第69話 体育祭の特別種目

『――8対7で、東雲商業高校の勝利!!――礼!!』

「「「ありがとう、ございましたぁ――――!!!!」」」


 試合終了のサイレンが鳴り響く。この後は2校だけの閉会式となる。全国の代表校が、ずらりと並んだ開会式とは違い、物悲しさも感じる全国大会の終了の儀式。最後の挨拶を交わす選手達の表情は対照的だ。勝利した東雲商業ナインは一様に泣き顔であり、敗北した弘前高校ナインは満面の笑顔。互いに共通するのは『喜びの感情』である。


「握手!!あーくしゅ!!」

 山崎がニコニコ顔で、正面の選手だけでなく、手当たり次第に握手しまくっている。


「いやー!!さすが!!」「ナイスプレイ!!」「お見事!!」

 他の弘高野球部員も、笑顔で賞賛の言葉をかけながら握手している。


「おっ!!MVPみーっけ!!」

 山崎が東雲商業の2塁手、吉田選手を発見して近づいた。


「ファインプレイ!!素晴らしい!!」

「あ、あざっす」


 山崎が手をつかんでブンブンを振る。最後の山田キャプテンの打球を止めたプレーを指して言っているのだろう。山崎に続き山田キャプテンを含めて、ほぼ全員がぞろぞろと吉田選手に集まってくる。


「最後の!!最高に良かったよ!!」

「努力が結実した瞬間!!素晴らしい!!」

「君こそが高校球児だ!!」

「ああいうのが見たかった!!」

「いやー、危険行為でなきゃ胴上げしたいくらいだわ!!」

 などと、めちゃくちゃ弘前ナインから賛辞を受ける吉田選手。


「あ、あざっす……」

 笑顔の圧に、若干引き気味の吉田選手。


 わはははは、などと笑いつつ、「応援団に挨拶いこうぜー」と、弘前ナインが立ち去るまで、吉田選手は半ば呆然としつつ握手しまくっていた。


「……あの連中、負けたのにスゲェ楽しそうだな」

「試合できるだけで楽しいって事か……」

「去年までロクに試合もできなかったみたい、だしな」


 万雷の拍手の中、笑顔で雑談しつつ3塁側へと歩み去る弘前ナインに、軽く頭を下げ、そして1塁側へと歩き出す東雲ナインだった。



※※※※※※※※※※※※※※※


「強豪の底力というものを見たな!!すばらしい」

「欲しいところでのファインプレー!!」

「正直、最後のキャプテンの打球は抜けると思ったわ」

「俺も意外な当たりの良さに驚愕した」

「努力と情熱が報われた瞬間を見た。これでこそ全国優勝」

「俺達も、手が届かなかったものの全力を尽くしたな!!」

「応援団にも地元にも胸を張れる!!初出場で充分な成果!!」

「むしろ同情心あおってさらにモテるんじゃね?」

「……え?俺、目薬用意してないけど」

「笑顔笑顔!!その方が爽やかイメージつくって!!」

「誰にも聞かせられないな、この連中の会話」

「ほんとひどい」


 集音マイクとか向けられてないだろうな。


 試合中のベンチでも「山崎ファインプレー出しすぎ」「お前は手加減しろ」などと、さらにひどい会話があったりもしたが「おいしいところを逃せるか!!」と、山崎の欲望まみれの言葉が返されていた。

 全力でプレーしつつも、面倒な所は覚悟を持ってる方々に持っていってもらおう、などという向上心の無い小心者の小市民の集団が、うまいことやって(東雲商がやってくれて)うれしい!!感謝感激!!という、実にチープな喜びに浸っているのである。


 ほんと、こんな連中が優勝しなくて良かった。真面目な球児がみんな泣いちゃうよ。


※※※※※※※※※※


 ――閉会式が、粛々と進む。


 開会式には大勢の高校球児で埋められていた内野も、たった2校の整列になると、やはり寂しく、物悲しく感じる。夏の祭りが終わる、そんな気持ちを誰もが抱く。


『――それでは、磯谷審判委員長より、今大会の総評をいただきます』

『……皆さん、猛暑の中、よく頑張りました。今年の大会も、色々とありました。中には学生スポーツの問題を提起するような事もありましたが、大勢の高校球児が、精一杯の力を振り絞り、野球というスポーツの素晴らしさを見せてくれた事に感謝の念を抱きます。優勝を決めた東雲商業高校、素晴らしい決勝戦のプレーで長年の目標を達成できました。準優勝の弘前高校、初出場でありながらも、決勝戦まで勝ち進み、最高の決勝戦を見せてくれました――』


 なんとなく、全校集会での校長先生の訓示とかを思い出すなぁ、とか思いつつ、審判委員長の言葉を聞く俺たち。


『――激戦の中には、5時間に達しようかという大会記録更新の、長時間の試合もあり』

『『『おお――』』』


 あ、それウチのやつですよね。第一試合の。ところで言葉をひとつひとつ切るのは、観客の皆さんのリアクション待ちなんでしょうか。関西的に。


『――最多安打数、最多本塁打数を更新するという試合もあり』

『『『おお――』』』


 それもウチの試合ですね。


『――全員安打を超えた、全員本塁打という新記録項目の樹立もあり』

『『『おおお――――』』』


 それもウチのやつですけど、あれは風のせいですよ。甲子園の妖精さんの仕業。


『――大会を通して10割打率で試合を終えた選手も現れました』

『『『おおおお――――!!』』』


 ウチの暴れん坊の件だな。俺は三振してるから10割ではない。


 ――何やら、総評の半分近くが弘前高校ネタなのだが。なんでなんだろう。何かしらの新記録ネタとかが出る度に、残った観客から『おお――』とか声が上がるんだけど、ウチの野球部の場合、何かのきっかけを作ってるのは、あの暴れん坊ですからね。他のチームメンバーは、わりと普通なんですよ。打撃だけは自信あるけど。


『――弘前高校の大槻さんの走りには、見ている人たち全員が勇気をもらいました』

『『『うおおおおお――――!!!!』』』『『『ナイスガッツ!!』』』


 弘前の列の端っこから、大槻センパイの「ひぃー」という小さな声が聞こえた。やはりこの審判委員長も関西系のノリがある気がする。選手いじりというか、オチを持って来ようとするあたりが。しかしなんで大槻センパイだけ歓声にオマケがついてくるんだろう。というか、今までのリアクションでいちばん歓声が大きいぞ。

 ともかく、閉会式は粛々と進んだ。深紅の大優勝旗が、記念盾が、優勝メダルと準優勝メダルが、お互いのチームに貸与、授与されて――閉会式は、終わった。


 ここに、弘前高校野球部の夏は、ひとつの終わりを迎えたのである。

 最終日程まで勝ち残り、全力で試合を楽しめた――最高の、夏だ。



※※※※※※※※※※※※※※※


「――さて、皆さんお待ちかね!!の、時間です」

 山崎の言葉に、皆がうなずく。


「うむ。【甲子園の土拾い】の時間だな」

「相場ってどんなの」「わかんね」


 今まで涙に濡れて甲子園の土をスパイク袋に詰める相手チーム選手の様子を見てきてはいたが、どのくらい詰めるのが相場なのか、そんな知識が俺たちにあるわけもない。今まで御縁が無かったというのもあるが、そういう情報って出回らないしな。ともかく、悔し涙のいっさい出ない土拾いである。


 途中で負けたチームの場合、次の試合の都合もあるのか、ベンチ前の土を集めてる所しか見たことないけど。確か決勝戦とかの時間に余裕がある試合後の場合、ピッチャーとかはマウンドの土を記念にもらっていたような?キャッチャーは知らないけど、ホームベース周辺の土とか、かしらん?


「あのー。袋からはみ出してもOKですか?」

「スーパーの詰め放題じゃねえよ!!」

 山崎がその辺のカメラマンを捕まえて質問していたので、思わずツッコミを入れる。


「うーん。じゃあ半分くらいで。……いや、もう少し多めで」

「欲張るなよ!!そんな事より、お前は最終回の投手なんだし、マウンドの土でももらって来いよ。カメラマンの人もそれを待ってるんじゃないの?」

 さっきから、何人かのカメラマンの人が待ってるんだよ!!


 決勝戦の場合はもう後に試合が無いからあんまり邪魔にならないし、守備位置の土を拾うのも多少は認められてるみたいだしな。投手がマウンドの土を記念にもらう写真とか、時々見かけるし。早く行ってやんなさいよ。


「――あっ!!そうだ!!アレ欲しい!!悟、手伝って!!」

「へ?――なになに、どこ行くの?!」


 山崎が俺の手を引っ張って、外野へとダッシュする。比較的踏み荒らされた感の強い、外野の定位置周辺。そこでしゃがみ込み、外野の天然芝をトントン、トントン、と叩きながら。


「アンタはそっちから」

「……まさか……捕獲するつもりか……」


 山崎の『やりたい事』を理解した俺は、少し離れた場所から、天然芝をリズミカルに叩きながら範囲を狭め、探っていく。子供の頃にやった作業だ。もしかして、これに失敗したら、この暴れん坊は外野の芝生を剥がすつもりじゃなかろうな……。どうにか出てきてくれ、と祈りつつ、周囲の視線を気にしながら作業を手伝った。


※※※※※※※※※※※※※※※


 インタビュー等を終え、宿に戻って一息つく俺達。


「ところで山崎、外野守備なんてしてないのに、外野の土が欲しかったのか?」

 仲間の大半が疑問に思っているであろう事を、平塚監督が聞いてくる。


「欲しかったのはこれですよ。やりました!!」

 満面の笑顔でベンチ前の仲間に報告する山崎。


「え??何を??」「外野の土??」「芝生を毟ってきたのか?!」

 ちがいますよぉ、と言いながら、スパイク袋の中の土をゴソゴソやって、中から取り出したものを、大槻センパイの目の前に突きつける。


「ふぎゃ――――!!」


 思わず仰け反る大槻センパイ。やめろよそういうの!!


「これが甲子園外野名物、【甲子園ミミズ】よ!!」

「別に甲子園球場の固有種とかじゃないだろ。どうすんだよソレ」


 ――甲子園の外野は、天然芝である。ファールゾーンの一部などは人工芝が使われているが、外野の緑色の部分は天然の芝生であり、栄養、水分の管理には充分に気を遣われている。そのため、外野の芝生の土には相当数のミミズが生息しており、ときどき地面に現れては外野手をビックリさせたりするのだ。

 なお、ミミズは特定の振動を感じると、天敵のモグラ等が接近してきたと判断し、地上へと逃れようとする習性を持っていたりする。この習性を利用し、一部の釣り人はミミズの生息する環境でミミズを捕獲したりするのだが……甲子園のグラウンドに入った記念に、土そのものではなく外野のミミズを欲しがる女子というのはどうなのか。男子でも欲しがらないのに。レアリティか。ただそれだけなのか。


「家庭菜園に放すわ」

「畑にもミミズはいるだろ」


 当たり前の事だけど。


「このミミズに畑の土を耕してもらって、豆を栽培する。名づけて【 甲子園大豆 】!!」

「販売とかするなよ!!絶対にモメるから!!」


 甲子園球場の固有種でもない限り、放して柴村さんちの畑の土に馴染んだら、もう甲子園関係ないじゃんか!!限りなくインチキに近い商標名の名物商品みたいなやつ!!


「それよりも、逃げないようにビニール袋と段ボール箱が必要かな。あと餌にそこら辺から落ち葉でも拾ってきて入れとかないと痩せちゃうかも。とりあえず、水道水でもかけとこう」

「あっと言う間に甲子園から遠ざかってしまうぞ」


 関西ミミズ(甲子園系)とかいう感じのやつじゃん。


「つまり来年からは、甲子園野菜と甲子園大豆で『育成』された弘高野球部員が夏の大会を目指すわけよ。オーガニック的な意味での甲子園エリートの育成ね!!」

「選手の『育成』ってそういう意味じゃないと思うんだが。あと露地栽培では大豆は初夏蒔きで収穫は秋だ。枝豆として食うにしても県大会が始まってる。豆は間に合わん。冬春の葉物野菜ぐらいしかダメだろ」

 山崎に畑仕事を手伝わされているから、この程度の農業知識ツッコミはできる。


「じゃあとりあえず、秋捲きの【甲子園ほうれん草】と【甲子園大根】で。……あれ?これ本当に商品としていけるんじゃあ……」


 真剣に悩む素振りを見せる拝金主義者の姿がそこにあった。


「だからやめろ。商品アイデアを持ち込んだ方が現実的だ」

「それだ!!」


 それだじゃねえよ。



※※※※※※※※※※


 翌日。弘前高校野球部は、甲子園旅行(主観)のボーナスである、関西観光に出かけるために手荷物をまとめていた。なお、もう1泊宿泊した上で地元に帰る予定なので、チェックアウトでバタバタする事もなく、引率つきの集団行動だがとても気楽で、とても身軽なものだ。翌日は午前にチェックアウトして新幹線で地元へ。駅から専用バスで学校に戻り、お出迎えを受ける予定である。


「さぁー!!観光しながら食べ歩きだな!!」

「串カツ!!」「カツだと肉だけだろ。串揚げって言わないと」

「明石焼きから始めてタコ焼き、お好み焼き、焼きそば……」

「肉吸いってのを食べてみたい」「イカ焼きも」

「お土産時間は夕方だよな?」「明日に買うなら駅しかないぞ」


 などと雑談しつつ、駅前の屋台を襲撃するところから始めた。あとは電車で移動しつつ食べ歩きの小旅行である。


※※※※※※※※※※


「――で、ちょっと皆に話しておく事があるんだけど」

 お好み焼き屋の鉄板の前で、山崎が話し出した。


「みんな、『国体』の話って、まだ聞いてないよね?」

「「「 『国体』?? 」」」


 しってるひと、きいてるひと手をあげて――、と山崎が呼びかけたところ、手を上げた仲間は皆無だった。


「やっぱり。キャプテン、『国体』って、どんなスポーツ大会か知ってます?」

「……いや、よく知らない」


 ですよねー。と山崎。俺も知らん。


「あたしも最近まで知らなかったし、平塚先生も聞いたのはごく最近らしいんだけど」


 つまり最近まで誰も知らなかったと。


「『国体』っていうのは、『国民体育祭』のことよ」

「「「うそつけ!!」」」


 すかさず全員の突っ込みが入る。確か正式名称は『国民体育大会』のはずだ。そのくらいは知っているぜ。詳しいことは全然知らないけどな!!


「それがそうでもないのよねー。確かに正式名称は『国民体育大会』なんだけど、内訳としては『体育祭』らしいのよ」

「「「……ええ――――?!」」」


 にわかには信じられない、という声を出す仲間たち。野球に関わる事じゃないしな。


「大槻センパイ。『弘前高校体育祭』って、どんな感じですか?」

「えっ?……えーと、1年から3年までが1チームの単位を作って、競技によって加算されるポイントの総合点数で総合優勝チームを決める、そんな感じ?あたしは走る競技には出ないけど」


 そりゃそうですよねえ。あの足じゃ。そんな感じでうなずく仲間を見て、山崎が続ける。


「基本的には同じです。『都道府県対抗の、全国規模の体育祭』が、『国体』でね?ポイントが入る正式競技に参加したり、上位入賞したりするとポイントが加算されて、男女の総合得点で優勝すると『天皇杯』が、女子の総合得点で優勝すると『皇后杯』が授与されるという。国民体育大会という名前だけど、別に国民体育祭でも、だいたい合ってるという感じ。ただ、国体は全国大会だから、競技によっては予選もあるわけで、出たいからといって出られるわけじゃないのよね。だから参加する(できる)だけでもポイントが入るんだけど……開催地は持ち回りで各都道府県が受け持つ事になってて、費用も基本は開催地持ち。そのため地元は基本的に『全競技に参加できる』事になってて、参加ポイントがいちばん多く入る事になっててね。基本は開催地が優勝するみたい」

「「「……なにやら残念な情報を聞いた……」」」


 地元有利な理由が残念なんですけど。システムに不具合ありませんかね。


「で、高校球児があんまり国体に興味ない理由が、ちゃんとあります」

「「「ほほー」」」


 お好み焼きをつつきながら話を聞く。もちろん山崎も食べながら話している。


「国体の本大会が開催されるのは秋なんだけど、高校野球の秋季大会日程と日程がかぶるわ、そうでなくても高校球児の3大大会は年中予選やら何やらやってるわ、あと夏の甲子園が直前にあるわ、もろもろの理由でまともに予選なんかやってられないのよ。そのため、国体には、高校野球という正式種目はありません」

「「「ほぉ――」」」


 お代わりを鉄板に流しながら、山崎の話を聞く俺たち。


「代わりに、ポイントの入らない『特別種目』としての高校野球、という種目はあるんだけど。県に勝利ポイントは入らないし、専用の予選も無いし。他の競技はインターハイが予選を兼ねてたりするし、個人競技だと国体の順位がオリンピックの選考ポイントに大きく関わったりして、わりと重要なんだけど。『特別種目』の高校野球、名誉的な意味合いの強いエキシビションマッチみたいなもん、なのね」

「「「ん――――?」」」


 山崎の言葉に、首をかしげる一同。その心を代弁するように、俺は手を上げる。


「はい山崎せんせい」

「質問をどうぞ、北島くん」


 お好み焼きを分解しつつコテで俺を指す山崎。


「それでどうして俺たちに国体が関係するわけ?」

「そりゃ、あたし達に参加要請が来るからよ」


 なんですと?!

 思わず口に入れたお好み焼きを飲み込む仲間たち。


「特別種目って事で、県代表が出なくて12チームくらいなんだけど。どうもそのうち8チームが、夏の甲子園のベスト8という事らしいのよね。残りは何かよくわからない選考委員会が決めるみたい。あたし達もベスト16止まりだったら関係なかったんだけど、準優勝しちゃったから。他の正式競技だと、県下有力選手を集めたドリームチームを組んだりする事もあるみたいだけど、高校野球は甲子園ベスト8に残らないと、ほぼ参加できないから。しかも開催時期が時期だから、基本的には3年生だけが集まって参加するみたいなのね。1年2年の有力選手は春のセンバツのために秋季大会で鎬を削っている真っ最中だし。まあ、3年生のためのボーナスステージみたいなもの、らしいわよ?」

「「「……お、おおお……」」」


 コテを動かす手が、少しばかり止まる俺たち。


「名誉ある大会だから、普通は辞退なんてしない。3年生が人数不足だと辞退する事もあるかもしれないけど、その場合は普通、秋季大会を優先している場合だからね?春のセンバツは3月末開催だから3年生は参加しない。弘高野球部は自動的に秋季大会不参加で、今期最後の公式大会は『国体だけ』って事になるわけです。3年生の皆さんには、引退をもう少し待ってもらう事になりそうです。どうせ学校を挙げて『つぎは国体がんばって――!!』ってなってると思うし。弘高野球部の応援グッズはもう少しだけ販売益が上がりそうね」

「「「そういう事だったか……」」」


 次は国体か。……ん?ベスト8の学校が全員参加?


「3年生メインの学校なんかは、『甲子園のリベンジじゃー!!』とばかりに、弘高野球部を目の敵にしてくるかもねー。…………京浜義塾とか。あそこ3年生だけのチームだったし」

「「「ゲェ――――ッ!!!!」」」

 嫌過ぎる!!


 2年のレギュラーやベンチ入り選手がいるチームは弱体化してるだろうが、夏の甲子園のベストメンバーのチームが復讐戦に燃えて挑みかかってくるとか、気が重いわ!!


「ウチはウチで夏の大会と同じメンバーで参加する事になると思うし。というか、大会は9月末からみたいだし、その頃には岡田先輩の骨折も治ってるでしょ?本来のフルメンバーでの試合ができるってわけよ。ま、賞金が出るわけでもないし、優勝しても賞状とメダルだけだし、県の得点に貢献する訳でもないし。ついでに言うとテレビ放送も決勝戦のダイジェスト映像がちょっとだけ流れるくらいみたい、らしいし。要は全国規模の交流戦なわけだから、気楽に今年最後の公式戦を楽しみましょうよ。また、寄付金で食べ放題の宿に泊まれるだろうしね!!」

「「「おお!!それはいいな!!」」」


 食べ放題の旅行で野球やってきていい、というのは確かに楽しそう。あと意外に気楽そう。


「今度は決勝戦に残ったら、大槻センパイを打席に送り込もうかな!!」

「やめてよおおお!!」


 一人だけミニサイズを食べていた大槻センパイが、お好み焼きを断ち切りながら叫ぶ。そんな大槻センパイに、『だいじょうぶ。コアな高校野球ファン以外は注目してないから』などという慰めのような言葉をかけつつ、大槻センパイのお好み焼きを自然に食べる山崎だった。


 大きな大会の勝ち残りボーナス的なものに全く御縁が無かったため、てっきり夏の甲子園で公式試合は終わったものと思っていたが、まだ『国体の特別種目』としての公式試合が残っているようだった。12チームだと、シードに入れば3試合、無くても4試合。

 深紅の大優勝旗がかかってるわけでもないし。最後まで気楽にやれそう。校長室に賞状を追加するのも悪くない。たぶん1週間程度の小旅行だろうし、できるだけ長く食べ放題を満喫できるように頑張ろう。タダで美味しいものが食べ放題というのは、実に良い事だ。


 お好み焼きをムシャムシャと食べる。今度も決勝まで勝ち進んだら、こんな感じの食べ歩きボーナスはもらえるのだろうか。どこの県で開催されるのかなぁ、名物は何だろう。などと考えながら。

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