればOKだと思うしさ」

「即時退場の案件だと思うぞ」


 頭の中で想像してみたが、どう見ても、なんちゃって裸エプロンというやつではないか。だがしかし個人的には水着審査を推したい。山崎以外の参加女子の水着も見られる、という事ではないかね。実に楽しみである。


「それはそうと、実行委員の男子」

「えっ?!はい、何でしょうか山崎さん」

 山崎が、たまたま近くを通りかかった文化祭実行委員を呼び止めていた。名前覚えてないのかな。大山だぞ大山。


「ディオラマの安全対策もそうだけど、準優勝盾とかメダルとかの貴重品に警備をつけなくて本当に大丈夫なわけ?長居する人は少ないと思うけど、人数が多くなったら何が起きるかわかんないわよ」

「……えぇ……考えすぎじゃ……」

「何を言ってんの。『まさか』が起きた後じゃ遅いのよ。『備えあれば憂い無し』って言うでしょ?君、『シンデレラ』の寓話を知らないわけ?事前準備が大事なのよ?!」

「……えぇ?!」


 大山が何やら驚いている。まさか、こいつ……『シンデレラ』を知らないのか。


「大山。もしかして『シンデレラ』を知らないのか?正確に言えば『真・シンデレラ』の事になるけど」

「なにそれ?!」

 俺の言葉に、驚きを返す大山。やはり知らないのか。


「……えーっと、ちょっと聞きたいんだけど、『真・シンデレラ』って、何……?」

 近くで話を聞いていたらしい、野球部ユニフォームのディスプレイ担当・田村が乗っかって聞いてきた。


「原作準拠のシンデレラの事よ」


 山崎が簡潔に答える。俺も続けて答えた。


「一般に知られてるのは米国企業アレンジの『ソフト版シンデレラ』だろ。原作のグリム寓話の第2版に近い、シンデレラが知恵と度胸で大暴れするやつだ。知らないのか?」

「知らねーよ。何だよシンデレラ大暴れって」

「あたしも知らない」「なんなのそれ」


 田村の返答に、そばに居た数人の女子も聞き返してくる。どうも、この年齢で知らない人というのも相応に居るようだった。そんな感じのクラスメイトに、山崎は語りだした。


「実母が死んで再婚した父。後妻と連れ子と仲良くやってたシンデレラですが」

「「あ、仲良かったんだ」」

「貿易商の父親が難破して行方不明になってしまい、収入が途絶え」

「「うんうん」」

「次第に火の車となっていく家計の中、使用人を全て解雇し、シンデレラが使用人業務の一切を引き受ける事でどうにか生活していました。義母と連れ子は生まれが裕福な家の出だったので、そこら辺に関しては全くの役立たず」

「「ああー」」

「父の残した財産を切り売りして生計を立てるシンデレラの家でしたが、いざという時のため、シンデレラは実母の残したドレスや装飾品などを隠し持っていました。もちろん、化粧品なども」

「「えええええ」」


 驚きの声が上がる。しかしシンデレラとは、こういう女子なのである。


「当時は街中の治安も悪く、見た目の良い若い娘なんて、下手すりゃ路地裏に引きずり込まれて疵物にされるっていうのが良くある話なんだけど。シンデレラは常日頃から肌の手入れを欠かさないと共に、仕事中と外出時には必ず『灰まみれ』の格好で、対性犯罪者対応ステルスを心がける、用心深い女子でした。これが『灰かぶり』の通称の由来よ」

「「「……えええええ」」」


 シンデレラさんは用心深いんだぜ。


「そして都市国家の支配者の王太子が、身分階級を無視した『花嫁候補コンペ』という舞踏会を催します」

「「それ言い方に問題ないかな」」


 実質的には同じ事ですよ。


「シンデレラの家でも、義姉は城の舞踏会に参加する準備をしますが、資金的な問題を理由に、『シンデレラ用のドレスまでは用意できないから』と、シンデレラは留守番業務を言い渡されます」

「「……おお……!!」」


 盛り上がってきたろう。ここからがシンデレラさんのカッコいいところだぜ。


「義姉たちを送り出したシンデレラは『こんなこともあろうかと』と、隠しておいた実母のドレスと装飾品を取り出し、灰を洗い流してステルスを解除し、ドレスを身につけ化粧と装飾品で武装し、【パーフェクト・シンデレラモード】に変身すると、舞踏会に殴りこみをかけます」

「「「おおおお――!!!!」」」「「シンデレラ!!」」


 なにやら観客が増えてきたな。


「並居る雑魚どもを鎧袖一触に薙ぎ払う、【パーフェクト・シンデレラ】の雄姿と破壊力!!有象無象の娘どもを問題とせず、シンデレラは王太子の目に留まります。……そして舞踏会が終わる頃。王太子はシンデレラを『泊まっていきなよ』と引きとめますが」

「「ええ――」」「「王太子ぃ」」


 まあ年頃で権力持ってる系の男子ですから。


「そこは自分を安売りしないシンデレラさん。のらりくらりと王子をいなして逃げ、義姉たちが帰宅するよりも早く、自宅に戻り【ステルスモード】へと戻ります」

「「ほぉ――」」「「さすがシンデレラさん」」


 ですよねえ。さすがです。


「シンデレラさんに逃げられ、悶々とする王太子。しかしシンデレラさんを諦めきれない王太子は、シンデレラさんが逃げる際に残していった、ガラスの靴の片方を手がかりに、シンデレラを探し出す事にします。もちろん今度は逃げられないように、【妻にする】という公約を掲げて。安売りしないシンデレラさんの目論見どおりです」

「「うおお――」」「「シンデレラさんパネェな」」


 すべては計画通り、なのですよ。


「ローラー作戦で年頃の娘という娘をチェックしていく王太子の使者。しかし一向にガラスの靴がジャストフィットする娘が見つからず、ついにはシンデレラさんの家に来ました。そこで義姉が靴を履こうとするのですが……足が大きくて入りません。もう後が無い王太子の使者は、『あの娘はどうか』と、灰まみれのシンデレラを指差します」

「「よしきたぁ――!!」」「「シンデレラ!!」」


 観客が興奮している。ふっ……義姉はそんなに甘くないぜ。


「シンデレラが前に歩み出る、その時……!!トンビに油揚げを攫われる危機感に冷静さを失った義姉が、『おおっと足が滑ったぁ!!』とか何とか言いつつ、ガラスの靴を全力で踏み砕く!!!!」

「「「「ええええええええ!!!!」」」」


 冷静に考えれば、そんな事したらタダじゃすまないと思うが。これが義姉の恐ろしさだ。


「慌てる王太子の使者。当時はもちろんガラス用瞬間接着剤なんてありません。これではもう確認はできない。唯一の手がかりも失ってしまった。王太子になんて報告すればいいんだろう……絶望に打ちひしがれる使者に、シンデレラが言います『だいじょうぶ』と」

「「どんな妙案が……??」」「「シンデレラさん……」」


 この話のクライマックスだぜ。


「『ここにもう片方がありますので』そう言いつつ、シンデレラはその豊かな胸元から、もう片方の【ガラスの靴】を取り出し、使者に見せます。舞踏会でも履いていた者はたった一人の、古今東西を見渡しても見たことの無い珍品、光り輝く透明なガラスの靴を!!」

「「「「おおおおおおお――――!!!!」」」」


 シンデレラが巨乳だったとか胸元からガラスの靴を取り出したとか、何か色々と山崎流のアレンジがかかっている気がするが、まあだいたいそんな感じらしい。そして興奮した観客からの『シンデレラ!!』コールが響き渡った。


「……そして灰を洗い流し、真の姿を現したシンデレラは王太子の使いの度肝を抜き、VIP待遇でそのまま城へ上がると王太子の妻になりました。そして義姉は公務執行妨害、義母もついでに何かの罪により投獄され、シンデレラは玉の輿で幸せになったという事です。【備えあれば憂いなし】というのが、この話の教訓よ」

「「確かに」」「「先の事を見据えて準備しないと」」「「用心こそが必要か」」


 出来る女、それがシンデレラさんだぜ。まあそもそも、ガラスの靴をわざと片方置いてきたところからして、シンデレラさんの計略だった訳だし、すべてはシンデレラさんの掌の上だぜ。ちなみに初版本に近くなればなるほど、グリム寓話集に収録されている話のホラー風味が強くなるという。


「ところでさ」

 大山が何か聞きたそうだった。


「優しい魔法使いのお婆さん、みたいのは出てこないの?」

「そんな都合のいい存在がいるわけないでしょ」

「現実的に考えて無理があるだろ」


 山崎と俺の答えに、「ええー」と、何か残念そうな声を出す大山。常識的に考えて、何の見返りも無しに支援を申し出る魔女とか、存在するわけ無いと思うけどなぁ。

 クラスの展示物では、観客が展示物を壊したりしてしまわないよう、また、何かの間違いで盗難などが発生しないよう、充分な安全対策について会議が行われる事になった。


※※※※※※※※※※


 その日、2人でいっしょに帰宅途中。会話の流れは文化祭準備の時の事になった。


「貴重品には専用の警備員もつける事になったし、これで大丈夫かしら」

「確かに紛失や盗難に遭ったりしたら大変だものな」

 準優勝盾とか、再発行してもらえる物でもないしな。2日目には一般来場もあるし。


「はっきり言って不祥事扱いになるしね。加えて、来年の新入部員の勧誘の際にマイナスになる事は間違いないわ」

「おお……来年の、新入部員か……」

 現実感があるような無いような、不思議な気分。確かに弘高野球部は人数不足で試合が出来ないし、もちろんまともな紅白戦もできない。来年春の新入部員をゲットしてからが本格再始動という事になる。それまでは基礎トレーニングがメインだものな。


「あと、盗難とか起きた日にゃ、地域イメージが悪くなって寄付金が」

「すぐに金の問題になるなあ」

 山崎の思考も関係してるけど。


「消耗品代は、お金がかかるからね。今回稼いだ……集まった寄付金の大半は、設備投資費と維持費に突っ込んじゃったし……まだ少しずつ集まってるけど、それで消耗品代を賄わなきゃならないんだから、無駄な出費も、収入減も許されないわ。あたし達は春のセンバツにも出ない事が決まってるから、冬から春にかけては、どうしても寄付金が減るし」

「世知辛いなぁ」

「部員が多くなれば練習球なんかの消耗品代は多くなるし……練習球は今まで通り、ある程度は修理して使うとしても……遠征費用もかかるしね。どのくらいの部員が集まるかは不明だけど。あと、平塚先生は中型免許を持ってるからマイクロバスの運転できるけど、維持費の関係でバス購入も見送られたし。レンタル費用も、場合によっては大型の観光バスチャーター費用も必要になるし。あと、遠征の交通費や備品代が寄付金で補えれば部費も抑えられるし、それだけ入部もしやすくなるでしょ?部員数の問題もあるけど、なんちゃって強豪校を維持するというのも、それはそれで金がかかるというか」


 最初に強豪校的な、月間・年間の負担金の予定金額を提示しなきゃいけないのよ、と。なにやら商売の契約みたいな事を言う山崎。もしかして俺たちが入部する時も、少ないながらもそんな話があったんだろうか。両親に渡したプリントに、そんな事が書かれていたのかも知れない。


「できるだけ新1年には練習をさせてやりたいけど、タダの労働力としてのマネージャーが確保できない場合は、誰かにワリを食ってもらう必要があるわね」

「ブラック企業のサービス残業みたいな事を」

「今までは大槻センパイが頑張っててくれたのよ」

「確かにな。俺たちも少しだけ手伝ってたが」

 お金と労働力の問題は、どこに行ってもついてくるものよ、と山崎。


「学生スポーツも金か」

「弱小は弱小なりに、強豪は強豪なりに、お金の苦労は絶えないものよ。ファンの支援無しにはやっていけないわ。イメージが悪くなって人気が落ちると一気に失墜するわよ」

 特に公立はね、と山崎。高校野球って人気商売だったのか。むしろ企業経営的な意味ではプロみたいな部分が出てきている気がするのだが。


「練習費用の名目で購入してもらった木製バットに面白半分で触る新入部員が居たら、即座にシメないとね……いや、未然に防ぐべく説教すべきか」

「弘高野球部の空気を壊さない程度にしてくれよ?!」

 いきなり一列に正座させられる新一年部員と金属バットを片手に説教する山崎の姿を想像して、いざとなったら止めに入らないといけない、と決意する。


「まあ、そんな訳で人生の謳歌には金銭問題が常につきまとう事を理解してもらえた所で、悟は来年のお年玉、とりあえず私が『よし』と言うまでプールしておくように。最低でも半分……いや、3分の2は残しておきなさい」

「なんか買うの?部の備品に供出?」

 必要な事なら、まあ仕方ない。だが用途は聞いておかねばならない。


「部の関係と言えば、そうなんだけど。プレゼント費用とか、パーティ参加費ね」

「プレゼント?誰に?あとパーティって何の」

 チケットを買えとか言い出すのなら、パーティ内容次第では断固反抗させてもらう。最終的に断れるか否かは別にしてだ。


「平塚先生の【結婚】が決まったっていう未確認情報が上がってきたのよ。ウワサによれば、来年の春休みにハネムーンが組み込まれるスケジュールで式が行われるとか。そんな訳で、情報が確定次第、あたし達は披露宴の日時に予定を空けないといけないわね。卒業式が3月はじめに終わったら、すぐ平塚先生のイベントという訳」

「ふーん」

 そうかあ。平塚先生の結婚か。そりゃプレゼントも渡さないといけないよな。


 聞きなれない情報の脳内処理に、少し時間がかかった。


「――――なんだと?!結婚ん?!」

「ちょっと前にお見合いしたみたいでね?お相手は平塚先生より少し若い、県内の学校の先生みたい。体育教師だったかな――?ま、平塚先生もそうだけど、相手の先生もすぐ結婚したい年齢だろうし。すぐ決めて学校行事に合わせて式を挙げるのも変じゃないわよ」

 平塚先生の地下争奪戦というウワサは真実だったのか。そのお見合いって、甲子園が終わってすぐじゃないのか?国体前か国体直後か。どういう事なんだ監督。


「まあ平塚先生は大人だし、お酒に酔ったあげく、責任を考えるような事をやらかした可能性は無くもないんだろうけど」

「それが本当なら教育者にあるまじき行いだ」

 学生教育の理想を掲げる人格者という評価だったはずだぞ。対外的には。


「先輩の卒業祝いも考えなきゃならないし、3学期末は練習以外も忙しそうね」

「まあ、おめでたい事ではあるな」


 是非とも近いうちに部室で問い詰めてやろう、インタビューアー的な感じで。そんな会話をしつつ、家路を歩く俺たち。


 甲子園を目指す事で始まった俺たちの1年は、どうやら平塚先生の人生の一大イベントで締めくくられるようだ。また、新入部員を迎えるその日までに、そして迎え入れたその時の事を考え、今のうちから準備しなくてはならない事は多そうだと、内部態勢的には弱小のままな弘高野球部の構成員である俺は、少しだけ気を引き締めるのだった。

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